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虚飾の水鏡  作者: 麻生あきら
序章

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1/10

河原京也

 僕には何もない。

 心の中はからっぽ。


 だから沢山の想いを持って前に向かう彼が羨ましい。

 なのに彼は僕を羨ましがる。

 ひとつ年下の従弟。


 まるで違うのに、同じ所に立ってしまったから。




「河原君、音楽好き?」

 唐突だった。

 高校に入学してひと月くらい。

 確か、同じクラスの土屋良介⋯⋯だったかな?

 痩せ気味で高身長。校則ギリギリくらいの長髪。


「俺はね⋯⋯」

 怒涛の如く繰り出されるバンド名。最近のから古いのまで。ほとんどがロック。


「名前は知ってるけど、そんなに沢山は聴いてない」そう返した。

 何でこんな急に話しかけてくるんだろう?


「⋯⋯て事は、聴く事は聴いてるんだ。じゃあね、ひとつお願いしたい事があるんだけど」一息ついて彼は言った。


「バンドのヴォーカルになってくれないかな?」




 意味がわからない。

 だって、今まで話した事もないんだよ? 僕の何を見てそう思ったんだろう。


「でも、上手く歌えないかも知れないよ?」

 だって、僕は何にもないんだから。


「君のその空気と存在感、すごくいいんだ」

 ますます訳がわからない。がらんどうでも出来るのかな?

 言い淀んでいるうちに、彼は僕を仲間の方へ引っ張って行った。

 でも、少し、心が弾んだ。




 良介に連れて行かれたのは、隣の教室。


「同じクラスの瀬川竜二はドラムス、このクラスにいる能代秀之はギタリスト。俺はベースね。バンド名は『ルアード』」


 少しガッチリめの竜二、どう見てもブリーチした髪を立てている秀之。

 机脇には古いパンクバンドのステッカーが貼り付けてあるギターケース。


「河原京也です」


 何もない僕から、歌う僕になった。 


挿絵(By みてみん)

漫画2本、小説1本を坩堝に入れて掬ったものです。

京也は絵を描くのに便利なアイコンか偶像でしたが、今回は彼の視点で書きました。

主に彼と従弟によるドロドロコンプレックス話です。

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