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5ミリ先にある怪物帝国(モンスターワールド)  作者: 坂本光陽


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B:老人の検討


 高齢者は一般的に頑固にみられがちだが、老人の頭は柔軟性に富んでいた。

 他の者の意見に耳を貸す寛容さは持ち合わせている。だから、青年の斬新なアイデアにも耳を傾けることができた。


「なるほど、君の言う通りかもしれん」

「でしょでしょ。そうだと思いますよ」


「しかし、責任の重さを憂慮するに、〈丸投げ〉は無理だろう。一部を任せるというのなら、まだわかるがね」

「〈丸投げ〉という言い方はよくなかったですね」と、青年は笑う。「〈人任せ〉というのも無責任に聞こえる。やっぱり、〈外部委託〉か〈アウトソーイング〉でしょう。どちらも同じ意味になりますが」


「言葉はどうあれ、責任の一部を他の者に負担してもらう、という考え方には賛同しかねるな。これまで、この作業は私一人で行ってきた。そのことには誇りを持っている」

「ええ、御立派だと思います。あなたの作業は他の誰にもできないものですし、心から敬意を払います。ただ、一人で行うのは負担が大きすぎると思いますよ。別れ道にぶつかるたびに、どちらの道を選ぶか、あなたは冷静かつ迅速に決断しなければなりません」


「それが、作業というものだよ」

 しかし、青年は簡単には引き下がらない。

「御存知ですか? 人間は一日に下せる決断の数が決まっています。ごく一般的な人間であっても、毎日、数えきれないほどの決断を下しているんですよ。朝食はパンにするかシリアルにするか? 傘をもっていくか、もっていかないか? 風呂を沸かすか、シャワーですますか?」


「……君は何が言いたいんだね」

「決断の限度数の話です。一日に決断できる数が決まっているのだから、一回一回を大事に使わねばなりません。ですから、人間の中には同じ服を着続けている人がいるそうです」


 蛇足になるが、アインシュタインがそうだった。アインシュタインは、同じスーツをいくつも買って、それを着回していたし、髪はボサボサ、靴下をはかない、というスタイルを貫いていた。着るものなどを考えるのは時間の無駄、という理由からだった。

 他にも、アップルの共同創業者,スティーブ・ジョブズが黒のタートルネック、デニムパンツ、スニーカーというスタイルだった。


「大統領を務めた男も、紺とグレーのスーツしか着なかったそうです。毎日、決断しなければならないことが多すぎるから、というのがその理由でした、何を着るか、何を食べるか、といった小さな決断であっても、繰り返し行っていると大きなエネルギー消費につながります」


 老人は黙って、耳を傾けていた。


「一つの決断は簡単に下すことができても、その数がかさんでくると苦痛になってくるし、膨大なエネルギー消費に直結するというわけです。まるで、不眠不休で働き続けるようなものですよ。決断の数を減らせば、決断の精度を上げることにもなるでしょう」


 青年の言葉をじっくり吟味した後で、老人は重々しい口調で、

「なるほど、その考えには説得力がある」


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