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虚弱設定

「本当にすみませんでした!」


「構わない。それよりも目が腫れているよ」


ハンカチをぐしゃぐしゃに握って頭を下げるテオリアの目元に癒しの魔法をかける。

場所と良い、状況と良い、出会ったあのころのようだ。


「……エヴィ先輩には昔からお世話になりっぱなしですね」


「君は手のかかる可愛い後輩だよ」


最後に思いっきり髪をぐちゃぐちゃにするかたちで掻き回すと、使用済みの食器を持って立ち上がる。

今は…あと30分ほどで今日の授業が全て終わるくらいか。


「ちょ、先輩待ってください」


「とりあえず医務室に行くよテオリア。早くついて来なさい」


食堂で働く人達に返却が遅くなってすみません、と謝ってからスタスタと廊下を歩くと出遅れたテオリアが慌てて着いてきた。


「医務室って、先輩どこか悪いんすか」


「…普通にサボったんなら怒られるからね。ここは私が体調を崩し君が看病をしていたということにしよう」


「え…いや、先輩、それはまずいんじゃ…」


「なに、任せなさい。私は体調を崩すことが得意だからな」


歩きながら体内の魔力を……激しく循環させる。


私の属性は炎だ。それを体内で激しく回せば………あっという間に体温が上がって、気分が高揚していく。

テオリアは知らないだろうが、彼が入学する前は虚弱の設定を作るために何度かこれをして体調をわざわざ崩した過去がある。


医務室に着く頃には高温で身体がふわふわして……テオリアの手を借りながら医務室の扉をくぐり抜けた。


「あら、イブリンデ君。久しぶりねえ、また体調を崩したの?」


「すみません、先生…」


「良いわ。えっと、君は?」


「……二年のテオリア・タイロンです。せ、先輩が体調を崩して…や、やっと動けるくらいになったので連れてキマシタ」


「……そうなの?まあ、もうすぐ授業も終わりだし君もここに居ていいわ。イブリンデ君これ飲んで、寝てなさい。担任の先生に連絡をしてくるから」


「はい、先生」


パタパタと医務室から出ていく先生を見送って、言われるままに薬を飲んで上着を脱いでから寝台に横になる。

というかテオリア、君嘘が下手すぎじゃないか。


「……先輩、なんか慣れてます?」


「私は虚弱だからね」


寝台の横にある椅子に腰掛けたテオリアに向けてにっこりと微笑むと何故かテオリアが息を飲んだ。


「…先輩、あの…男、なんすよね」


「なんだい突然。君には私が女に見えるのかい?」


「はい。髪下ろしてますし、頬も赤らんでなんか色っぽいので」


「そうか、君との付き合いもここまでだな。今までありがとう燃えるがいい」


「すんません!すんません!」


「……ふ、あはは」


「……ぷ、ふはは」


熱で高揚して、少し無防備だったかもしれない。

内心で反省をしつつ茶化して、テオリアと笑い合う。

うん。やはりテオリアと一緒に居るのはとても居心地がいい。


「……ねえ、エヴィ先輩。やっぱ俺、先輩に仕えたいです。大人になってもこうして先輩と笑いあって一緒に居たいです」


せっかくまったりとした空気だったのに、テオリアはまた馬鹿なことを言い出した。

でも……歳をとって笑い合う私とテオリア。その想像は簡単に出来て、しかも容易そうだった。


気の抜ける、仲のいいテオリアがそばに居てくれたら……色々楽しいし、頼りになるだろう。


目を細めて笑みを浮かべると、テオリアは即座に椅子から降りて跪いた。


「お願いします先輩、そばに置いてください」


それはとてもとても楽しそうな………夢想だ。

男として生きるのか、女として生きるのか分からない……侯爵家次男という身分すら捨てることになるかもしれない私の傍に置いておくことは出来ない。


「……馬鹿なことを言うのは止めなさい。大人になったとて、遊びに来たりすればいいだろう?」


「……でも先輩、人のことには一生懸命になるけど自分の事には無関心だし、ぱっと消えちゃいそうで怖いんすけど」


無関心、という訳ではないんだけどね。

男性でも、女性でも、貴族との関わりを未来に繋げていこうとしていないだけで。


「人がそう簡単に消えるわけが無いだろ。ほらズボンが汚れるから立ちなさい」


私が従者として受け入れる気は、無い。

柔らかく微笑みつつもその意志をはっきり示すと、テオリアは渋々立ち上がった。


「エヴィ!大丈夫か!?」


その時、荒っぽく扉がバン!と開かれて兄上が中に入ってきた。

兄上はテオリアをじろりと睨んでから、すぐに寝台の傍に駆け寄って額に手を当てて具合を見てきた。


「このところ元気だったが、どうした?やはり昨夜遅くまで話したから…!」


「大丈夫、いつものです兄上」


「…いつもの、か?」


「ええ、いつものです」


兄上は弟を体調不良で失ってるから、殊の外私の体調不良に過敏だ。

生徒会長も務める兄上にこれ心配をかける訳にはいかないので正直に自分で体調を崩したというと、当然ながら理由が気になるのだろうテオリアをジロっと睨んだ。


だが、授業をサボることは自分で決めたことであってテオリアが責められる謂れは無い。


「何故、そうなった」


「さあ、分かりません」


「…いつもの、だろう?」


「ええ。魔術実技で少々昂ったんですかね?」


「実技で暴走したのならこの程度ではないだろう。理由を述べよ」


「分かりません」


「あ、あの、俺が」


「ああ、失礼」


眉間のシワがどんどん濃くなる兄上に、胡散臭いほどキラキラした笑顔で答えを交わし続ける

そして罪悪感からか焦れて暴露をしようとしたテオリアの顔面に枕投げつけて彼を黙らすと改めてにっこりと笑って兄上を見る。


暫く見つめあって、兄上はため息をついて片手で顔をおおった。どうやら追求は諦めてくれたようだ。


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