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虚飾の水鏡  作者: 麻生あきら
第二章 暁人

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10/10

03 調和

 かつて無いほどの緊張感。

 でも、今までとは違う。

 前に向かっていける、という高揚感。




 オールスタンディング、1,300人収容のライブホール。

 ファンクラブ限定イベント。


 リハーサルの合間、「いよいよだね、アキ」晴臣さんが淳さんを伴ってやって来た。

 会場も大きすぎないし、ファンクラブ相手ならそんなに気後れする事はない、と晴臣さんは言う。


 むしろ逆だ。気合の入っているFC相手だ。余計に緊張する。

 受け入れられるか正直不安でしかない。

 インディーズでたいした知名度のない俺だ。

 京也と違うパフォーマンスに納得してもらえるかわからない。


 メンバーとの話し合いで方向性の調整はした。

 彼らの演奏は、経験したことのない完璧な調和。

 ここではセデューサーの様な、煽って突き落とすパフォーマンスはいらない。


「大丈夫だよ、メンバーが認めたんだから。判らないやつはこっちから切り捨てるまでさ」

 そんな強気な事を淳さんは言って、秀之さんのもとへ行ってしまった。


「だからあいつは売れないんだよ。⋯⋯ああ、実はね。ジェイ」

 晴臣さんがジェイに向かって手招きして、入れ替わりにバックステージへ歩き出した。

 観たいが来づらいと言うジェイを、無理やり連れてきたらしい。




「どうだ? 調子は。ルアードの人たちは?」

 出会った頃と同じ。普通に気遣うジェイ。

 やる気は充分、と答える。


「みんないい人達だ。特に秀之さんは。キツい事言うけど、実は優しい」

「ああ、晴臣さんが言ってたな。大抵の奴には言いたい放題だけど、被保護者には優しいって」


 いや、待って。俺がそうなの?

 釈然としないな。


「アキ」


 変な気負いは捨てて、自分に自信を持て。

 他人の事は気にするな。

 お前の思う通りにやればいい。


 俺を真っ直ぐ見据えて、ひとつひとつジェイが口にした。

 俺はただ頷くばかりだ。


「そうすりゃ、お前はもっと伸びるはずだ。期待してるぞ。いいか? 判ったな?」


 ああ。

 ジェイに言われるのが一番、心強い。

 でも、優しすぎじゃないのか?

 だからこそ。


「ジェイ、俺、やれるだけやってみるよ」


 ジェイは少し驚いた顔をした。

 それから、笑う。


「その意気だ。さっきの事、忘れるなよ」


 それじゃ、また後でな。

 ジェイは右手を軽く振ってバックステージに足を向けた。

「アキ」立ち止まり、俺の名を呼ぶ。

 肩越しに俺を見た。


「この前、お前の事バカだって言ったけど⋯⋯」


「うん」


「俺の方がずっと、バカでお人好しだな」 



 ああ、本当にね。



挿絵(By みてみん)

『虚飾の水鏡』これで完結です。


「なにあっさり加入してんだよ。何も解決してねえぞ」

と、思われたでしょう。

お任せください。

続編『死の接吻』で舞台をロンドンに移して、ドロドロします。


ラフ画は大人になったアキ。

ひとつ前の京也と対になってます。


ひとまずこれでおしまいです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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