02 血
陽光を拒絶するかのような血塗られたカーテン。
部屋の真ん中にはエリザベス様式のテーブルと椅子。
窓から一番遠い隅には何が祀られているのかわからないような祭壇。
そんな部屋に通された秀之は悪態をつく。
「ここで、話し合うのか? 落ち着かねえだろ」
黒い羽根だらけの服を着たマネキンの頭を叩く。
晴臣のショップの奥にある一室。
何かと相談を持ち込まれる晴臣が、わざわざ設えた部屋だ。
「居酒屋だの、ファミレスでする話じゃないだろ。晴臣さんが用意してくれたんだ、謝れ」
「ははは、良介君。いいよ、訳わかんないでしょ? あちこち回って気になったら買って来てるやつだから」
晴臣は二人に着席を促すと、店のドアが開いた事に気付きそちらへ顔を向けた。
「アキが来たようだ」
秀之と良介、対面にアキと晴臣。
挨拶を交わし、それぞれが席に着く。
雑貨店の従業員の怪しげな女性がペリエを置いて出ていった。
「⋯⋯水。この部屋で」秀之が呆れた顔をした。
「さて、アキも来たし、本題に入ってはどうだい?」
晴臣に促され良介が頷き、話を切り出した。
「京ちゃんから聞いてるかも知れないけど、ルアードを抜けてソロになるんだ」
「聞いてます」
アキの顔に苛立ちが浮かんだ。
アキはすぐに表情を戻したが、秀之はそれを見逃さなかった。
良介は続けて、解散は考えられない。新たにヴォーカルを迎えたいと語った。
しばらく様子を見ていた秀之の視線にアキが気付いた。
顔を上げ、秀之を束の間見返す。
戸惑いと救いを求めるようなまなざし。
──何だ? 今のは。
秀之は今目に映ったものをどう判断していいのか分からなかった。
「それで、俺達はアキ君にやってもらえたら、と思ってね。いきなりこんな事を言われても、すぐには答えられないだろうけど」
「そ、是非、アキにやってもらいたくてね」
良介に続き、秀之が身を乗り出して言う。
「──どうして」アキが口を開く。「どうして、俺なんかを?」
良介と秀之は顔を見合わせ、「秀之の方がわかってそうだし」と良介は促した。
「アキのパフォーマンス、ルックス、方向性。全て文句なしだ。セデューサーは分裂状態だっていうし、いつでも引き抜けると思ってさ」
「⋯⋯ひとつだけ、訊いていいですか? 俺を誘うのは京也に言われたからですか?」
挑むような目を秀之に向けてアキは問うた。
──アキのおかしな言動はこれか。京也か。
秀之は内心思う。
「いいや、京ちゃんは関係ない。京ちゃんに言っても言われなくても、答えは同じだよ」
アキを正面から見返す。
「アキは、京ちゃんを超えられる」
「ジュ〜ン、早く開けろー」
秀之、怒涛のインターホン押し。
「うるせえな。一回鳴らせば聞こえるよっ」
アキとの話し合いが終わった後、秀之は馴染みの場所へ向かった。
小学校時代からの友人、斉川淳のマンション。
長い黒髪に大きな目が印象的だ。スリーピースバンドのギター兼ヴォーカル。
派手に売れてはいないがメジャーで活動している。
「で? いきなり何? その手に持った酒とつまみで、呑みに来たってか?」
「いや、違うな。語り合いに来たのさ」
「なにそれ? キザか」
「⋯⋯で、一体何を語り合いに来たのかな?」
壁に背を預け、ひと言も話さず渋面のまま呑み続ける秀之に、淳は痺れを切らせた。
「んー?」
「さっきからずっと、煙草ふかしながら呑んでるだけじゃん。考え事なら俺の家でしねえで、自分の家でしろよ」
「冷てえなあ」
「何を今更。ガキの頃からの付き合いだろ?」
「だったら黙って呑むのに付き合ったっていいんじゃねえの?」
秀之は淳の両側のこめかみにグリグリと拳を当てる。
ふう、とため息をついて、淳は秀之の手をどける。
「嫌だね。本当はそうじゃないだろ? 自分で結論が出せないから来たんだろ? そうなら黙ってないで言ってみろよ。聞いてやるから」
「セデューサーのアキ? ⋯⋯って、あの女顔で英語のうまい奴?」
「なんつう、形容。その通りだけどよ」
秀之は淳にアキをルアードに誘った旨を伝えた。
だが、どうにも京也を意識しているような気がする、と懸念を話す。
「十年前初めて会った時も、今日も、普通の従兄を見る目じゃない気がする」
考えに沈むように俯きながら秀之は告げた。
「それってさ、従兄だからって言う風には考えられない?」
「⋯⋯え?」
今ひとつ飲み込めていない秀之に、淳は少しずつ噛んで含めるように言う。
「年も近いし、やってる事も同じヴォーカリストだ。意識すんのは当たり前じゃない? 他人にだって起こる感情だし、従兄に対してもあり得なくないよ。ただの他人より大きなプレッシャーにならないか?」
ゆっくりと顔を上げ、秀之は淳の顔を見る。
淳は窺うように首を少しかしげた。
「どう思う?」
ラフ画は斉川淳。
対バンになった人達くらいしか興味がない男。
たまたまセデューサーがイベントで一緒になったので知っていた。




