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後輩の決意

「次、エヴィルレーラ・イブリンデ」


「はい」


私の魔力は、高い方だ。

訓練をすれば王宮魔術師を目指せるくらいなのでかなりある方だ。

……魔力の質を重要視する貴族であっても珍しいほど高いのには理由がある。

日頃男装のための幻術を使っていることもそうだが…私が物心着いた時に居た孤児院の環境が、酷かったのだ。


記憶にある限り数回凍死しかけた。


死なないために……私は炎の魔法を覚え、上達せざる得なかったのだ。


周囲に炎の蛇を作り上げる。

蛇は大きく大きく…運動場の半分ほどを覆い尽くすほどの巨体になった。

その瞬間、ブチッと髪紐が焼ききれ三つ編みが解け長い髪が背中に広がる。


あぁ…髪紐はダメだったか。


ちなみに制服とかは対魔術素材でできているので焼けたり破れることはほぼない。


「うむ、相変わらず見頃な魔力と制御だ。もういいぞイブリンデ。休憩してなさい」


「はい、ありがとうございます」


生徒で知っている人は少ないが、教師は私の虚弱設定を知ってるため測定が終わったらすぐに休憩スペースに行くように指示された。


「やっぱイブリンデの炎はやっべーな。俺の水魔法じゃあれは消せないわ」

「…あと二年間は絶対に消させないさ」

「それ、卒業まで俺は勝てないってことじゃねーか!」


髪が解けた状態で男子生徒と軽く喋り会う私を

ーーーーー校舎からじっと見つめている人物が居ることに、私は気づくことは無かった。







「素敵…」


「きゃ、目が合ったわ」


「気だるそうな雰囲気が素敵…」


合ってない、合ってない。

髪が解けている姿が新鮮なのかすれ違う女子にキャーキャー言われながら食堂に向かう。

……男子としては『綺麗』な容姿でも女子としては『普通』だからなあ。

モテても、全く嬉しいとは思えない。


さっさと個室に逃げ込もうと早足で食堂に向かい、食堂の列に並ぶ。


「イブリンデ子息、もし良ければ一緒に食事を取らないか」


あとちょっとで順番がくると思ったその時、列の外からネイル子息に声をかけられた。

子息はちらっと列から離れたところを見るとそこにはエヴァロン殿下が居て、お誘いが彼の意思だと言うことが察せられる。


……めんどくさ。


「申し訳ありません、既に一緒にとる約束がありますので」


「お相手も一緒でも構わないが?」


「さすがに急に予定を変更しては相手に対して失礼になりますので」


「そうですか。では後日一緒に食べましょう」


約束相手に対して申し訳無い、と言いつつ

あなた達は私に対して事前約束もなく割り込もうとしてるのは失礼ですよ?とやんわりと微笑みながら言うと、ネイル子息はあっさりと引き下がってくれた。


いや……いやあ、あのさあ?


王族と関わっても百害あって一利なしだから私は関わりたくないのだが。

この分では絶対にまた誘いが来るじゃないか。


ああ、もう面倒臭いなあ。


内心でイライラしながら約束の個室に入るとそこに既にテオリアが座っていた。


「やあ、遅くなったね」


「エヴィ先輩?髪、どうしたんですか」


「魔法実技でちょっと紐を燃やしてね」


「なるほど………先輩、ちょっと疲れてますか?」


「……疲れてるね」


エヴァロン殿下とかお前とか、色々面倒で。

とはさすがに口に出さずに食事に手をつける。

疲れて話す気力もないのを察してくれたのかテオリアは終始静かであったが、不思議と居心地は悪くない。


「……そういえば、俺、家に婚約解消を願い出る手紙を書きました」


食事が終わった時テオリアは小さく笑いながらぽつりとそんなことを呟いた。

彼の表情は穏やかで、真剣で……思いつきではなく、本気で考えた結論なんだろうということが察せられる。


「…そうか」


「先輩には色々と気にかけて貰ったのに申し訳ないんですが……俺、疲れてしまって。エヴァロン殿下にも睨まれてしまったのでこれ以上この関係を続けても悪いことしかないなって…昨日はルツェリアのために身を引くだなんだ言っといて、結局自分のためで情けないんですけど…」


本気で凹んでいる様子のテオリアに息を飲む。

テオリアは本気で……自身の本音を語っている。

少し考えて、丁寧に言葉を選ばないと……これは、深い傷になりかねない。


「…君は、何度言ってもルツェリア嬢に優しくできてないし、誤解を上手くとくことは出来ないし、周囲の人間にも誤解されてるようだが…」


「………」


「……だが、テオリア。君は、頑張っていたよ。君は君なりに頑張っていたことは私はちゃんと見ていたよ」


手を伸ばしてテオリアの髪を撫でる。髪は硬めな性質を持っているのかゴワゴワしていた。


微笑みながら見つめていると、テオリアの表情がどんどん凶悪になっていくが……目元が、赤い。

泣きそうになっているのがわかって、しょうがない子だなとハンカチを差し出す。


「私が知るのは一年だけだが君のことだからどうせ婚約を結んだ時から努力はしていたのであろう?頑張ったな、テオリア」


「……は、いっ」


そしてハンカチを受け取って嗚咽を堪えて泣き出すテオリアの頭を撫で続け……午後の授業はサボることになるな、と諦めた。



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