食堂の男装令嬢
「ヴィルー、飯食いに行こうぜ。昼飯は僕が奢るよ!」
「ああ、わかった。という訳だ、ミネルヴァも休んでいい」
「かしこまりました」
昼食の鐘がなるとルイスに声をかけられた。
断る理由もないし、持ってきた食事は全部食べられてしまったのでルイスとカレヴァン殿とレオールの四人で食堂に向かう。なお、行くんなら帰りに食堂で軽食を貰ってきてくれと数人の人に頼まれた。
ルイスとアレンの仕事はもう少し頑張れば終わりが見えてきたが、他の人物はまだらしい。
二人の仕事がほぼ終わりに近くなれば今後はルイスが各部隊からの月別経費処理を一人でやり、アレンは各部隊の収入会計の手伝いに入るらしい。
使う金が終われば、今度は稼ぐ金という訳だ。
稼ぐ手段は色々とあるらしい。
要人警護、盗賊の殲滅、魔物退治、他領への出張、中には軍を回せない村や街の自警団の訓練などetc。
それらは軍にまとめて支払われ、領主から防衛費として支払われたお金とひとつになり軍から各個人に給与という形で支給される。
下級事務官はそういった末端の会計処理、末端の報告書の処理などを行っているらしい。
学ぶことは、まだまだ多い。
「結構混んでるな」
「え、全然少ない方だよ。もうちょいすると第二のヤツらが山のようにドバーッとなされてくるぞ」
「……椅子、足りるのか?」
「無理無理、だからさっさと食ってさっさとたい「きゃああああああ!」」
既に椅子の半分以上が埋まってる食堂を見回しながら空いている席に座ると黄色い悲鳴が上がって視線が一気にそちらに集まる。
そこには昨日お茶をくれた女性が嬉しそうな顔をしてから……私の背後を見て凍りつき、そして顔を青ざめさせた。
なんだ、と振り向いてもそこにはカレヴァン殿とレオールくらいしかいない。
「おいおい、どうしたんだよリリィ」
「な、なんでもないわ!あ、ま、また来てくれてありがとうございます」
彼女は顔を青ざめさせながらも、心配する兵士の前を通りまっすぐ私たちの元へと来た。
「こんにちは。今日は彼が奢ってくれると言うのでご馳走になりに来たんだ。食事はどんなのがあるんだい」
「えっと、肉料理と魚料理とパンとスープの三種類です」
肉と魚とスープか……私の嗜好としてはスープなのだが。だが前に並ぶ人は圧倒的に肉料理を注文する人が多い。
ここは周りに合わせて肉料理を選ぶべきだろうか。
「ルイス、おすすめは肉料理なのか?」
「だな。ヴィルは細いから肉を食った方が良いぜ!ちなみにスープとか言うなよ、俺は奢りでスープを選ぶほど薄給じゃないぜ」
どうやらスープは安いらしい。
まあ、食べさせてもらう身なのでここは大人しく従っておこう。だが、スープも気になるから後日また来よう。
「じゃあ肉料理を頼む。カレヴァン殿とレオールはどうする?」
「私は結構。あとで食事をとる時間をいただく」
「俺も、護衛中なので後で休憩とって食べます」
「そうか。ああ、あと軽食を……何人分だ?」
「マルコさんは愛妻弁当があるから七つだな。持ち帰りを七人前、頼む」
「……あの、また来てくださいね」
「……ああ。スープ料理が気になるからまた来るよ」
また来るって!と給仕仲間に宣伝しながら去っていく給仕の女性を見送ると、ルイスが私をじとっとした目で見ていた。
何となく言いたいことはわかるのであえてそこには触れず…周囲の様子を伺う。
ふと、気づけば私たちの周囲には…空間がある。
そこそこ混んだ食堂で空白の空間は違和感が強い。
つまり、敬遠されてるようだ。
だが、私に向けられる視線は好奇心によるものが多い。
畏怖の視線はむしろ、私の後ろに向けられている。私の背後、カレヴァン殿とレオール。彼等の何が怖いのかと思い……ふと気づく。
カレヴァン殿は騎士団長候補の一人である。
父上が口を出したせいで私付きになっているが……つまり、騎士団においてそれなりの身分だ。
そうか、平民の食堂に貴族が来ただけでなく
彼らからすれば上司が来たようなものなのだろう。
しかも、食事をする訳でもなくただ見ているだけ。それは居心地も悪いし近づきたくないだろうと、今更現状を把握する。
今回は誘われるままに来たが……私はあまり来ない方が良いかもしれないな。
最も、給仕の女性たちは来て欲しいようだが。




