03 調和
かつて無いほどの緊張感。
でも、今までとは違う。
前に向かっていける、という高揚感。
オールスタンディング、1,300人収容のライブホール。
ファンクラブ限定イベント。
リハーサルの合間、「いよいよだね、アキ」晴臣さんが淳さんを伴ってやって来た。
会場も大きすぎないし、ファンクラブ相手ならそんなに気後れする事はない、と晴臣さんは言う。
むしろ逆だ。気合の入っているFC相手だ。余計に緊張する。
受け入れられるか正直不安でしかない。
インディーズでたいした知名度のない俺だ。
京也と違うパフォーマンスに納得してもらえるかわからない。
メンバーとの話し合いで方向性の調整はした。
彼らの演奏は、経験したことのない完璧な調和。
ここではセデューサーの様な、煽って突き落とすパフォーマンスはいらない。
「大丈夫だよ、メンバーが認めたんだから。判らないやつはこっちから切り捨てるまでさ」
そんな強気な事を淳さんは言って、秀之さんのもとへ行ってしまった。
「だからあいつは売れないんだよ。⋯⋯ああ、実はね。ジェイ」
晴臣さんがジェイに向かって手招きして、入れ替わりにバックステージへ歩き出した。
観たいが来づらいと言うジェイを、無理やり連れてきたらしい。
「どうだ? 調子は。ルアードの人たちは?」
出会った頃と同じ。普通に気遣うジェイ。
やる気は充分、と答える。
「みんないい人達だ。特に秀之さんは。キツい事言うけど、実は優しい」
「ああ、晴臣さんが言ってたな。大抵の奴には言いたい放題だけど、被保護者には優しいって」
いや、待って。俺がそうなの?
釈然としないな。
「アキ」
変な気負いは捨てて、自分に自信を持て。
他人の事は気にするな。
お前の思う通りにやればいい。
俺を真っ直ぐ見据えて、ひとつひとつジェイが口にした。
俺はただ頷くばかりだ。
「そうすりゃ、お前はもっと伸びるはずだ。期待してるぞ。いいか? 判ったな?」
ああ。
ジェイに言われるのが一番、心強い。
でも、優しすぎじゃないのか?
だからこそ。
「ジェイ、俺、やれるだけやってみるよ」
ジェイは少し驚いた顔をした。
それから、笑う。
「その意気だ。さっきの事、忘れるなよ」
それじゃ、また後でな。
ジェイは右手を軽く振ってバックステージに足を向けた。
「アキ」立ち止まり、俺の名を呼ぶ。
肩越しに俺を見た。
「この前、お前の事バカだって言ったけど⋯⋯」
「うん」
「俺の方がずっと、バカでお人好しだな」
ああ、本当にね。
『虚飾の水鏡』これで完結です。
「なにあっさり加入してんだよ。何も解決してねえぞ」
と、思われたでしょう。
お任せください。
続編『死の接吻』で舞台をロンドンに移して、ドロドロします。
ラフ画は大人になったアキ。
ひとつ前の京也と対になってます。
ひとまずこれでおしまいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




