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あなたがいたから

高校生活に馴染めなかった、あの春。

誰にも気づかれずに過ぎていった日々の中で、

私は──ある音に出会いました。


今でも忘れられない、あたたかくてやさしい音。

これは、そのときの話。

静かな教室に響いたあのギターの音色。

優しくて、あたたかくて、胸の奥がじんわりと熱くなった。

あのとき私は、懐かしさに包まれていた。


──そうだ、あの音を私は知っている。

1年前の春、まだ高校生活が始まったばかりの頃のこと。


入学して間もない頃の私は、学校に馴染めずにいた。

昼休みになるとクラスメイトたちは友人と楽しそうに弁当を食べたり、話したりしている。


私はというと、話しかける勇気もなく、自分の席で1人弁当を食べるだけだった。

食べ終わった後はいつも教室を出て、誰もいない場所を探した。


その日も私は静かで落ち着ける私だけの空間を探していた。

その日はなんとなく音楽室に向かった。


理由なんてなくただ身に任せていただけだった。

音楽室の前につくと誰もいないと思っていた教室から音が聴こえてくる。


「....ギター?」


ギターの音色が私の耳に届くと同時に私の胸はふっと、ほどけるように軽くなった。

やさしくて、暖かくて。


まるで「1人じゃないよ」と、そう言ってくれているみたいだった。

言葉じゃなくても、そう感じた。


足を踏み入れる勇気はなかったけど、その場を離れることもできなかった。


次の日も私は音楽室に向かった。

しかし昨日とは違い、その音はなかった。


それからも何度か足を運んだけれど、あの音に再び出会うことはなかった。


──それでも。


私は、あの音に救われた。

あの音があったから今こうして学校に馴染めている。

私は心の底からそう感じている。


あの時間が、あの空間が、私の心をそっと包んでくれた。

だから今日、またあの音に出会えたことが、

うれしくて、胸がいっぱいになった。


──凪砂光くん。

あなたのギターの音に、私は救われたんだよ。

最初から話しかけられたわけじゃないし、顔を見たわけでもない。

ただ、音だけがそこにあって、それだけで心が救われたんだと思います。


ギターの音は、あのときの私にとって「希望」そのものでした。

そしてその音が、今目の前にいる凪砂光くんのものだと知ったとき──

日菜の中で何かが動き始めます。


次回は、ふたりの関係がもう少しだけ近づく予感です。お楽しみに。

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