表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5ミリ先にある怪物帝国(モンスターワールド)  作者: 坂本光陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/47

A:黄昏の死闘①


 山間部で大きな地震にあうのは、街中にいる時よりはるかに危険である。


 落下物から身を守ってくれる頑丈な建物はないし、負傷した場合に助けてくれる人もいない。身動きの取れない状態で孤立無援になることは、大げさではなく死に直結する。救助隊が駆けつけること自体、期待できないからだ。


「……もうダメ」

 シーナはその場で座り込み、動けなくなってしまった。アシュタルが何か叫んで頭の上から逃げていったが、シーナの耳には届かない。

 地鳴りと共に、大木がシーナに向かって倒れてきた。ああ、ここで死ぬんだ、とシーナは思った。


「何をしてる。早く立てっ」

 両脇の下に手を入れられ、シーナは無理やり起こされた。そのまま軽々と抱きかかえてくれたのは、もちろんレンである。これまで以上に引き締まった顔つきをしていた。大きく横にジャンプして、大きな倒木から逃れると、素早く周囲に視線を巡らせて、さらに大きく跳んだ。


 シーナはレンの身体にしがみつきながら、地震の原因を目撃した。

 正確に言えば、それは地震ではなかった。山肌が大きく陥没して、そこから巨大な腕が空に向かって突き出されているのだ。まるで、特撮映画の怪獣のような登場シーンだった。


「レンくん、これは何!?」

「でかすぎる新手の登場だ」


 レンは苦笑交じりに呟くと、山道の崩れていない部分を選んで、きれいに着地した。異能美少年は、この状況でも冷静だった。そんなレンをシーナは改めて頼もしく思う。

 新手の巨大生物から距離をとっているが、それでも頭上から土くれが雨のように降ってくる。


 地表に出ている部分だけ見ると、それは人間の上半身に似ていた。巨大生物は人型なのだ。言わば、巨人である。

 それにしても、桁外れの大きさだった。巨人化したアシュタルは約20メートルだったが、目の前の巨人は上半身だけで倍以上はある。


「大きい……、大きすぎる」シーナが放心状態で呟く。


 大巨人はゆっくりと両手を尾根にかけると、身をよじるようにして土の中から両脚を引っこ抜いた。足の裏が土の塊を落としながら、シーナの頭上を移動していく。

 驚いたことに、足の裏だけで、テニスコートぐらいの大きさがあった。


 大巨人の全身は赤茶けた色をしている。まるで、山の一部が意志をもって、ゆっくりと動いているようだ。腕や胸に遮られて、ほとんど頭部は見えないが、全長は優に100メートルを超えているだろう。


「レンくん、これは何っ!?」先程と同じ質問だったが、今度は声が震えていた。

「今は逃げるのが先だ。しっかり捕まっていろ」

 レンはシーナを抱え直し、予備動作もなしに大きくジャンプした。山道やコンクリートなどの頑丈そうな足場を蹴って、ジャンプを繰り返し、大巨人の死角である背後に回りこもうとする。


 もっとも、大巨人は小さな二人には見向きもしない。目指しているのは、空にいるクラーケンのようだ。クラーケンは依然として空に浮かんでいたが、次第に高度を下げてきたように見える。

 まもなく、巨大な異形同士の戦いが始まろうとしていた。


「ああっ」


 シーナは確かに見た。大巨人の手が勢いよく天に向かって伸びて、クラーケンの触腕を鷲掴みにしたのだ。

 触腕とは文字通り、イカの腕のことである。蛇足になるが、イカの脚は10本ではなく8本。足よりの以上に長い2本はイカの腕である。その2本の触腕はもろそうに見えたが、どうやら強力な弾力をもっていたらしい。


 大巨人がクラーケンの本体を引きずり下ろすために怪力で引っ張ったが、ゴムのように伸びるばかりである。腕力だけでなく、腰を落として体重をかけてみても、巨大イカは空から動かない。


「あのバカでかい巨人だが、〈境界守〉の本部ではディーダと呼んでいる。山や湖をつくったという伝説の巨人〈デイダラボッチ〉からとったらしい。〈ダイダラボッチ〉の呼び名の方が有名かな」

「それ知ってる。アニメ『もののけ姫』のクライマックスに出てきたもの」


『もののけ姫』とは、もちろん、スタジオジブリ制作、宮崎駿監督の大ヒット・長編アニメーション映画である。主人公たちがラストで死闘を繰り広げるのが、シシ神から変化を遂げた〈デイダラボッチ〉だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ