教祖の正体
魔王城のとある一室。
たくさんのぬいぐるみが所狭しと並べられている部屋。
チュー、チュー、チュチュチューとたくさんのネズミの鳴き声が聞こえる。
1立方メートルの木箱の中には生きたネズミが50匹ほど動きまわっている。
その中の一匹をネズミのように痩せこけ産毛がうっすらと生えた
灰色の右手が鷲掴みにする。
キリスト教の司祭服のような白いダブダブの服。
ポン○キッキーズの爆笑○題のネズミのような被り物。
(ス)で名前を区切ることを絶対に許さない魔王軍ナンバー2にして
腹話術の人形に封印された魔王様の魂の管理者。
ミッキー・マウ・ストーンである。
左手には10センチくらいの大きさの白いネズミのぬいぐるみを持っている。
「贄となれ」
右手に掴んでいるネズミが掃除機に吸い込まれるようにして消える。
そして、左手に持っていたネズミのぬいぐるみがピクピクと動き出す。
ぬいぐるみをもう一つの1立方メートルの木箱の中に投げ入れる。
ぬいぐるみのネズミは木箱の中でネズミのように動き出す。
同じ作業を淡々と続けるミッキー。全てのネズミをぬいぐるみにした後
木箱の中を確認する。
「さて、こやつらはをどの辺りに放つか」
千年前のあの日。魔王様と88の決着がついたあの日。
あの地獄の業火のような爆炎を生き残った4人の魔族。
ドラロン、恵比寿丸、リッキー、そして私。
生き残った栄誉を称えメルトはメルトの名前を呼ぶことを3人に許したが
私だけ許されなかった。あの屈辱は決して忘れない。
あの日からどうやって88に復讐をするかを考え続けた。
木箱の中のねずみのぬいぐるみを見つめるミッキー。
「ふむ・・・南アメチャンコ大陸あたりに放つか」
木箱と一緒に転移魔法で転移するミッキー。
インカっぽい建造物が立ち並ぶ町外れの森の中に転移する。
木箱をひっくり返す。四散するネズミのぬいぐるみ。
「力だけでは勝てぬ。情報収集は重要なのだ」
転移魔法で元の部屋へ戻ってきたミッキーの脳内にある情報が飛び込んでくる。
ミッキーのネズミのぬいぐるみを各地へ放つ地道な情報収集活動は
ドルチェ国の首都ベルリンゲンにあるデスパラダイス7(セブン)のライブ会場で実を結ぶ。
ライブ会場の天井裏にたまたま潜んでいたネズミのぬいぐるみが
デストロイヤー誕生の瞬間をキャッチしたのである。
「ドラロンの人形から知的生命体が生まれただと」
顎を手でさすりながら
「魂の生成・・・魔王様の魂を他の物体へ移す手がかりになるやもしれぬ」
そしてもう一つ地道な活動が存在する。
ネズミの被り物を脱ぎ正体を隠すために
顔全体を覆う白い頭巾を被り狐の面を装着するミッキー。
三百年前、資財を投じ腹話術の人形に入っている魔王様の魂を
他の魔族の肉体へ移転させるために作った研究機関。
「くそっ!何だこの請求書の額は!人の金だと思って湯水のように使いやがって!」
それが魔王親衛教会だ。研究機関であるが名称をあえて教会としたのは
宗教っぽい方が人が集まるかな~
魔王様を崇拝させたら結束力が上がるかな~
的なノリだったりもする。
当初の目的は魔王様の魂を他の魔族の肉体へ移転させることであったが
百年くらい前からその目的は違うものへと変わったのである。
私の魂を魔族をも超える強靭な肉体へ移転させる。
この貧弱な体では88に勝てぬ・・・勝てぬのだ!
「デストロイヤー・・・やつの肉体?
いや金属だから金体か?
ドラロンが練成した金属から生まれたあの金体はある程度の魔法は無効化するに違いない」
強靭な肉体に移転できれば魔王様など不要。
(絶対に奴を捕獲しなくてはならぬ!
そして私こそが・・・88を倒し、魔王様を倒し、私こそが・・・)
「新たな魔王として君臨してくれるわ!」
机の前に座ったミッキーこと教祖様は魔法で目の前に
テレビモニターのような画像を展開する。
そしてマイクのスイッチを入れボイスチェンジャー機能をONにする。
「ドクター・スロットはいるか?」
●
「デストロイヤーを捕獲せよ」
空中に浮かんだモニターには顔全体に白いマスク、
狐の仮面を装着している魔王親衛教会の教祖が写っている。
声はボイスチェンジャーの使用しているのか低音である。
「デストロイヤーとは?」
「こやつじゃ」
教祖はデストロイヤーの顔の部分のアップされた画像をドクター・スロットに見せた。
「パンダモンダグリズリー・・・でしょうか?」
「違ーう!デストロイヤーだ!」
「いや、違うと言われましてもどうみてもパンダ・・・」
「全体像を見せてなかったか、すまぬ」
教祖はデストロイヤーの全体が写った画像を再度見せる。
ドクター・スロットはまだ事情を理解できていないのか
「パンダモンダグリズリーのマスクをした細マッチョなヒューマンですか?」
「違ーう!デストロイヤーだ!
こやつはドラロンが作った知性を持たぬただの人形が進化したものだ」
「進化?」
「進化前はこれだ」
教祖は4足歩行状態のゆる~い乗り物だったDG4だった頃の
画像をドクター・スロットに見せる。
「ご冗談では?」
「そう思いたくなるのも無理はない。進化したときの動画があるので見せてやろう」
最初から動画で見せろよ、回りくどいんだよ、このクソ教祖が!
JBがマジックミックスラケットを振り下ろし、黒い液体がDG4を包み込み
四つんばいの4足から直立して2足になり、ゆるい乗り物からヒューマンへ
進化していく様を見たドクター・スロットは
「なんじゃこりゃ|あああああああ|!
これが進化前であれが進化後・・・って進化し過ぎじゃねーか」
「こやつの進化の過程と現状はどのような内部構造になっているのかを確かめねばならぬ。
どんな小さな手がかりでも我々は研究せねばならぬのだ」
「心得ております」
「と、いうことでデストロイヤーを捕獲し調査せよ」
「はっ!全ては魔王様のために」
「あっ、それから何だあの請求書の額は!もう少しコストダウンに努めよ!」
「はっ!全ては魔王様のために」
空中のモニターが消え教祖との通信が切れる。
金属から知的生命体、しかもヒューマンに近いものが生まれるとは前例がない。
現状、あれが一番魔族の魂を定着させるための最重要サンプルには違いないが・・・。
しかしこれはマズイことになった。
デストロイヤーは我々の魔王親衛教会の存在意義を脅かしかねない。
もし、デストロイヤーが魔族の魂を定着させるのに最適な存在であるならば
今までキメラを作ってその体に魔族の魂を定着させるという我々の研究が水泡に帰すかもしれぬ。
あのドケチ教祖のことだ。最悪の場合、教会の解散ということもあり得るかもしれん。
しれんが・・・研究者としてデストロイヤーに興味がある。これはやらざる得まい。
ドクター・スロットは所長室の机の上にある卓上マイクのボタンを押す。
「ドグレッタに所長室まで来るよう伝えてくれ」