読めない字の謎
「はい、お待たせしました。少し、オマケしておきました」
「……ありがとう、美味しそうだね」
少し…?少しとはなんだろう。
先程とは違う給仕の女性が運んできた二人分の料理は同じ注文だったとは思えないほど……量が違った。
とても美味しそうな切り分けられた焼いた肉。
……私の方は皿から溢れんばかりに肉が山盛りになっている。
そして添付の芋などの野菜もパッと見で多い。
パンに至っては、ルイスは皿に置かれてるが……私のは籠もりだ。
正直、食べ切れる自信が無い。
「……おい、リーチャ。僕とヴィルの違いが酷すぎないか?」
「あら、仕方ないじゃない。みんな王子様に手料理を食べてもらいたいのよ」
そして追加情報により、物量以外の面でも食欲がグッと落ち込んだ。
給仕の女性達の思いが詰まった食事……。
「食べきれなかったら持ち帰っても良いかな?」
「はい!」
胸が詰まりながら食べた食事だが、その味は少し濃いめだがとても美味しかった。
汗をたくさんかいて運動をした後に食べるのならばこれくらいがちょうどいいのだろう。
「どーだ?」
「とても美味しいよ」
「そっか!………それにしても、食べ方まで綺麗だなあ。なあ、ヴィルって貴族なんだよな?」
「まあ、そうだね」
食べ方、か。
言われてルイスの食べ方を見ると確かに……ナイフで切り分けているもののサイズが大きく、口を大きく開いて食べていた。
私がそんな食べ方をすれば行儀が悪いと怒られるだろう。溶け込むためには真似をした方が良いのかもしれないが……すればミネルヴァ辺りが卒倒してしまいそうだ。
「やっぱなー……なあなあ、僕普通にしてて平気?無礼者!とか不敬だ!とか言って切り捨てられない?」
「『ヴィル』と接してる分には問題ないさ。まあ、公の場ではちょっとあれかもしれないけど」
「そっか、良かった。もうさー、ヴィルずっとうちに居ろよ!優秀で話が通じるならお貴族様でも良いからさあ」
「……そう言って貰えて光栄だ。でも、そうだな……あの惨状は改善を進めないと私が抜けたあとまた書類の山ができるんじゃないか?」
「だろうなあ。皆もっと綺麗な字で書いてくれりゃ楽なのになあ」
『字』か。悪筆で誤字脱字だらけの要再提出の書類を思い出す。
確かにルイスの仕事の過半数は…解読と言っても差し支えないだろう。
字を綺麗に書けるように改善…?いや、平民の識字率を考えるとそれは現実的じゃないな。
字を綺麗に書く、では無く
何故あの字が書かれているのか。それを調べて見るのも一考の価値はありそうだーーーーーーそう思った時だった。
バン!と私とルイスのテーブルが叩かれて、咄嗟に飛び出して来たレオールに庇われる。
「言ってくれるじゃねえか、もやし野郎がよ!」
「ああ?本当のことだろうが!」
テーブルを叩いたのは一人の兵士だった。
体格は良いが……言葉に訛りが見えることから彼は平民だろう。
彼はこちらを見て一瞬目を見開くがすぐにルイスを見て目を釣りあげて口汚く怒鳴り始めた。
「じゃあてめぇはもっと早く仕事しろや!三ヶ月前の経費なんて何に使ったか覚えてるわけねーだろうが!」
「あんたの字で書いてんだから読めばいいじゃねえか、バカ言ってんじゃねえよ」
ルイスは大人しい青年だと思ったがどうやら熱い人間のようだ。少し意外だなと思いつつ丁度いいのでレオールを避けて……怒鳴り込んできた彼に声をかけてみる。
「少し、いいかな?」
「……なんだよ」
「質問なのだが、本人でも読めない字をどうやって書いたんだい?」
「あぁ?てめえも喧嘩売ってんのかよ」
「いや、ただの事実確認だ。どうやって書かれてるのかがわかれば何かしらの対処が出来るかもしれないだろう?」
私にも噛みつきたいのだろうが、レオールとカレヴァン殿がいるため懸命に堪えている兵士。
父上よりも少し年上だろうか。髪がまばらにしろくなっていることから察する。
……長くここに務めているならば、騎士団についても色々と詳しそうだ。この際ついでに色々と聞いてみたい。




