河原京也
僕には何もない。
心の中はからっぽ。
だから沢山の想いを持って前に向かう彼が羨ましい。
なのに彼は僕を羨ましがる。
ひとつ年下の従弟。
まるで違うのに、同じ所に立ってしまったから。
「河原君、音楽好き?」
唐突だった。
高校に入学してひと月くらい。
確か、同じクラスの土屋良介⋯⋯だったかな?
痩せ気味で高身長。校則ギリギリくらいの長髪。
「俺はね⋯⋯」
怒涛の如く繰り出されるバンド名。最近のから古いのまで。ほとんどがロック。
「名前は知ってるけど、そんなに沢山は聴いてない」そう返した。
何でこんな急に話しかけてくるんだろう?
「⋯⋯て事は、聴く事は聴いてるんだ。じゃあね、ひとつお願いしたい事があるんだけど」一息ついて彼は言った。
「バンドのヴォーカルになってくれないかな?」
意味がわからない。
だって、今まで話した事もないんだよ? 僕の何を見てそう思ったんだろう。
「でも、上手く歌えないかも知れないよ?」
だって、僕は何にもないんだから。
「君のその空気と存在感、すごくいいんだ」
ますます訳がわからない。がらんどうでも出来るのかな?
言い淀んでいるうちに、彼は僕を仲間の方へ引っ張って行った。
でも、少し、心が弾んだ。
良介に連れて行かれたのは、隣の教室。
「同じクラスの瀬川竜二はドラムス、このクラスにいる能代秀之はギタリスト。俺はベースね。バンド名は『ルアード』」
少しガッチリめの竜二、どう見てもブリーチした髪を立てている秀之。
机脇には古いパンクバンドのステッカーが貼り付けてあるギターケース。
「河原京也です」
何もない僕から、歌う僕になった。
漫画2本、小説1本を坩堝に入れて掬ったものです。
京也は絵を描くのに便利なアイコンか偶像でしたが、今回は彼の視点で書きました。
主に彼と従弟によるドロドロコンプレックス話です。




