チャーマネント、キャッツ国王へ謁見す
キャッツ国王の玉座の間。
キャッツ国王が座っている玉座の間はちょっとした大型の体育館くらいの広さがある。
中学生や高校生のバスケットの試合でコート2面を同時に使うくらいの広さである。
なぜ、こんなに広々とした作りになっているかというと
敵の進入から身を守るため・・・ではなく
王の目の前でミュージカルをすることが必須、お約束となっているからである。
そして今、玉座から遠く離れた対面の観音開きの豪華な扉の片方を開けて
一人のメイドが入ってきた。
メイドはバレーダンサーのように右回りに2回転、3回転しながら
右斜め方向へ移動する。そして壁際にいるメイドへ近づき耳打ちする。
耳打ちされたメイドはウンウンと頷き
これまたバレーダンサーのように回転し、時折、前後に足を開脚しピョンと跳ねる。
反対側の壁際にいるメイドに同じように耳打ちする。
ウンウンと頷いたメイドは同じように斜め方向へ回転しながら
ピョンピョンしなが進んでいく。5人目のメイドがキャッツ国王の前に到達すると
スカートの裾を両手で上げ、その場にしゃがみ頭をたれる。
キャッツ国王の左横に立っていた中年男性の宰相が3段ほどある階段を駆け下り
メイドの前にしゃがみ込みメイドから耳打ちを受ける。
そして立ち上がり左に2回転しピョンと階段を飛び越える。
メイドも立ち上がり壁際へ回転しながらピョンピョンしながら戻っていく。
キャッツ国王の下へ戻ってきた宰相は両手を後ろに組み、背筋を伸ばす。
そして左手を右わき腹の辺りからゆっくりと胸の前へ出しながらミュージカル口調で言う。
「チャーマネント様とマーガレット様がお見えになりました~」
玉座の間が暗転する。そして観音開きの豪華な扉へスポットライトが当たる。
勢いよく扉が玉座側にババーンと開く。
スタスタと10メートルほど真っ直ぐに歩いてくる赤いジャケットを羽織った
チャーマネント・ストーンデンをスポットライトが追従する。
右手をくの字にして手の平を上に向け、おへその前へ構えて
キャッツ国王に一礼するチャーマネント。
そして右手で右のジャケットの胸元を掴むと
右へ向きながらジャケットをバッ!
左手でジャケットの左の胸元を掴むと
左へ向きながらジャケットをバッ!
クルクルクルと右に3回転した後、両腕を万歳した後、手をグーにして
腰の位置に引き付け、腰を前後にクイックイックイッと3回振った後、
「カカカカ~カ~モーン!」
玉座の間が明るくなる。
扉の向こうから赤いジャケットを着た
20名の男女のダンサーが10名ずつ左右に分かれ走り入ってくる。
そしてチャーマネントを中心に背後に10名ずつで2列を作る。
軽快なポップ調の音楽が流れる。
右、左、右、左とジャケットをバッ、バッ、と開け閉めするチャーマネントに合わせて
バックダンサーもジャケットをバッ、バッ。
チャーマネントがクルっと1回転半し、後ろを振り向き
「カカカカ~カ~モーン!」
バックダンサーが10名ずつ左右に分かれて中央に5メートルほどの道が出来る。
優雅な足取りで床に着きそうなくらいの黄色いスカートをヒラヒラさせながら
扉の向こうから入ってきたのは綺麗な長い栗毛をアップにした
マーガレット嬢であった。
白いフワフワのついたピンクの扇で顔半分を隠しながら
ダンサーが作った道の真ん中を通ってチャーマネントが待つ場所へたどり着く。
マーガレット嬢の前に膝まづくチャーマネント。
右手を差し出すマーガレット嬢。右手の甲にキッス。
チャーマネントは立ち上がりマーガレット嬢の左横へ。
右手をマーガレット嬢の腰へ回し、二人でゆっくりとキャッツ国王の前へ歩いていく。
キャッツ王の前で膝まづく二人。
バックダンサー達も全員、チャーマネントの動きに合わせて膝まづく。
チャーマネントは発する。
「ごきげん麗しゅう、キャッツ国王様」
拍手をしながら立ち上がるキャッツ国王。
「いや~見事にゃ~!いつ見ても素晴らしいにゃ~、貴殿のジャケットプレイ、にゃ~」
お昼に挨拶をしにくるだけの簡単な作業だったはず。
挨拶一つも大変なこの国で行われている闇の部分。
「そうだ!そうだぞ~ミュージカルしているではないかぁ~」
10人一組で前後に2列横並びしている男達の前を手鞭をピチピチ鳴らしながら
ゆっくりと歩いているカサンドラ隊長。
「おはようございま~っす」
「いいぞ~、いいおはようございますだ」
ローレルの前へ立つカサンドラ隊長。
「お、お、お、おはようございま~っす」
「なんだ~そのおはようございますわ~!」
パチンと右手で指を鳴らすカサンドラ隊長。
20人全員の首輪に電流が走る。その場に倒れ悶え苦しむ20人の男達。
「連帯責任だ!」
ローレルの左隣の男性の様子がおかしい。小刻みに体を揺らしながら立ち上がり
唇の横から唾液を漏らしながら狂ったような満面の笑みで
「おはようございま~っす」
ローレルは思う。彼は気が狂ったのだ・・・と。
それを見たカサンドラ隊長は
「ふむ、仕上がったか。こいつをA棟へ連れていけ」
両脇を抱えられ連れていかれる男性は連呼している。
「おはようございま~っす。おはようございま~っす。おはようございま~っす」
ローレルは思うのだ。
(頼む・・・誰か・・・誰かこの永遠と続くミュージカルを破壊してくれ!)
そして絶望する。私は決してここから生きて出ることはできないだろう・・・と。




