破壊を呼ぶ声が聞こえる
アメチャンコ大陸、北東部にあるブロブロウェイウェイ国。
国民は圧制に苦しんでいた。
20年前に就任したキャッツ国王は大のミュージカル好きであった。
国の観光の目玉としてミュージカルを奨励推進したところ、これが結構いい感じに。
ミュージカル イコール ブロブロウェイウェイ。
ブロブロウェイウェイのミュージカルこそがミュージカル。
あくなき探求と品質向上を目指し、調子に乗ったキャッツ国王はある法律を制定する。
国家総動員ミュージカル法
である。普段からミュージカルたれ!をモットーに
おはようからおやすみまで全てにおいてミュージカルを強要したのだ。
逆らう者はミュージカル強制収容所へ送られた。
ある者はガッツリとミュージカルを叩き込まれ、
ある者は収容所から出てくることはなかった。
そんなブロブロウェイウェイ国の朝はある若い女性の一言から始まった。
「おはよう、小鳥さん」
小鳥は綺麗な声でさえずり若い女性の周りをクルクルと飛びまわる。
「今日はりんごを買いに行かなきゃ」
道行く人におはようの挨拶をしながら、所々で1回転、2回転し、
バレリーナのように右片足を後ろ側に上げる。
歌いながら踊りながら周りに集まってくる沢山の人々。
そりゃ~もうミュージカルバンザイ!
「はぁ・・・はぁ・・・」
一人のおじいちゃんが胸を抑えながらしゃがみ込む。
「ジェペットじいさん大丈夫か!」
中年の男性がジェペットじいさんに近づく。
「ローレル、はぁはぁ・・・わしに構わず歌って踊れ・・・。
ミュージカル警察がどこで見ているかわからんぞ・・・」
その場にうつぶせで倒れるジェペットじいさん。
「くっ・・・すまねぇ・・・」
ローレルと呼ばれた中年男性はジェペットじいさんから歌いながら踊りながら離れていく。
10分ほど無駄に歌い無駄に踊った後
キレッキレの笑顔で若い女性は露店の店主に告げるのだった。
「りんごを1個くださいな」
歌と踊りが終わり皆それぞれの居場所に戻っていくが
うつぶせのままピクリとも動かないジェペットじいさん。
残念ながらジェペットじいさんは帰らぬ人となっていた。
「ジェペットおじいさーーーーーん」
叫ぶ若い女性。そして、ジェペットじいさんの亡骸を
その場にいた人達で囲み今度は悲しみのミュージカルが始まるのである。
ミュージカルが好きな人にとっては天国かもしれないが
ミュージカルが好きではない人にとってはここは地獄である。
ローレルは思うのだ。
「頼む・・・誰か・・・誰かこの永遠と続くミュージカルを破壊してくれ!」
●
ある鉱山の入り口を大きな岩が塞いでいる。
二日前にこの地方で起こった地震により不運にも鉱山の入り口を
大きな岩が塞いでしまったしまったのである。
大きな岩に向けて魔法を放つがびくともしない。
72時間の壁。あと1日で72時間になる。
「誰か・・・誰か・・・誰かこの大きな岩を破壊してくれ!」
●
広大な草原。周りを囲む美しい山脈。カフェのようにおしゃれなテラス。
そう、ここはドラロンの工房の2階である。
俺っち達インフィニティのメンバー、88、ドラロンは転移魔法で戻ってきた。
ちなみにピチ4の面々は解放されたであろうモモのすけの安否確認のため戻っていった。
デスパラの管理者であるイシカワはライブ後の握手会やら
デストロイヤーに壊された劇場の屋根の修理やらで忙しい。
こびと図鑑状態のJBは体育座りから歩行ができるまでこちらの世界へ戻って来たが
なんだか一回り、いや二回り小さくなっているような。
このまま小さくなっていくと耳が尖っている分、
スターウォーズのヨーダに近づいていっているようにもみえる。
なるほど、エルフが老いて小さくなるとヨーダに近づいていくことを俺っちは学んだ。
フォースの存在は一切感じないけど。
「実はな、ちょっと問題があってな」
ドラロンがバツが悪そうに切り出す。
「メルト、お前もう持ってないだろ、ブルチェ」
「残念だけどこの前、君にあげたのが全部だよ」
おさらいだがブルチェは何か。
チェッペリンはドラゴンが死に魔鉱石に結晶化したものである。
イエローで10年、ブルーで100年、レッドで500年以上
生きたドラゴンが死んで魔鉱石に結晶化したものだが必ず結晶化するわけでもなく
その大きさもまばらである。
イエローチェッペリン(イエチェ)について。
市場に出回っている。大きさはピンポン玉くらい。
時価ではあるが概ね純金貨千枚(1億円)。
ブルー・チェッペリン(ブルチェ)について。
市場には出回らない。大きさはピンポン玉くらい。
イエローチェッペリン千個分(一千億円)の価値がある。
100万人規模のヒューマンの都市のエネルギーを百年まかなえる。
レッド・チェッペリン(レドチェ)について。
市場には出回らない。大きさはビー玉くらいと小さい。
価値が計れない。国家予算レベルと言われている。
「自走式ドラム作成としてメルトからもらったブルチェは4個。
1個でもよかったんだけどよ~調子に乗って2個使っちゃったんだよな~DG4に」
ブルチェ1個が日本円で1千億円ということは2個で2千億円。
あのデパートの屋上にあるゆるいカートちっくな形状の乗り物。
100円入れたらゆるく動くあの乗り物。
あのゆるいパンダのカートには2千億円以上の材料費が使われていたことになる。
転生前の世界なら税金の無駄遣いとして槍玉に上がるレベルだな。
「残り2個はどうしたんっすか?」
「先日、古き友が工房を訪ねてきてな。
恵比寿丸っていう奴なんだけど。
奴の両腕の義手は俺様が仕立ててやったものでな。
そのメンテナンスの時にブルチェ2個を左右1本ずつにくれてやったのよ。
まさかDG4があんなことになるとは思ってなかったしな」
「別に自走式でなくても音が出るだけでいいんっすけど・・・」
「バカ野郎!ここまで来てやめられるか!」
「ですよね~」
「恵比寿丸とかいう人から返してもらえないっすか?」
「バカ野郎!そんな恥ずかしいことできるか!」
「ですよね~」
「選択肢は2つだ。ブルチェを採取しに行くか、デストロイヤーを・・・」
デストロイヤーを追っていたガンガンが転移魔法で帰ってきた。
「申し訳ありません、マスター。デストロイヤーを取り逃がしてしまいました」
ガンガンはドラロンの前にひざまづき
「戦闘服と武器の使用をご許可いただけますでしょうか、マスター」
「メイド服ではちと動き辛かったか。それほどまでの相手か」
「それほどまでの相手です、マスター」
●
深く暗い海の中。ポコっ、ポコポコっと2~3個の小さい空気の泡が
上の方へゆっくりと上がっていく。
空気の泡の数が次第に増え始めると鯨のようなモンスターが海面目掛けて
猛スピードで泳いでいく。そして、海面を飛び出てジャンプし、口を大きく開けた瞬間
中からデストロイヤーが飛び出してきた。
「破壊を呼ぶ声が聞こえる。我を呼ぶのは誰だ」