下級文官
2話同時更新になります。本日一話目の更新がまだな方は1P前からご覧下さい
「お茶と果実水と軽食をお持ちしました。お好きに食べてください」
下級事務室に戻って、コップにお茶を入れて席に戻ると、私と入れ替わるように他の事務官たちがワゴンに群がった。
「助かった」
「ありがとう…!」
彼等は美味しそうにお茶を注いでその場で飲み、その場で軽食に手を付け出した。
……机で食べないのか、そう思ったけれど彼等の机にはどう見ても置くスペースなどない。
かく言う私の机も、この少しの間にたくさんの書類が山積みにされていた。
まあ、しょうがないか。
さすがに立ち飲みはマナー的に抵抗があるので椅子に座ってお茶を飲みながら……先程いただいたクッキーを一枚かじる。
家やプリシラが出してくれるものと違って甘さが控えめだが……それでも甘味が身体に染み渡るようだった。
ああ、美味しいなあ。
しみじみしていると隣に事務官殿が戻ってきた。
「軽食、助かったよ。改めて紹介させてください。僕はルイス、下級事務官の下っ端だ」
「初めまして、ヴィルと呼んでください。まあ、見てわかるように少しわけアリなんだ」
「ああ、うん。それはわかるけど……計算に強い君が来てくれて助かったよ。そういう人は基本的に上級の方に配属されるからね」
「そうなのか」
「僕もちょっと計算は苦手で…ヴィル様みたいな人が来てくれて大助かりだよ」
「期待に応えられるよう、もっと頑張ってみる」
計算に強い…と言うとある程度教育がされているのだろう。
ある程度教育がされてる者は上級に行くのか。
なるほど、と思いつつお茶を飲み干してワゴンの方に戻す。
「軽食、ありがとうな。後で差し戻しの書類を第二に届けるからついでにワゴンとかも返しとくから君は計算に専念しててくれ」
するとルイスとは逆隣に居た人がパンを片手に満面の笑みで、くれぐれも…くれぐれも頼むと少々威圧感と共に言われた。
どうやら彼は計算が嫌いなようだ。
「わかった、頑張る」
「助かるっ!」
その後はルイスと……逆隣のアレンの計算機としてたんたんと計算を進める。
終業が近くなるとさすがに処理効率が落ちてきた。だが、計算違いを防ぐために念の為に二回計算をするようにしたから仕方ないだろう。
そして定時の鐘がなった。
だが、当然のように立ち上がる下級事務官は一人も居ない。
「ヴィル卿、仕事は終わりの時間ですよ」
「終わり?どこがだ?彼等は誰一人立ち上がっていない。こんな中新人の私だけ立ち上がる訳にはいかないだろう」
「……でしたら残業申請を室長の方にすべきです。勝手に残業をしてはなりません」
「そいつの申請ならしといたぞ。ついでに机や椅子の補充申請もな」
「ありがとうございます室長」
「ろくに教えてやれなくて悪いな。とりあえずその感じで仕事を進めてくれ」
「わかりました」
カレヴァン殿の言葉を聞いていたのか、室長がシレッと残業指示をしてきた。
カレヴァン殿は不快そうに眉を顰めるが「ならばいいのですが」と黙って壁際に立った。
それから数時間後、ようやくみんながちらほら帰り出した。
そこまで来てようやく室長が私を手招きした。
「色々と悪いな。初日にしてはよくやってくれた。で、君はいつまでここに居る予定だ?」
「しばらく、としか聞いておりません。とりあえず出来ることをその時まで精一杯頑張らせて頂きたいです」
「彼に何ができるかを見るためにも一月はこちらで働いてもらう予定です」
室長の問いかけに、結局はカレヴァン殿が答えた。というかそれはまずは私に言ってもらいたかったなあ。
そして一日突っ立ってるだけなら手伝ってくれれば良いのになあ。
カレヴァン殿は別に護衛でもなんでも無いのだから、下級事務官の仕事も手伝いくらいしてくれたって良いんじゃないのか。
……諸々を飲み込んで、私はニコニコと微笑む。
何故ならカレヴァン殿は一応上司に当たる人だ。無駄に心象を悪くする必要は無い。
「なるほど。とりあえずルイスとアレンの机の山がなくなったら次の仕事を教える余裕も出るだろう。出来る限り頑張ってくれ」
「わかりました。ちなみに使用人は連れてきても良いんですか?」
「…きちんと届け出をすれば問題ないが、此処では使用人に仕事を任せることは出来ないぞ?」
「それは分かっています。身の回りの世話をするものが必要なのです」
「そうか、一名でいいか?申請をしておこう」
「ありがとうございます」
とりあえず、こんな感じで地獄ではないかと疑うほど激務の下級事務の仕事が始まった。




