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300年前のことだ

愛とは・・・と聞かれた赤兎馬はその場で腕組みをして目を閉じる。

もう300年も昔のことになる。

当時、300才と若かった私はヒューマンから盗んだ

白馬ハイヨシルバーにまたがり毎夜荒野を駆け抜けていた。

「何人たりとも、たりとも~」

ヒューマンの年齢に換算すると割る20であるから年齢は15才ということになるが

割る20という計算は肉体的な若さの尺度であり精神年齢の尺度ではない。

300才は300年間生きているということを意味しており、

精神年齢が300才であることも意味しているのだ。

ある日の夜のことだった。

いつものようにハイヨシルバーにまたがり荒野を駆け抜け、ある村の近くで休憩をしていた。

満月をバックに馬の上に馬の顔の形をした人が乗っているシルエット。

家の中からこのシルエットを見た5才くらいの男の子が

「ママ、あそこでお馬さんが交尾してるよ」

恐怖の表情で慌てて男の子の口を両手で塞ぎ窓の戸を閉める男の子の母親。

純粋無垢な子供の言葉はどんな武器よりも精神をえぐる。

その日、その時を持って私はサイボーグ馬を含めて、馬にまたがるのをやめた。

そして乗馬という趣味を失った私の心にポッカリと穴が空いた。

魔族の魔生は長い。何もすることがなくなった私は退屈で仕方なかった。

たまたま訪れた街の酒場で酒を飲んでいたところ、

酔っ払った数人の冒険者に絡まれた。

戦士の格好をした20代くらいの男が私の頭をペチペチと叩きながら

「何だ、こんなところにお馬ちゃんがいるじゃねーか」

私は我慢をしたのだ。そして警告をした。

「やめておけ。私はお馬ちゃんではない、魔族だ。痛い目に会うぞ」

酔っ払いの戦士はあろうことか言ってはならない一言を発する。

「その馬頭で馬に乗ったら、もう交尾してるようにしか見えねーな~」

ギャハハハハと笑う戦士とその仲間達。

「な~ん~だ~と~」

仲間の方を向いて大笑いしていた戦士の首が弧を描いて宙に舞う。

その場にいた全員の表情が氷りつく。

魔法使いだろうか、冒険者の一人が魔法を詠唱している。

その前を3人の盾を持った戦士が守っている。

詠唱し終わった魔法使いが魔法を放つ。大きな炎が私目掛けて放たれ

そして当たり私を焼き尽くすかにみえたが・・・。

「その程度では私は倒せぬ。私をバカにしたことを後悔するがいい」

ポン、ポポンと空中に舞う複数の冒険者達の首。

違う村で路肩に止められていた馬を、ただ見ていただけだった。

「ほほう、良い馬であるな。ただ、我が愛馬ハイヨシルバーには勝たぬがな」

「おいっ!馬野郎!俺様の馬に近づくんじゃねえ!」

振り返ると大きなバトルアックスを持ったヒゲ面の男が立っていた。

ヒゲ面の後ろには10人くらいの子分らしき男たち。

「お前の馬か。良き馬だな」

「何が良き馬だな、だ。お前、その馬と交尾しようとしただろ!」

クスクスという手下共から聞こえるバカにした笑い声。ヒゲ面の男は続けて言う。

「残念だが、その馬はオスだがな~」

大声で笑う手下共とヒゲ面。

ポン、ポポンと空中に舞うヒゲ面と手下共全員の首。

「私は魔族ゆえ、この馬頭の容姿は死ぬまで変わることはない。

私は馬頭で生まれたことを誇りに思っている。

私の容姿をバカにする者には死を持って応じよう」

そんなことが複数回あった後、私はある噂を耳にする。

この地で暴れている赤い毛並みの馬の頭の魔族がいる、と。

その日はとても暑い日だった。日中の移動を避け、

私はチャンリンシャンのダンジョンの入り口付近、現在はスペシャルライブとかいう

お祭り?行われているホールで涼を取っていた。

そこへ一人のモンクがやってきた。

「私の名前はカンチャオ。貴殿に何の恨みも無いが、この場にて退治させてもらう」

これが我が友、生涯を通じ唯一心を許したヒューマン、カンチャオとの出会いであったな。

あれから300年が経過し、現在私は600才になった。

魔族の寿命は長い分、退屈な時間もまた長い。

カンチャオよ、お前にも見せたかったぞ。

あの超激強ちょうげきつよのガンガン老子が

『赤兎馬さん・・・愛とはなんでしょうか』

と乙女ちっくな質問を私にしてくるとは。

赤兎馬は心の中で微笑みながら

(カンチャオよ、初めてだぞ。長生きしてみるものいいものだと思ったのは)

目を開け、腕組みを解いた赤兎馬はガンガンにこう言うのであった。

「わかりません」

ええっ!ここまでのフリは何っだったの~?愛について解答するわけじゃないの~。

「そうですか・・・600年を生きている赤兎馬さんでもわからないのですね」

「ごめんなさい、ガンガン老子。冗談です、冗談です」

赤兎馬は左手で後ろ頭をかきながら

「愛とは・・・愛とは色んな愛がございます」

   ●

「愛、それは愛~」

右手の平に手鞭をピチと一打ちし、歌いながらその場で左回転で一回り。

左右に一回ずつステップを踏み、右手をパーにして差し出す猫化粧のカサンドラ隊長。

薄暗い部屋の中で横に10人で2列に整列させられている首輪を付けられた男たち。

全員右に一回転して右手を下から上に持ち上げ勢いよく下に降ろす。

そのタイミングで顔を左斜めしたへ向け

「永遠~!」

とミュージカル口調で言わされている。

「ふむ、だいぶ良くなってきているぞ~。今度は左回りだ!」

カサンドラ隊長はニヤリと笑い

「愛とは・・・愛とは色んな愛がある」

そして声高らかに歌うのであった。

「これが~お前たちに対する~わ~た~し~の」

クルクルクルと3回右回りして両手を万歳、顔を上に向け

「愛だ!」

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