第四話:多くの視聴者
カードパックを眺める。500ゼニー:1パック:サポートカード15枚入り。ゼニーという単位の金を俺は持っていない。つまり、今はパックは買えないということだ。
たくさんの人間がたむろしているその場所。俺は、周りの人間を見てみる。
スーツやら制服やらジャージやら、そんな服装の人々がそこで待機している。
「お、夜風っちじゃん」
聞きなれた声の女性。夢北がスーツ姿で立っていた。ちなみに俺もスーツ姿。俺はゲーム開始時にそれを着ていたわけではなく、寝間着として着用しているジャージのままだった。なんとなく感覚で理解できる。この場所では自らを象徴する、つまり会社員だったらスーツやら作業着、学生だったら学校の制服といったものを自動的に着用することになるらしい。
「それが、夜風っちのリーダーカードか」
夢北がレミーラを見た。レミーラが笑う。
「きゃはははは、レミーラっていいます」
夢北の肩に、とある存在が座っていた
毛むくじゃらの小動物。真っ赤な目をした赤毛のリスのような生物。そのリスのような生物は、夢北の肩の上、夢北にほおずりしていた。
「火吹きリスのリラがリーダーカードか」
それは、デュエルオンラインの頃、リーダーカードとしてあまり強くなかった存在だ。
「そそ、かわいいでしょ」
確かに、目の大きなそのリスはかわいい。だが、残念ながら強くはない。でも、それを口にするのは無粋というものだ。カードゲームの楽しみ方は人それぞれで、強さ度外視で好きなカードを使って遊びたいのなら、他者がそれを止める権利はない。
俺はその火吹きリスを眺めた。
「おい、ねぇちゃん、かわいいじゃん」
俺の後ろから品のないそんな声が聞こえてきた。オールバックの長身で、虎の模様のジャージを着た男性。その男性が夢北の方を見ていた。その男性の横にはリーダーカードであろう、中世の騎士が纏う様な鎧の中に霊体の中年男性が入っているといった様相である"死霊騎士 ダニエル"が、かなりの威圧感をまとって立っている。
俺は向き直って輩のようなその存在に対峙する。
「なんだよ、いきなり」
「へへ、ひょろい男はどっか行ってろ。なぁ、姉ちゃん、俺と遊ばないか?」
明らかに品性の欠けるそいつに俺は歯向かう。
「遊ばねぇよ」
「お前には聞いてねぇよ」
そんなやり取りに夢北がニヤニヤしながら言葉を発する。
「やめて、私を取り合わないで」
そんな夢北の発言。夢北はへへと笑いながら、「一度言ってみたかったんだ、このセリフ」と誇らしげに口にした。俺は「はいはい」と適当に返答する。
「まぁさ、冗談はやめといて、ここはカードゲームの世界でしょ? ならさ、カードゲームで勝負しなよ。それで、もしもあなたが勝ったら遊んであげる」
「ほんとか? ほんとだな? 約束したからな?」
「でももしも、あなたが負けたら、どっか行ってね」
男が笑う。
「はは、いいぜ。だが馬鹿な奴らだ。俺はデュエルオンラインで地区大会優勝経験もある実力者の中丸 卓也だ。当然このダイスデュエルオンラインでもお前ら新参者よりもアドバンテージを持ってる」
中丸という名の男はそう笑う。
「どうでもいい、さっさとやろう」
俺と中丸は対戦することが確定した。そして、俺達はそのカフェに存在している端末にて対戦開始のボタンを押す。するとそのタッチパネル上に"夜風 蓮 VS 中丸 卓也の勝負を開始します。よろしいですか?"という表示が現れ、俺と中丸はお互いに"OK"のボタンを押した。
その瞬間、視界が暗転し、俺と中丸は全く別の場所に立っていた。
大きな双六の盤の上だ。運動場いっぱいくらいの広さの双六の盤の上に、真っ黒なマスが複数配置されている。そして、その黒色のマスは、白黒の線で結ばれており、スタートからゴールまでつながっていた。つまり、先ほど受付の女性から見せてもらった双六の盤の上のスタート地点に、俺と中丸、そしてレミーラ、ダニエルが立っていた。
俺と中丸の前に、とあるウィンドウが現れた。そのウィンドウにはこの双六の盤の全貌がマップのような形で映っていた。そして、俺と中丸の位置および、手札の数(今はゼロだが)もまとめられている。そのマップのようなウィンドウは、このゲーム中、求めれば表示され、不要であれば消えるらしい。さらにそのウィンドウの端で、気になる表示がある。
"対戦視聴者数 105,325人"
「ああ?」
中丸があまりに多くの視聴者数に対して、驚きの声を上げた。
「どういうことだよ?」
中丸の疑問の答えが俺には何となく分かっていたが、俺はあえて首をかしげる。
「さぁな」