スペシャルライブ
ステージの上の両サイドに5本ずつ高さ3メートルほどの柱がある。
その柱が不規則にレインボーの光を放ちステージを明るく照らす。
柱のテッペンにはクルクルと回る青白い光を放つパトランプが回っている。
何の曲はわからないが中華風のBGMが流れている。
ステージ中央からタイガーマスクっぽい虎の覆面をした上半身裸の
均整のとれた筋肉の集団が50名ほど出てくる。
10名ずつ横並びになり5列形成すると柱のテッペンのパトランプの色が緑色に変わる。
BGMも少しアップテンポな曲に変化する。
するとこれまた何の拳法かはわからないが50名のマスク集団は一斉に
少林寺とかで集団で型をやる感じで寸分たがわぬ動きで3分間、型を披露し始める。
3分ほど型を披露したところでマスク集団は左右に半分ずつに別れ中央に
10メートルほどの道が出来たところでBGMもパタっとやみ、柱の光も消え
一瞬会場は真っ暗になる。数秒後、再度柱がレインボーに光り、赤いパトランプ。
チューチュー○レインみたいなイントロが始まるとキャーっと黄色い声援が湧き上がる。
どうやらスペシャルライブの本番が今から始るようだ。
中央から二人の上半身裸のイケメンマッチョ男性が歌いながら歩いてくる。
観客席から見て右の一人はワイルドな感じ。サングラスに丸刈りのおしゃれヒゲ。
左の一人は金髪の長髪をポニーテールにしているお肌すべすべ。
ステージ中央の前方に来る二人組み。ポニーテールが観客席に向けてウインクすると
キャーという更なる大きな黄色い歓声が。
左右に分かれていた50人のマスク集団は中央に戻り最初の5列の体形へ戻る。
拳法の型をやり始めるがどこかダンスチックなテイスト。
ツートップのイケメンヴォーカルに大勢のダンサー・・・どこかで見たことがあるような。
転生前のあの集団・・・これって
「エグ○イルじゃね?」
黄色い声援が飛び交うスペシャルライブを険しい顔をしながら見ている人物がいた。
段々畑の中段の右端に座っているその男の呼気からは酒の臭いがする。
ヤンチャオであった。
「なぜだ、なぜこの私がトップとして認められないのだ」
(おじい様の頃までは強い男がモテたと聞いている)
超林寺では武術においてヤンチャオの右に出る者は無し、とまで言われるまでになった。
飲めば飲むほど強くなる。一子相伝の酔拳も自分流のアレンジが加わり
まさに今の私が一族最強であるはずだ。
なのに・・・老子とのやり取りを思い出すヤンチャオ。
『なぜです!なぜ超林寺一の拳法家にまで登りつめたこの私が認められないのですか!』
『顔じゃ!』
モモの上に置いた両拳をギュウっと握り締める。
今の老子が超林寺のトップになってから何もかもが変わってしまった。
ダンジョンにチャンリンシャンドリームダンジョンなる名前を付け
ダンジョンに入るのに入場料を取るようになった。
更にあのようなライブを行い、ダンジョンには入らないがライブ目当てに
入場料を払う者達の取り込みに成功した。
チャンリンシャンの周りにはこれといった産業がない。
レアアイテムがあるかもと噂されるダンジョンがあるだけだったこの地に
沢山の冒険者が押し寄せてきたことで自然発生的に街が出来た。
我がご先祖様のカンチャオが天女の助けを借り魔族を倒し
この地に超林寺と呼ばれる武術集団を創設したのが約300年前の話である。
そして我々は街の自警団的な役割を担ってきたのだ。
来年には賭け事を中心に行うカジノなる施設の構想まであるらしい。
商業としての老子の手腕はすごいの一言であるが
武術家としての誇りを捨てて我々の武術を見世物にするのはいかがなものか!
『顔じゃ!』
「ふん・・・あいつらは顔がいいだけで武術は私の足元にも及ばぬ」
『顔じゃ!』
「今の超林寺ではあいつらがナンバーワン、ナンバーツーとは地に落ちたものだ」
『顔じゃ!』
「納得が行かぬ!武術家なら武術をもって評価されるべきだ」
『顔じゃ!』
「時が時ならあのステージに立っていたのはこのヤンチャオであるのに!」
『顔じゃ!』
「ああ、私もあんな風にキャーキャー言われてみたい!」
酒が入り本音がだだれ漏れしてしまうヤンチャオであった。
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「なるほど・・・中華まんもメニューに加えてみますか・・・やはり来て良かった」
中華まんを口いっぱいにほおばりながら調理器具を売っているお店の軒先に立っているJB。
店主に向け5本指のパーで
「蒸篭を5個くしゃしゃい(ください)」
伝説のマジックバッグに買った蒸篭を格納し買い物を楽しんでいるJBであった。