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連絡

 宇宙を漂う舟は行き場を知らず、どこを目指すのかそれすら決めていない。ジェードルは先ほどの出来事を思い返しながら通信機器をいじり始める。その様子を見つめながらノースは思い出したように言ってみせた。

「そうだったな、通信はした方がいい、働いた証拠をだ」

 データの送信先は地球、先にキーボード入力を行ない文書を作成して送り込み、続けてリアルタイムの通信を始める。

 雑音が耳を剥がすような心地で音を立てる中でも我慢を強いられている。しばらくは耳を塞いでいたものの、不快な音が収まると共に耳から手を離す。その直後の事だった。モニターに映し出された青く輝く壁と屈強な男が紺色のブレザーを身に着けているという組み合わせに早くも懐かしさを覚えながら通信を始める。

「聞こえるか、惑星探索部隊第三、応答願う」

 男の放つ声は機械に阻まれて音割れしているものの確かにそのもの。ジェードルはわざとらしさ全開のはっきりとした声で対話を始める。

「こちら、惑星探索部隊第三。只今一つの星の探索を完了した」

「随分と速かったな、おや」

 男はジェードルの斜め後ろでピースサインを取っている女の姿を目にして思わず大声を上げていた。

「フリュリニーナ戦闘員、そこで何をしている、何故そこにいる」

「ついて行っちゃった」

 軽くて細い声で笑い、無理やり太めの声を上げて答えている。彼女は悪びれた様子など一切なしで会話をジェードルに譲る。

「報告を始めてよろしいか」

「そうだな、リニは今ここで罪人として同行を許そう。帰って来たところで処刑ものだ」

 重大な任務において不利益をもたらしかねない行動。戦闘に於いて上官の指示を無視すると言ったよくある違反とは話の次元が異なっていた。

「では、ジェードルよ、報告をするのだ」

「今回訪れた星はイマリセツナの書いた記録の内でも彼女というか誰の接触も確認されていない星」

 そう、基本的に彼女の仲間の誰かが介入することが殆どでありながら今回は誰一人として登場しない星。なぜ誰も触れないのか、もしかすると分かっているのかも知れない。想像の一つに過ぎなかったものの、それなり以上の説得性はあるように見受けられた。

「タイトルを聞こう」

「なんだっけ」

 ジェードルは振り返り、リニを視界に映して疑問を口にした。それと共にリニは相変わらずの笑顔を浮かべながら答えてみせる。

「デュアルソウルマジック」

「デュアルソウルマジック、確認」

 本を取り出し、ジェードルが打ち込んだ報告書を印刷して軽く浮かせて目を向けながら発言を顎で促す。

「基本的には住みやすそうな星だったものの、水が破滅だった」

「そうか、早い段階で分かったのだな」

 報告書に記された文字の数、情報の量の乏しさが迅速に見切りを付けたのだと語っている。それが分からない程に愚かな人間ではないようだ。

「それで、次はどこに行くつもりだ」

「磁場探索に任せようと思う」

 無難な思考は彼らにとって面白くないだろう。しかしながらなぜ無難がそのような言葉を与えられているのか、それを理解できない彼らではなかった。

「そうか、ならばもう少し我々の役に立つ星を見つけてくれ」

「善処する」

 確実性の保証されない探索方法にそのような期待を抱く彼がいかに愚かなるものか、是非とも時間をかけて問い詰めたくなるものの、後に回す。

「次の星では燃料を補給する」

 ノースが挟み込んだ言葉にジェロードはただ頷いて連絡の終了を告げてモニターに映る映像を宇宙の映像に切り替える。

「次に向かう星の事なんだが」

 ノースは相変わらずキーボードを叩き、運転台に埋め込まれた小さなモニターを見つめてため息をついては再びキーボードを叩き文字を打ち込むだけ。

「そうだね、っていうか楓の宇宙服の中のそいつかわいいな」

 リニが指す方をジェードルも倣って見つめ、一瞬の間を置くことも許さず大きく目を見開き不審な挙動を取り始める。

「なに連れて来てんだよ、勝手に持ち帰りって」

「ついて来た。私の顔はリスっぽい何かを惚れさせたらしい」

 目を閉じている茶色の毛玉は楓の頬に寄り掛かり静かに眠っている。呼吸によって膨らんでは縮んで毛も動いているように見える。撫でるような動きに楓は頬を緩めた。

「私の癒しはこの子」

「別にいいんじゃないか、楓とやらも戦闘員の経験はないのだろう」

 ノースの言葉に楓は緩やかな雰囲気を纏って座り込むのみ。リニは完全栄養ショートブレッドと水を持ち込みそれぞれに配りながら妙に耳の長いリスのような魔物に目を向ける。

「何を食べるんだろうな、想像もつかね」

 リニの笑みがいつになく楽しそうで、ジェードルには少々不気味なものに見えてしまう。しかしながらその正直な感情こそがリニと一緒にいる理由。表情に宿る感情を言葉にしてジェードルと分かち合っている間に舟は緩やかに動き始め、それぞれ席に着いて次の惑星への訪問に恐怖と好奇心を躍らせる。

 ジェードルは生まれ落ちてから長年求めていたものがその興奮なのだと錯覚して、全身を震わせていた。



 宇宙を超えて、世界線の幕を突き破り、一つの次元を超える。地球に住んでいた時でさえこの世界には謎が多いものだと感じていたマルクではあったものの、外側は更に広大に広がる宇宙という謎、仕組みの解明への第一歩を踏む事すら出来ていない並行世界というもの。謎は増え続け、頭の中を不明が支配してしまいそう。

 ユークが何を思っているものか、判断すらつかないものの、恐らくこれだけは分かっているだろう。打ち立てた予想という旗を揺らして訊ねる。

「世界とは分からない事で溢れている、長年生きて来ても尚分からない」

「若い方が世間を汲む目は豊かだ、老いぼれは黙ってろ」

 彼の対応から信頼の一つも勝ち取る事が出来ていないのだとひしひしと思い知らされる。舟に同じ働き手として信頼の無い人物を乗せている心地はどのようなものだろう。異物を置いているような、同じ空間であれ別の場所にいるような、そんな隔たりを作っているのかもしれない。

 このままでは間違いなく仕事に差し支えが出てしまう事だろう。初めは気が付かないかも知れない。そんな小さなものが動きを始めて少しずつ成長していくことをマルクは知っていた。誰かが障りに触った瞬間。その時が既に手遅れかも知れないという事。足を踏み出す時には手の届かない、踏み出すことの出来ない大きな溝が出来てしまうかも知れないという事。些細なすれ違いから生まれた瞬きの躊躇が煌めく白い星を暗黒へと染め上げるような、そんな人間模様は幾度となく見て来た。現場であれば大いに悪しき流れを作り上げてしまう事も。

「仲良くすることはいい事だ。特に女はいい」

「心にも思ってないことを」

 男の好むものと言えば。手始めに現れるあの印象はユークには通じないようだ。ますます不仲の霧は深まったように思えていた。

「ただな、女とは全くもって分からないものだ。何を考えているのか、行動と言葉と本心の全てが違う」

「別の次元に生きてるみたいだな」

「そうだとも、女たちには女だけの小宇宙がある。我々のように単純には生きられないものだ、そう、我々とは異なって」

 分からないものは分からない。それはどれ程探ってみても分からない。探って欲しい事の深みも分からずに踏み込むことで現れるのは雌の虎かも知れない。

「メリーはそうないと思うが」

「メリーにリニ、あとは楓。みんなさっぱりしたいい子だ。例外は例外同士集ったようだ」

「リニが分かりやすい女だとは思えないが」

 マルクは黒の幕を、宇宙という一つのステージを見渡し、星々が輝く埃のように見えてしまう己に軽いため息をつきながら、ユークと向かい合って再びため息をついた。

「単純すぎる子には相応の目線に合わせてあげなければな。直線は案外見失いやすい」

「腑に落ちない」

 そんな言葉をきっかけにしたように瞬間を切り取り小刻みな揺れが訪れる。やがて同調するように大きな揺れが生じ始める。マルクは機器のモニターを見つめて告げた。

「時は来た、星に突入する」

 全ては加速する。星々が勢いを付けて襲い掛かって来るような錯覚に導かれて、空を突き抜け一つの星の大地を手に取るように足を着く。機械による測定は一つの電子音を奏でて。舟という鳥が安全を報せる囀りは一人一人の意識を飲み込むように浸透していった。

 開かれた扉、宇宙服を脱いで外へと踏み出した彼らの足は舟の中へと引き戻され、ユークはマルクを睨み付ける。

「機械を見たのなら話せ」

「慌てるな、働く力と認識の法則が異なるだけだ」

 マルクは舟から踏み出した一歩が引き戻されそうになった途端に表情を歪める。そんな動きについて行くように踏み出される足は見事に地を踏み出し、右腕が上に、左腕が後ろへと引っ張られるも、次第に動きは落ち着き背筋を伸ばした直立の老人へと成り果てる。

 それから誰にも理解の出来ない音を口にするマルクに呆れ、ユークは機械のモニターに目を向け、文字を理解へと落とし込む。

「なるほど、そういう事か」

 今までひたすら沈黙に身を落としていたタルスがモニターを見つめ、示された文字列を撮影してファイルに保存する。

「筋肉の動きの癖がそれぞれこの星の法則に従って奇妙な動きを取っているようだな」

 恐らくこの星の状況を理解するために通信機器を扱う事は出来ないだろう。蒼の鉱物にて構築された舟とその中の物質は地球の法則を保っているものの、ひとたび外へと出たならば機材の通信は覚束ない。もしかすると起動すらしないかも知れない。

「異星人がいれば外から船の備え付けスピーカーに声を吹き込んでもらうしかないか」

 見渡す限り鉄の針山。川のように流れる物質は果たして如何なるものだろうか。透き通る青の容器を手にしてユークは外へと足を踏み出し、生まれる微かな風と軽い衝撃の方向を頭の中に叩き込んですぐさま大地に降り立つ。腕の動き、力を入れるべき部位を把握して、発音の不明瞭な声を上げながら一つ一つの音を耳にする。

「タルスは中に残れ」

「分かったユーク。あと言語を取り戻すの早いな」

 タルスの言葉に顔は不自然な震えを伴った動きを取るも、次の動きではぎこちない頷きへと形を変えていた。

「戦場で鍛えた感覚だ」

 才覚との共鳴ではないだろうか。頭で理解していても容易くこなすことの出来る事ではない。タルスとマルクは共に驚きを抱き続けるのみ。

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