C:夢見るシーナ③
シーナとレンは無事に、夢の世界からログハウスへと帰還を果たした。ただ、夢の世界で起こったことであっても、当事者の二人にとっては現実と何ら変わらない。
(キスしちゃった。それも自分から、キスしちゃった)
シーナは恥ずかしくて、レンの顔を見られなかった。覚醒したレンがミルコから状況報告を受けているのが、その声を聞いているだけで、頬が赤らんでしまう。
(いやいや、夢の中でのキスって、どういう位置づけなんだろう。そもそも、人工呼吸のためだとしたら、ファーストキスにカウントされるもの? わからない。わからないよぉ)
シーナは頭を抱えて、のたうち回りたい心境だったが、そんなことを吹き飛ばすような出来事が起こる。
女性スタッフが地下室に駆け込んできたのだ。
「ウロビトの群れが、ここに向かっています。個体数、50~60。距離、約15km。時速20kmで接近中。45分後には、ここまでやってきます」
ミルコとレンは反射的に立ち上がる。
「レン、〈響力〉の回復具合は、どう?」
「まだイマイチ。もう少し時間がいる」
二人はテキパキと着替えと武器の準備を整えながら、
「ミルコ、ここから脱出手段は? クロバチか?」
クロバチとは、〈境界守〉所有の小型輸送機を指す。米軍のオスプレイと同様に、両翼の端に回転翼を装備したVTOL機(垂直離着陸機)である。水平飛行時はプロペラ機のようだが、回転翼を上に向けることでヘリコプターのような垂直離発着を可能にした。
蛇足だが、オスプレイは国内配備の際にマスコミや市民団体から大きな反発を受けたが、そのユニークな構造のせいか、同様の機体はSFアニメの中でよく見かける。
クロバチはオスプレイより一回り小さく、大幅な軽量化により、抜群の機動性を誇っている。VTOL機の構造上、複雑だった操縦も格段に簡素化されている。
「ええ、そのクロバチよ」と、ミルコは言う。「でも今すぐ、飛び立つことはできない。〈ディーダ〉落下で巻き上がった粉塵がエンジンに混入したせいで、ローター(回転翼)の調子が悪いのよ」
「整備が終わるまで、どれぐらいかかるんだ?」
「少なくても、あと1時間は」と、岸乃という女性スタッフが応える。
レンはミルコと顔を見合わせ、
「とりあえず、クロバチの安全確保だな。ウロビトが来るまでに終わらなければ、シーナを連れて森に逃げ込む」
「それがオーソドックスな対応ね」
「ミルコ以外に、何人きている?」
「三人連れてきたけど、二人は整備に専念させているからね」
つまり、戦えるのは、レンとミルコ、岸乃のみである。
「たった三人で、ウロビトの大軍を迎え撃つわけか」
それがいかに難しい状況であるかは、素人のシーナにも想像がつく。自分が戦力にならない上に、完全なお荷物状態。申し訳なさが募るばかりである。
「レン、お困りのようだな」シーナの頭の上から声がした。「シーナを守るんだろ。頭を下げて頼むなら、手を貸してやってもいいぞ」
そう言って、掌サイズのアシュタルがふわりと床に降り立った。
かたわらには、彼女を覆っていた蛹がバラバラになっていた。アシュタルもシーナたちと同様に無事、夢の世界から帰還を果たしたのだ。




