家族、友人からの手紙
野外での観察以外にも私は研究室にてある作業をしている。
「この種とこの種を配合して……、理論的には新色が出来る筈なんだけど……」
顕微鏡を見ながらピンセットで種をバラバラにして、もう一つの種に一部を移植する。
かなり手先と神経を使う作業である。
しかも、すぐに結果が出る事は無いし成功するか失敗するかなんてわからない。
私がやっているのは新種の開発である。
偶然にも新種の薔薇を開発してしまった私は本格的に植物学を学びつつ開発に勤しんでいる。
「う〜ん、目が疲れる……」
顕微鏡から顔を離し目元を押さえる。
(こうして夢中になっていると私が公爵令嬢である事を忘れてしまうわね)
机の上には実家からの手紙が置いてある。
お父様とは手紙でやり取りをしている。
私が開発した薔薇は『アンヘルシア・ローズ』という名前で国内外に輸出する事になりお父様も忙しい日々を過ごしているそうだ。
お母様も社交の場で宣伝してくれているらしい。
家の為に役になっているのであれば私としてはありがたい事だ。
(そういえば貴族学院はどんな様子なのかしら?)
少ないが私にも友人はいる。
そんな友人達には植物院に行く事は知らせてある。
友人達は自分の事のように喜んでくれた。
『やっぱりロザリー様は貴族令嬢の器に収まらない方ですわ!』というのは褒め言葉として捉えている。
そんな彼女達から手紙が届いたのは私が植物院で働き始めてから1か月が経過した頃。
貴族学院での日々はかなり気を使っていて疲れている、という事。
なれないマナーやダンスのレッスンに四苦八苦しているらしい。
(やっぱり貴族学院に行かなくて正解だったわ)
そんな事を思う私は貴族令嬢としては相応しくないんじゃないか、と思う。