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B:老人の休息


 赤い砂漠の中にポツンと緑色の点が浮かんでいた。


 常緑の高木、ナツメヤシに囲まれた水場。文字通り、砂漠の中のオアシスである。


 それを視界に収めたが、老人の表情に変化はない。喜びも安堵あんども見られない。無表情で淡々とした歩みを続けており、ほどなくオアシスに辿り着いた。


 老人は水辺にひざまずき、水面に映った自分に問いかける。

「おまえは何者だ? 本音を聞かせてくれ。一体、何がしたいのか?」


 もちろん、答えは返ってこない。それは簡単に得られるものではない。下手をすれば、永久に得られないこともありうる。


 それでも、考え続けなければならない。試行錯誤。トライ&エラー。時間をかけて取り組まなければ答えの出ないものもある。


 大事なのは計画の完璧さだ。細部まで整然と組みあがった、美しい集合体。完全無欠な世界。それが理想であり、目標である。


 もしかしたら、一生をかけて考え続けなければいけないかもしれない。そう思うと、憂鬱ゆううつな気分になってくる。


「一時的でも構わない。誰か、私と代わってくれないものか」


 つい、そんな愚痴ぐちまでこぼしてしまう。決して叶えられない願いだとわかっていながら、何百回、何千回も同じ文句を繰り返している。


 答えの出ない問いかけは、老人の仕事であり、責務だった。簡単に放棄するわけにはいかない。要は物事のとらえ方だろう。


 なに、時間ならたっぷりある。十年単位で無理ならば百年単位、万年単位で考えれば済むだけの話だ。


 とりあえず、考えごとはやめよう。ずっと、同じ場所をグルグルと回り続けている気がする。身体の方はどうということはないが、精神の方がクタクタに疲れ切っていた。


 老人は両手でつくった器で清浄せいじょうな水をすくう。乾ききった顔を洗い、充分に喉を潤す。四肢を投げ出すように横たわり、緑豊かなナツメヤシを見上げてみる。


 しばらくの間、植物の吐き出した新鮮な酸素を身体に取り込んでいると、長い眠りから目覚めたような気分になった。


 空の青さが増して、赤い砂漠とのコントラストを強めていた。


 もちろん、空の色が変わったのではない。老人の眼の方が変わったのだ。合わせて、脳髄の色彩を感じとる部分も活き活きと働き始めたのだろう。


 頑強な身体をもつ老人だが、知らず知らずのうちに疲労が蓄積していたらしい。これ以上、考えたとしても、よいアイデアは浮かばないし、満足な仕事はできない。


 老人は目を閉じて、身体を休めることに専念した。


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