魔族について少し教えておいてやろう
ニーハオ!レニーです。
俺っちは今、中華鉄健珍民共和国、略して中国の
チャンリンシャンという街にいたりします。
話は1時間前に遡る。
「戦闘服と武器の使用をご許可いただけますでしょうか、マスター」
「メイド服ではちと動き辛かったか。それほどまでの相手か」
「それほどまでの相手です、マスター」
ドラロンは少し間をおいて
「わかった、許可しよう」
「ありがとうございます、マスター。では、早速取りに行って参ります」
ん?取りに行ってくる?
「どこへっすか?」
「中華鉄健珍民共和国です、レニー」
JBの耳がピクっと動く。
「中華鉄健珍民共和国~?」
JBの耳がピクピクっと動く。
「なぜガンガンの戦闘服と武器が中華鉄健珍民共和国にあるのか話す前に
いい機会じゃから魔族について少し教えておいてやろう」
「魔族は種族ではない。魔族とは魔力の多い者のことを総称して言う。
魔族は他の種族とは違い生まれたときはすでにその姿、形、大きさだ」
ということは88は生まれたときにすでにあの容姿、美貌だったということか。
ある意味、ヴィーナス誕生レベルじゃないかよ。
「さらに死ぬまで見た目は変わらない」
死ぬまで見た目が変わらないということは老いによる容姿の劣化も無い。
魔族に転生したかった~。
「世界に一人しか存在しない、ユニークな存在なんだよ。
つまりそいつ自身が種族であり、そいつが死ねばその種族は絶えるのさ」
「もっと簡単に言ってもらえないっすか?」
「つまりだ。メルト88という種族はメルト88しかいないってことだ」
「なるほど、了解っす、理解したっす」
「魔族の寿命は長い。エルフの年齢がヒューマンの×5なら
魔族の年齢はヒューマンの×20というとろこになる」
エルフでもすげぇ長生きなのに魔族はその4倍も長生きなのかよ!
「他種族のように赤ん坊の時期が無い。したがって、魔族に父親や母親は存在しない」
ん? 両親が存在しないってことは、俺っちは彩姫の方を向いて
「彩姫は父上が~とか言ってなかったっけ?」
「わらわはホムンクルスじゃ。残念ながら純粋な魔族ではないのじゃよ。
わらわがどうやって作られたかは知らぬ。本来なら父上は造物主であるゆえ、
わらわと父上はガンガンとドラロン様のような関係ではあるが父上が父上と呼ぶよう
わらわに申し付けておるゆえ、
わらわは父上を父上とお呼びしておる。
ちなみにわらわは100才じゃ」
「あややって100才だったの!私の5倍じゃない」
「ザンスーよ、もっとわらわに敬意を払ってもよいぞえ」
「シュコー、シュコー、オラは25才だべ」
「クワーマン、あんたは別にどうでもいいわ」
「魔族は数が少ない。何で少ないかわかるかい?レニー」
「わかんねーっす」
「この世界で一番数が多い種族はなんだと思う?レニー」
「ヒューマンっすかね」
「正解だ」
「この世界で一番寿命が短い種族はなんだと思う?スーザン」
「この流れだとヒューマンじゃないかしら」
「正解だ」
「これは自然の摂理みたいなものだが、寿命の短い生き物ほど数が多い。
沢山数がいないと種としての存続率、維持率が下がるからな。
もし、力の強い魔族がヒューマン並みに多かったらどうなると思う?」
「わかんねーっす」
「自然界のバランスが取れねーんだよ、バランスが。
だがら魔族は多種族に比べ圧倒的に数が少ないのさ」
食物連鎖というやつだろうか。ドラロンの話はまだ続く。
「長命のエルフもヒューマンと比べると人口が少ない。
ヒューマンを10とするならばエルフは1程度だ。
ちなみに魔族は0.3以下だな。
エルフになぜ美男美女が多いかわかるか?」
「そういうもんなんじゃないっすか? 考えたこともねーっす」
「多種族から攻撃されにくくするためだ。お前たちヒューマンでもあんだろ。
美人には優しくしちゃうってーのが」
「美人は得するってやつっすね」
「ふっ、その通りかもね。私は結構得することが多いわ」
「スーザンのことは置いといて」
「ちょっとレニー、あんた最近あたしの扱いが雑すぎるわよ!」
ドラロンは俺っちとスーザンのやり取りを見て
「ガハハハハ!お前さん達、いいコンビだな。
で、ここからがなぜ中華鉄健珍民共和国かってことなんだが」
JBの耳がピクピクピクっと動く。
ドラロンはニカっと笑い
「気まぐれだ」
●
「この岩盤が破壊出来れば水が出てくるのに」
ある村では日照りが続き、井戸水も枯れ、地面は干上がり
農作物は壊滅的な被害を受けていた。
調査の結果、地中のある場所に水源があることが発覚し村人総出で穴を掘っていたが
20メートルほど掘ったところで硬い岩盤にぶち当たったのだった。
「ここまで来て・・・畜生!」
村の若い男性が力任せに振り下ろしたツルハシは柄の部分がバキっと折れてしまう。
「先生、お願いします!」
ギルドに依頼したモンクの男性が到着する。
「冒険者ランクBのハラミラス様に任せておけ!」
岩盤の上に立つハラミラス。気合を入れ岩盤に必殺技を繰り出す。
「ギガンディックロマンティックドラマティックティックティックパーーーーンチ!」
ポキャン!という音がして・・・右手首がブランブランティックに折れる。
「先生、お願いします!」
ギルドに依頼した剣士の男性が到着する。
「冒険者ランクAに近いBのカルビック様に任せておけ!」
岩盤の上に立つカルビック。気合を入れ岩盤に聖剣俺っちはトングを突き刺す。
「ヤキニクシャブシャビタベホウダイオヒトリサマ2980クラッシュ!」
ポキャン!という音がして・・・聖剣トングが真ん中から折れる。
村人全員から集めたお金で雇った冒険者二人は役に立たず。
「あの岩盤を破壊し、水源を確保できなければ、最悪村を捨てねばならないかもしれない」
村長を始め、村人全員は心の中で思うのである。
(岩盤を破壊してくれ)
(破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊)
(破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊)
キーン・・・飛行機が飛ぶときに鳴る空気を裂く音がする。
岩盤の上にゆっくりと降り立つ、顔はパンダ、体はヒューマンだがパンダ柄の細マッチョ。
「破壊を呼ぶ声が聞こえた。我を呼んだのはお前達か」
「あなたは一体何者・・・」
「我が名はデストロイヤー。破壊こそ全て。破壊こそ創造」
ツルハシを折った若者が叫ぶ。
「あの岩盤を破壊してくれ!水が・・・水が必要なんだ!」
デストロイヤーは足元の岩盤を見る。
※俺っち作詞のデストロイヤーがBGMで流れてます。
※(カモンサモンのデストロイヤー)
空高く舞い上がり体を前に丸め両腕で両足を押さえ込む。
落下しながらクルクルと前に回転する。回転速度がどんどん上がっていく。
「はああああああ・・・・」
※(惨劇残虐デストロイヤー)
デストロイヤーの体を赤いオーラーが包む。
「ダイナマイトかかと落とし!」
岩盤に回転速度が乗っかったかかと落としが炸裂する。岩盤に足の半分がめり込む。
※(根性あるなら言ってコイヤーアアアアアアアー)
「点火!」
めり込んだ足が真っ赤になりダイナマイトの爆発のような現象が発生する。
ドッゴーン!縦と横に大きくひび割れる岩盤。
振り向きもせずそのまま飛び去っていくデストロイヤー。
バッシャーン!天高く水柱が上がる。
水しぶきが村人達に降り注ぐ。水柱の周りには虹が発生している。湧き上がる歓喜。
若者は涙を流しデストロイヤーへの感謝を口にする。
※(コイヤーアアアアアアアー)
「おお、神よ、ありがとうございます」
※(コイヤーアアアアアアアー)
●
「気まぐれって・・・ここまで魔族の話をしておいて、オチが気まぐれっすか」
「まあ、聞けってレニー。魔族ってのは長生きな分、退屈な時間も長いのさ。
時折、馬鹿なことをしてみたくなる時期ってのが周期的にやてくるのさ。
魔王のやつもな、退屈だったから魔王軍を作ってみた、とか言ってたしな」
マジ! 魔王軍って魔王の退屈しのぎだったの! そんなノリなのかよ。
俺っちは風神子と雷神子を88が最初に召喚したときに言っていた台詞を思い出していた。
『レニーは私の大事な暇つぶしに必要な友人だよ。殺してはいけないよ』
もしかしたら、俺っち達のバンド活動は88にとっての
馬鹿なことをしたくなる時期、気まぐれってやつなのかもしれないな。
「そんな時期が俺様にもやってきてな。
300年くらい前に中華鉄健珍民共和国のあるダンジョンに
ガンガンの戦闘服と武器とちょっとした武具を宝箱に入れてばら撒いたのよ。
あと、それなりに強いモンスターも数体とっ捕まえてダンジョンの中に放ってな。
あのダンジョンにはレアアイテムが結構あるらしいぞ!って噂を流してみたところ
ダンジョンの周辺に街が出来ちまってな。
今じゃちょっとした観光スポットみたいになっちゃってるのさ」
「もしかしてその街の名前はチャンリンシャンではありませんか?」
あっJBが完全にこっちの世界に帰ってきた。