気孔龍神波(きこうりゅうじんは)
スペラッタ王国の南にあるスペランカ洞窟付近のとある森の中。
ジメジメとした岩を10センチほどの
紫のナメクジのような物体がニョキニョキとよじ登っている。
近くにいたカラスに似た黒い鳥の目に紫のナメクジが写っている。
クワーっとひと鳴きしたその鳥は紫のナメクジに襲い掛かりひと飲みにしてしまう。
そしてどこかへ飛び去っていってしまった。
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カツン、カツンとコンクリートの床の上を音を出しながら歩いているブーツが見える。
同時にピチっピチっと鞭を手の平へ当てる音がする。
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン。
クルっと一回点したブーツは、今度は反対側に向き歩き出す。
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン。
薄暗い部屋の中に円筒状の白い首輪を掛けられた20名の男たちが
10名ずつ2列に横並びで立たされている。
前列の2メートル前方を50センチほどの手鞭を右手の手の平へ当てながら
ゆっくりと歩き、列の端っこまで行くと反対方向へ向き直し、ゆっくりと歩いていくのは
ミュージカル警察のカサンドラ隊長である。
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン。
「聞け、この豚共」
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン、クルっと1回転して向きを変える。
「ミュージカルの特性が無しと判断されたお前たち豚共が」
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン。
「我々が用意した再教育プログラムを受け入れA棟へ行くか」
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン、クルっと1回転して向きを変える。
「そのままこのB棟で朽ち果てるか」
ピチっピチっカツンカツン、ピチっピチっカツンカツン、ピタ。
列の中央で止まり列の方を向き、後ろでに手を組みニヤリと笑うかサンドラ隊長。
「ここが貴様ら豚共が人間で終わるか豚で終わるかの瀬戸際である!」
カサンドラから見て前列の左から2番目にいたローレルが
「何でミュージカルっぽく言わねーんだよ」
後ろでに手を組んだままのカサンドラ隊長は左を向きローレルの前へゆっくりと歩いていく。
ローレルの目の前までいくと
「いい質問だ、この豚野郎」
右手指をローレルの目の前に突き出しパチンと指を鳴らす。
20人全員首輪に電流が走る。その場に崩れ落ち悶え苦しむ男たちを
見下ろすカサンドラ隊長。
「ミュージカルをするもしないも、ここでは私の自由」
手鞭の両端を掴み弓状に曲げながら上を向き狂気の笑顔で叫ぶ。
「ここでは私が法律だ!」
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ダンジョンの通路を走って逃げる俺っち達。
通路の先にはこれまたちょっと大きめの体育館くらいの空間が現れる。
どうやらこのダンジョンには要所要所でこれくらいの大きさのホールがあるようだ。
このホール内には小学校の25メートルプールほどの大きさの池があった。
池の向こう側の壁には直径1メートルほどの穴が空いてあり、
そこから水がチョロチョロと流れ込んでいる。
先に着いたランランが池の水際に立ち
「行き止まりアル」
と振り返った瞬間に池から水しぶきが上がる。
3メートルのナブルモサザウルスが猛スピードでランランに突進してきた。
「ランラーン!」
リンリンが叫ぶ。間に合わない!
ナブルモサザウルスは頭を右方向に傾け大きく口を開けランランに噛み付こうとした瞬間
長く伸びた如意棒がナブルモササウルスの口の中に突き刺さる。
「グウェグウェグウェ!」
意表を突かれたナブルモササウルスは苦しそうな鳴き声を上げ池の中へ逃げ帰っていく。
「ランラン、もうダメかと思ったアルよ」
ランランに泣きながら抱きつくリンリン。
「危なかったキー。大丈夫かキー」
ランランの前に元の長さに戻った状態の如意棒を持ったモンモンが合流する。
モンモンを見たランランは
「これで私がお前に惚れると思ったら大間違いアル!」
「それが助けてもらった人への台詞かキー!」
グラサンおしゃれヒゲとお肌すべすべポニーテールも合流する。
さすがは超林寺のモンク。イケメンとはいえそれなりに鍛えているので
運動神経はアスリート級である。
続いてヤンチャオ、ワンセブン、サゴチッチを抱えたモモのすけ、
俺っちの順番で合流する。
「任せたぜ、サゴチッチ~」
「ああ、任せておけカッパ」
池の中にザブンと飛び込むサゴチッチ。
「置いてかないでくれ~」
情けない声を出しながら走ってくる受付の男。
そのすぐ前をケンケン老子が走っている。
老子っぽい衣装が邪魔をして上手く走れないようだ。
「アッツシン、タッカロン、早く助けに来んか!」
へぇ~グラサンおしゃれヒゲはアッツシン、
お肌すべすべポニーテールはタッカロンとかいう名前だったのか・・・って
イケメンの名前など別にどうでもいいわ!
グラサンおしゃれヒゲのアッツシンが
「助けに行きたいけど私の顔に傷が入っては老子もお困りでしょう」
お肌すべすべポニーテールのタッカロンが
「老子、あとのことは我々二人にお任せくださいじゃん」
ケンケン老子・・・人生の土壇場でわかる己の人望無ッシーング。
受付の男が石に躓き転びそうになる。
すぐ目の前にいたケンケン老子の服を掴んでしまう。
同時にその場に転ぶ受付の男とケンケン老子。
すぐ近くには5メートル超級のナブルモササウルスが迫っている。
「離せこらぁーっ!」
俺っちは初めて見たよ。自分だけ助かろうとする大人の汚い面を。
ケンケン老子は足蹴りをして受付の男の手を蹴り払い脱出に成功する。
「だっしゃー!私はまだ死ねん!超林寺にカジノのを作りバンバン金儲けするまでわ!」
ケンケン老子・・・人生の土壇場でわかる己の本当の姿。
「そんな・・・ひどい、死にたくない!ひぃいいい!」
ああ、そういえば受付の男よ。あんただけこの中で名前が無かったな。
ずっと 受付の男 呼ばわりされていたっけ。
まず先にやられてしまうために用意されていた悲しき男。
ナブルモササウルスの凶暴な一面を表現するためにこの場に連れてこられた受付の男よ。
さらば、名も無き受付の男よ。
俺っちの横を一陣の風が通り過ぎていく。
猛スピードで受付の男の前へ立ちはだかったのはヤンチャオであった。
「リー!助けに来たぜ!」
へぇ~受付の男はリーという名前だったのか。
名前がわかったという事はもしかして助かるのかな?
ヤンチャオは両腕を前に突き出し上半身を右回りでグルグルと回しだす。
あれはもしかしてチューチュートレインのあれか?
いやどちからというとデンプシーロール寄りか?
「はあああああああああああ・・・」
突き出した両腕を中心に右向きの螺旋が形成されていく。
圧縮された闘気が両腕の前でらせん状に形成され
尖ったドリルのようになったとき、ヤンチャオの目が白く光る。
「気孔龍神波」
ナブルモササウルスに向け解き放たれる。
螺旋状の闘気はナブルモササウルスの頭に直撃するが
一瞬よろめいただけで再び歩み始めた。
「くっ・・・まだ修行が足りぬか」
悔しさをにじませるヤンチャオだが顔の落書きが邪魔をしてなかなか伝わらない。
バブシュン!俺っちの横をまた一陣の風が吹き抜けていく。
半月状の何かがナブルモサザウルスの頭に縦に当たり尻尾の先まで通り抜けていく。
頭から真っ二つに裂けていくナブルモササウルス。
それを見たモモのすけはニヤリと笑い
「この勝負、もらったな」
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ダンジョンの最下層。
玉座に女性らしくエレガントに座っているガンガン。
そしてその右隣に召使いのように膝まづく赤兎馬。
両手を添えて焼き菓子のようなもの差し出す赤兎馬。
「ガンガン老子、中国名物の月餅をどうぞ」
「申し訳ありません、私、オートマターですから食べれないのです」
「おお、そうでした、そうでした」




