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種族

 資料保管室を訪ねてすぐ目に入った机の上に置かれている紙に目を通し始めた。青の光ではあまりに乏しく、カンテラに火を灯して見つめる文字の集合体。それが成す意味にリニは驚きを覚えずにはいられなかった。


「なんだよ、これ」


 それによればジェードルにはマルクに引き取られる以前の戸籍の記録が無い。親の名前も無ければそもそも出身地すら書かれていない。


 紙を捲ると現れた手書きのメモはマルクの手記からの写しなのだろう。彼の文字でこう書かれていた。


 外出調査の際に幼い子どもを拾った。破滅の雨が降り注いでどれ程だろう、破滅や飢えに侵される事無く生きている理由や未だに救出されていない理由は確認せねばならない。そもそも親の存在は何処にあるものだろう。生きているのだろうか、それとも……これは他の外出調査員に任せるとして私は彼の世話をしよう。大切に育てるのだ。名は後で訊くとして。


 それから更に紙を捲り、マルクの手記の続きに浸り始めた。


 ある日彼はジェロードと呟いた。初めは自分の名前か親の名か分からなかったが検査にかけてみて明らかになった事。ハートの無い生き物。ああ、そういう事か。ならば私の方から名前を付けて差し上げよう。君の名前はジェードルだ。君の名前であって君の名前でない、そんな言葉の響きにどこか似ているだろう。メリーの時と同じだ。


 更に紙を捲るとそこに待ち受けていたのは一枚の診断書。ジェードルの名は後で書かれたものだろうか、名付けの手記の日付よりも前の物だった。


 そこに書かれていた事実にリニは衝撃を受け、思わず頭を震わせていた。


 心臓が無いという事、ただその一点でジェードルの種族が断定されて綴られた。


 その男が属する種族は、人型の鉱物生命体なのだという。

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