仕切り上手のイシカワ
「レニー、モモのすけがさらわれた、力を貸してくれキー」
あの猿獣人はピチ4のモンモン・・・だったかな。
「いきなりそんな事を言われても・・・」
ライブ会場は彩姫の毒で体の自由を奪われたファン達が横たわっている。
痙攣しているファンが手に持っているペンライトが小刻みに揺れている。
薄暗いライブ会場でペンライトが小刻みに揺れている感じは
夜のホタルイカ漁でホタルイカが青白く発光しているかのようだ。
ファン達のうめき声に混じり、すすり泣く声も聞こえる。
デスパラ7の副リーダーにしてJBの娘のシャロンの
『私、今付き合っている人がいるし、その人の子を妊娠しているし!』
破壊力抜群の突然の爆弾発言はシャロン推しのファンの心を
バキバキビビンババンバンジーに折りまくってしまった。
苦しんでいるファン達の様子を見ながら恍惚の表情の彩姫。
小学生3~4年生くらいの見た目だからこそ、その異様性が際立って見える。
ようやく管理人のイシカワが呼びに行った猫耳獣人のミャーコと一緒に
ライブ会場へやってきた。
管理人室のモニターでライブ会場の様子を監視していたイシカワは
この状況をすでに把握しており、彩姫に近づくなり
「彩姫さん、早く解毒剤を散布してもらえますか?」
イシカワを見た彩姫は無表情で
「この場でわらわに命令できるのは八様だけじゃ」
イシカワは心の中でつぶやく。
(先ほどメルト様の名を呼ぶことを許された5人目の魔族となったこの私に
ホムンクルス ごときが随分とぞんざいな口をきく。
今この場で私の精神操作でペットとして飼ってやってもいいんだぞ!
いや、・・・彩姫を溺愛している鬼信長と事を構えるのはマズイ。
メルト様の名を呼ぶことを許されたからこそ今まで以上に冷静になるのだイシカワ)
イシカワは一瞬で冷静になり
「では88(ハチハチ)様にお願いしてもらいましょう」
イシカワの背後から88が登場する。
「彩姫、解毒剤の散布をお願いできるかい?」
「八様の仰せのままにに。魔琴ちゃん、解毒剤を撒いてまいれ」
魔琴ちゃんはピョンとライブ会場に降り立ち、口を大きく開けて
白い霧を吐き出しながらその場でクルクルとスプリンクラーのように回りだす。
解毒剤の散布が始まるとライブ会場からうめき声が少なくなり
体を動かせる者が増えてくる・・・がすすり泣く声はまだ残っている。
「彩姫さんの毒散布事件とシャロンさんの爆弾発言の記憶は」
ライブ会場の方を向いて指をパチンと鳴らすイシカワ。
「今この場で消去しておきましょう」
するとすすり泣く声がパタっと消える。
これだけの人数の記憶を一瞬で書き換えするとは・・・
やはりイシカワの能力は地味に恐ろしい。
「ここではなんですから管理人室で・・・と言いたいところですが
この人数では管理人室には入りません。この場でお話をしましょう」
イシカワはシャロンの方を向き
「シャロンさん、妊娠していたとは・・・とても残念です」
「あの件、嘘ですよ」
あっけらかんな表情のシャロン。
「嘘?」
「だってパパがまた中華中華って言い出すからムカついちゃって。
で、パパが一番嫌いな人物の名前を挙げて仕返ししてやっただけです」
「一番嫌いな人物?」
「そっ、パパが若いときにちょっとあったみたいなのよね~。
いくらなんでも私がパパよりも年上の男性と付き合うわけないじゃない」
「なるほど、そうだったのですね」
ほっと胸を撫で下ろすイシカワ。
「デスパラ脱退を申しつけるところでした。
アイドル活動がうんざりと言っていたのも嘘だったのですね、安心しました」
「あれは本当です」
「そこも嘘だと言って欲しかったのですが」
イシカワは心の中で思うのである。女の子の管理ってマジ大変~、と。
ステージの隅っこで体育座りをして死んだようになっているJB。
エルフは見た目が若いので外見からではわかりにくいが
今のJBはわかりやすいほど老けてしまっている。
どれくらいわかりやすいかというと
こびと図鑑のこびとの顔になっているからだ。
人生が終わってしまったかのような虚無感に包まれたとき、
たとえエルフといえども、こびと図鑑のこびとの顔くらいわかりやすく
一気に老け込むことがわかった。
イシカワはJBのところへ行き
「JBさん、シャロンさんの彼氏とその妊娠の件は嘘だったようですよ」
JBからの返事が無い。
「仕方がない、直接脳に話しかけてみましょう」
イシカワはパチンと指を鳴らす・・・と
イシカワの顔がこびと図鑑のこびとの顔になり直立で背中から後ろ側に倒れ込む。
「はあ、はあ・・・この私が2度も精神汚染を受けるとは。
JBさんの心の回復については・・・後で考えることに・・・しましょう」
呼吸は落ち着いたが少しやつれた感があるイシカワは
「シャロンさん、この後はファンとの握手会がありますので持ち場へ戻ってください」
「え~、面倒くさいな~」
「シャロンさん、笑顔、笑顔ですよ。プロフェッショナルでいきましょう!」
シャロンの背中を両手で押しながら握手会の会場へと送り出すイシカワ。
ふぅ~とため息をつき右手で額の汗をぬぐいながら
「2つ目はDG4が変形したデストロイヤーの件ですが
現在、ガンガンさんが追跡しております。
今ここで解決できる問題でもありませんので後回しにいたしましょう」
ほんの5分足らずでこの仕切り。できる男、イシカワ。
転生前の世界ならきっと有能なビジネスマンとしてブイブイ活躍したに違いない。
「で、残りの件についてですが」