ダンジョンに入場料だと
アメチャンコ大陸、北東部にあるブロブロウェイウェイ国。
西洋風なお城の玉座の間。玉座にはキャッツ王が座り、
王の右には宰相のような人物が一人立っている。
キャッツ国王は人間が猫にふんしたメイクをした感じというか
ガッツリ特殊メイクでではなく、化粧で何とか猫っぽくしてみました~的な感じである。
部屋の左右の壁際には多くの貴族、騎士が並んでいる。
王から見て正面の観音開きの扉がバタンと開く。
3人の甲冑を着た騎士が入ってくると・・・中央の騎士が両手をパーにして胸の前へ突き出し
右手をのど元へ戻しながら歌い始める。
※ここから先の台詞は何らミュージカルっぽく歌っている感じでお読みください。
「王よ、ただいま戻りました」
クルっと1回転する。1歩2歩と進むタイミングで後ろの二人の騎士が
バックダンサーのようにステップを踏んでいる。
王の右横にいた宰相が右周りに3回ほど回転しながら王の前へ進み出る。
「どうであったのだ、ドラロンの工房は見つかったのか?」
騎士は左壁際へクルクル周りながら移動し一人のメイドの手を取りひざまずく。
「険しい森を抜け」
二人の騎士は中央でボックスを踊りながら待機している。
宰相は右に1回転して
「どうであったのだ、ドラロンの工房は見つかったのか?」
騎士は小走りに逆の壁に走りより貴族のご夫人の手を取りひざまずく。
「危険な森を抜け」
宰相は更に右に1回転。
今度は左右の貴族もじわりじわりと回転しながら宰相に近寄ってくる。
「どうであったのだ、ドラロンの工房は見つかったのか?」
二人の騎士のボックスは継続中。騎士の前進に合わせ少しずつ前進している。
その様子を微動だにせず見ているキャッツ国王。
この様子を緊張感を持って臨んでいるある貴族がいた。
タイミング・・・タイミングが重要なのだ。
左右の貴族達が踊りながら騎士と宰相に分かれて近づいていく。
騎士はバレーダンサーのようにクルクル回転しながら中央に戻る。
騎士の後ろにはボックスを踊る二人の騎士。その後ろには二人の騎士に合わせて
ボックスを踊る貴族達。
宰相が1回して・・・タイミングを見計らっていた貴族の男性が
前に出てダンスの列に加わろうとしたとき、足がもつれて転がり倒れてしまう。
そのせいでミュージカルが中断してしまう。
キャッツ国王の顔が怒りに変わる。
その場にいる全員が氷りつく。一人の男性貴族が転んでしまった貴族へ走りより
「ああ、アルジェンス。昨晩遅くまで病気の母の看病をしていて疲れきってしまったのだな」
「ああ、いとしの母の看病で疲れてしまったのだ、サーバス卿」
アルジェンスの両肩に手を優しく置くサーバス。
「だ~か~ら~大きな薬草をください、大きな希望をください」
ミュージカルちっくに歌いながら立ち上がるアルジェンス。
クルクルと回転しながら騎士側の列に参加するアルジェンスとサーバス卿二人。
ミュージカルが再開される。キャッツ国王の顔が元に戻る。
小声でアルジェンスよ危なかったな・・・収容所送りになるところだったぞ。
小声でサーバス卿よ、危険を犯して助けてくれて感謝する。
「どうであったのだ、ドラロンの工房は見つかったのか?」
騎士は両手を上げ上を見上げる。いよいよこのミュージカルも終わりが近づいているようだ。
騎士を中心に回りを囲む貴族達。騎士は満面の笑顔で
「見つかりませんでした」
キャッツ国王は立ち上がり笑顔で
「あいわかったニャー。そして良きミュージカルであったニャー」
※ここから先の台詞は普通の感じにお読みください。
国家総動員ミュージカル法。
国民におはようからおやすみまでミュージカルを強要するにこの法は
貴族にも適用されるのである。
ミュージカルでこけてしまったアルジェンスと呼ばれた貴族は心の中で思うのである。
たった一言、見つかりませんでした、を言うだけの簡単なことに
15分ほど無駄に歌って踊って・・・。
この20年間で何百人の貴族がミュージカルがうまく踊れず収容所送りになったことか。
この国ではミュージカルが全て。ミュージカルをうまく踊れない者は落ちていくしかない。
「頼む・・・誰か・・・誰かこの永遠と続くミュージカルを破壊してくれ!」
●
カンフー映画でよく見る中華服を着た辮髪の男がひざまずいている。
後姿しか見えないため顔はわからないが30代前半くらいだろうか。
「なぜです!なぜ超林寺一の拳法家にまで登りつめた
この私が認められないのですか!」
160センチ、少林寺の高僧が着ているような黄色い服を着た
白いひげに禿げ頭のお師匠っぽい男が辮髪の男性に向けて非情な一言を放つ。
「顔じゃ!」
●
「え?入場料取んの?」
俺っち達は今、中国のチャンリンシャンの冒険者ギルドにいたりする。
「お一人様純銀貨1枚(5千円)になります」
赤い中華ドレスにお団子ヘヤーの可愛い受付嬢が笑顔で答える。
「なんでダンジョンに入るだけで入場料取るんだよ、おかしーじゃん」
「チャンリンシャンは観光地ですので~」
「はぁ?観光地って・・・」
『今じゃちょっとした観光スポットみたいになっちゃってるのさ』
って、ドラロンが言っていたことを思い出す俺っち。
「チャンリンシャンドリームダンジョンに入る前に特設ステージがございます。
そこで午前、午後の計2回、超林寺のモンク達による
チャンリンシャンドリームダンジョンの歩き方の講習を受けていただいた後、
モンクによるスペシャルライブを見ていただきます」
歩き方の講習って・・・転生前の世界で言えば運転免許の更新の時に
受ける講習みたいなものだろうか?
100歩譲って講習までは良しとしよう。
「スペシャルライブ~?」
「はい、歌とダンスのスペシャルライブです」
「何でそんなもんやってんのよ」
「チャンリンシャンは観光地ですので~。
ちなみにダンジョンの3階層までは超林寺のモンク達により
モンスターは常に退治されておりますので安心してお進みください。
4階層以降は超林寺のモンクが一人ガイドとして同行いたしますが
ガイド料は4階層が金貨1枚(1万円)、5階層が金貨2枚、6階層が金貨4枚と
階層が1つ深くなる度に2倍単位でお支払いいただくことになっております」
「絶対同行するの?」
「はい、絶対です」
それって、超林寺の独占事業っていうか、やりたい放題じゃね?
「ちなみに最深部は何階層まであるんっすか?」
「15階層です」
ってことはよ・・・計算が・・・。
受付嬢は金額が書かれた紙を見せてくれた。
04階層は金貨1枚。
05階層は金貨2枚。
06階層は金貨4枚。
07階層は金貨8枚。
08階層は金貨16枚。
09階層は金貨32枚。
10階層は金貨64枚。
11階層は金貨128。
12階層は金貨256枚。
13階層は金貨512枚。
14階層は金貨1024枚。
15階層は金貨2048枚。
最下層は金貨2048枚(2048万円)だとぉ!
「ガンガン、戦闘服と武器ってもしかして」
「最下層に配置してあります、レニー」
やっぱり!そりゃそうだよな~。
「そんな高い金額払えるわけないじゃん。皆、どうしてるっすか?」
「大概、10階層くらいでダンジョン探索をおやめになられる方々が多いですね」
「そりゃそうだろ、そんなにガイド料が高いなら!」
「チャンリンシャンは観光地ですので~」
いやいや観光地ですので~で済まされる話じゃないって。これは超林寺の問題だって。
やってることはマフィアやヤクザ絡みの怪しい事業だって。
「ちなみに超林寺を通さず直接ダンジョンに入ったりしたらどうなるんっすか?」
「ダンジョンからお戻りになられないですね。危険なモンスターが多数いますから」
いや違う。モンスターじゃなく超林寺の奴らにダンジョン内で抹殺されたに違いない。
「どうする、ガンガン」
「超林寺に行って直接話をつけてくるしかないでしょうね」
まあ、こっちには元S級クラスの冒険者のJBもいるし、
戦鉄姫と呼ばれる激強オートマターもいる。
この二人はたった一人で小規模クラスの街なら殲滅可能な実力者だ。
後で合流する予定のピチ4も激強冒険者パーティーだし。
唯一の弱点といえばランク外の弱小吟遊詩人の俺っちくらいなものだ。
それに俺っちにはダンジョンへ入る目的も無い。
ガンガンがダンジョンへ入っている間、俺っちはチャンリンシャンの観光をしていればいい。
「ピチ4と合流してからの方がよくないかな。JBはどう思う?」
あれ?JBがいない。確かギルドに入るときに一緒に入ったと思ったのだが。
その頃、JBは
「なるほど・・・こういう中華料理があったとは・・・やはり来て良かった」
ある中華飯店で出されたエビチリに心を奪われていた。