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虚飾の水鏡  作者: 麻生あきら
幕間

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6/6

01 視線

 薄暗がりに地下へと続く狭い階段。

 黒尽くめの男二人が降りていく。


 壁にはB5サイズのポスターが何枚も千切れ、重なり合い、ところ狭しと貼られている。

 扉を開けると爆音。


「ああ。もう始まってるな」

 一人がバーカウンターへ移動する。


「あれ? 晴臣さん。どうかしましたか?」


 カウンター内の従業員が声をかけたのは、橘晴臣。 

 年齢不詳で通っているが、おそらく三十代前半。

 黒いロングジャケット、黒革のパンツにブーツ、腰まで伸ばした金髪。


 海外も含めインディーズのCDやカセットテープ、ソノシートなどの音源の委託販売、中古ギターや音楽関係に拘らないグッズ類を並べたショップを経営している。

 その傍らインディーズレーベルを立ち上げ、自らもステージに立つ。

 仲間内では『インディーズ界の相談役』と呼ばれている。


「ああ、セデューサー観に来た。あいつと」


 晴臣は、後からやって来た男を指さす。

 明るくブリーチした髪、黒のライダースジャケットにブラックジーンズ。

 食い入るようにステージを見ている。


「え、ルアードの?」驚く従業員に手を上げ、晴臣はビールを二つ手に連れの元へ向かった。




 チリチリと引っ掻くようなギター。ギリギリ合っているリズム。

 不協和音の中でマイクスタンドに手を掛け、歌う。


「あれがそう?」

「そう。セデューサー。で、あれがアキ⋯⋯清水暁人だ」


 恐怖心を煽って自分の領域に引き摺り込む。

 毒々しさを伴い、狂気をはらみ虚空を睨みつける瞳。

 能代秀之の視線の先で、ステージ上のアキは笑った。


 秀之の背筋に寒気が走った。

 ──なんだ? あれ。


「それで、どう? 使えそうか?」


 晴臣が声をかけた時、ステージを捌けるアキはおもむろに手を開き、マイクを落とす。

 落ちたマイクを見て、アキは唇を吊り上げた。


「──なんて目だ」

 秀之は呟く。


 客席の照明が点けられ、周りの観客たちがにわかに騒ぎ始めた。

 彼らの視線の先には土屋良介と瀬川竜二。どうやら目的は秀之たちと同じようだ。

 秀之は軽く二人に手を振る。気付いた良介は出口に視線を送り、竜二と揃ってライブハウスから出ていった。

 そっと晴臣と二人を追った。




「付き合わせてしまってすみませんね、晴臣さん」

 良介は自宅マンションに三人を招き入れた。

 途中で調達した酒とつまみを並べる。各々好きに手を伸ばし、煙草をくゆらす。


「かまわないよ。今夜はコイツと呑む予定だったしね」

 秀之を指差し微笑む。


「では、遠慮なく」

 良介は晴臣にセデューサーの現状と、清水暁人についての見解を求めた。

 晴臣は言葉を選びながら、出来るだけ公平な立場で話し始めた。


 バンドの始まりは学生時代。

 この一年はアキとジェイの間に意見の相違が出てきている。

 もともとリズム隊が流動的で、いつ解散してもおかしくはない。

 だが、すでにセデューサーの顔であるアキのステージパフォーマンスを、ジェイが手放せないでいる。


「アキの言い分は?」良介問う。

「⋯⋯俺はアキとは、あまり親しくないから」晴臣は言い淀む。「ジェイが言うには辞めたい素振りはあるらしいが、口には出していないようだ」


「⋯⋯晴臣さんは、アキがルアードに合うと思いますか?」


 良介の問いに晴臣は、「部外者だから何とも言えないが、使えるとは思う」そう答えた。

 おそらくルアードとアキのやりたい方向性は同じ。

 アキを京也と同等、もしくはそれ以上と思えるのなら、君達が決めるといい。

 そう話を続けた。


「俺は⋯⋯、悪くないと思う」秀之は口にした。「なあ、良介。ずっと聞きたかったんだけど、お前どこからアキの事を聞いた?」


「俺は前から知ってるぞ。何度か会ってる。お前だって会ってる」

「え、うそ。いつ?」

「ええと、十年前? 京ちゃんの家で。あの二人、いとこ同士なんだよ」




「悪いねえ、徹夜で付き合わせて」

「いいよ、良介君の家に行った時点で泊まりになるだろうと思ってたからね」


 早朝に似合わない黒ずくめの男二人が駅に向かって歩く。

 幾分酒が抜けていない身体が重い。


「仲介まで頼んじゃって悪いかなーって。でも、ジェイに恨まれないかな?」

「橋渡しは慣れてるからいいよ。それにジェイもこれ以上続けられないのはわかってるようだし」

「そうか。なら改めてお願いしますよ。インディーズ界の相談役殿」




 帰宅後、ドサリとソファに身を沈める。

 秀之は思い出した。

 十年前にアキに京也の家で会った事を。


 アキは京也を見た。

 夕べと同じ、ゾッとするような目で。

 睨んだのではない。目を見開き、憎しみの隠せない視線。

 ふいに秀之に気付き目が合った瞬間に、それは消え去り薄く微笑んだ。


 自分は怖いものなしな性格だと思っていたが、あれは本気で恐怖した。


 電話で良介に話す。

「反対か?」と聞かれたが、そんなことはなかった。

 実力もルックスも何も問題がない。

 むしろ上手くすれば京也を超えられるだろうとさえ思った。


「それに京ちゃんの推薦だしね」

 良介は言った。

 ──成る程、そこまで強く願っていたのか。




「離れる前に、秀之にお願いがあるんだ」


 京也から電話で告げられた。

 秀之にも京也はアキが継ぐ事を願った。


 今まで何も要求しなかった京也の願い事だ。

 できれば叶えたい。


 ただ、簡単な話ではないような、そんな気がした。 


挿絵(By みてみん)

主に秀之の視点からのアキ獲得への道。


ラフ画は橘晴臣。

この登場人物の中で一番折れそうな程痩せていて、年上。

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― 新着の感想 ―
楽しい!楽しいですね! 美麗イラストのおかげもありまして、出てくるキャラ出てくるキャラがみんなイケメンで脳内変換されております。(〃ω〃) 当時の業界の話〜というような雰囲気がたまらないですね。 社…
インディーズの相談役の晴臣、なんかカッコいいですね〜♪(*^^*) 京ちゃんのソロデビュー、アキのルアード加入。周りはよくても…なんか上手くいかない気がするな〜…心配だ〜
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