第二食堂
計算、計算、計算。
さすがに数時間やると疲れてきて…甘いものや飲み物が欲しくなってきた。
甘いものは明日から持ってくるとして、飲み物は…辺りを見回すと隅の方にコップと、水が入っていない空の瓶がいくつもあった。
どうやらどこかで汲んでくるしかないようだ。
「失礼、少し喉が乾いたのだがどうすれば良いのか聞いても?」
「あ、すみません!今貰ってきます」
「いや、やり方を教えてくれれば私が行こう」
「え……い、良いんですか?」
「ああ。君の方が優秀だからな」
「そ、そうですか。あの、食堂に行けば瓶に水を入れて貰えます…あ、あの、申し訳ないんですが食堂に行くならあそこの空瓶を返してもらっても構わないでしょうか?」
「無論、構わない。貰ってくるのは一瓶でいいのかな?全員飲める量を持ってきた方がいいのかな?」
「あ、も、持てるだけお願いします。皆取りに行くのが大変なだけで、部屋にあったら飲むので」
「わかった、任された。計算は戻ったらやるので置いといてくれ」
空の瓶……水差しは全部で五つあったコップも持っていった方が良いのだろう。
さすがに全ては持ちきれない。
「ヴィル様、食堂ではカートの貸出もしています。飲み物をワゴンで運んで、ワゴンを返す時に空瓶を返せばよろしいかと」
「なるほど。レオール、その案を採用させてもらおう。カレヴァン殿、食堂に案内してもらっても良いだろうか」
レオールのアドバイスが最適解と判断してとりあえず両手で二個持つとカレヴァン殿は少し考える素振りを見せた。
「…貴方が行ける食堂と言うと少し遠いですのでワゴンは借りられませんよ」
「近くに私が行けない食堂があるのか?」
「ええ。平民たちが中心の第二騎士団が使っている食堂があります。さすがにそこは嫌でしょう?」
「構わない、時間が惜しいので案内してくれ」
「……わかりました」
平民たちが中心にとる食堂。そう言われて逆に好奇心が湧いたのは否めない。
道中カレヴァン殿が教えてくれるには第一騎士団は貴族の親戚や富豪、魔法が使えるものが多く
第二騎士団は平民中心らしい。
第二の方が人数が多く、粗野で粗暴な物が多いため……食堂を含め第一と第二は完全に別棟で別れているそうだ。
ちなみに事務官や衛生兵たちは事務棟で勤務しており、下級事務室は第二騎士棟に、上級事務室
は第一騎士棟に近い配置になっているそうだ。
つまり貴族らしい私がそれなりの方の食堂に行くには…事務棟を横断し、第一騎士棟まで行かなければならないそうだ。
それは確かに遠い。
「失礼する」
昼もかなり過ぎた時間だったため食堂で食事をする一般兵は居なかった。
厨房で何かをしている女性に声をかけると…女性は慌てた様子で食堂に出てきてくれた。
「ま、まああ!な、なんの御用でございましょうか」
「こちらの返却と、新しく水を何瓶か貰いたく、それと運ぶためのワゴンをお借りしたいのだが」
「え、えっと、所属はどちらでしょうか」
「下級事務室だ」
「……下級…?」
女性は私を見て、カルヴァン殿を見て、レオールを見て、訝しそうにしながらも空の水差しを受け取ってくれた。
「…うちでは水と、簡単な作り置きのお茶と、果実水しか出せませんが…良いんですね?」
「……そんなに種類があるのか。しまったな、どれがいいか尋ねてくるべきだったか……その、無知ですまないが下級事務官ではどの飲み物が好まれるかご存知か?」
「じ、事務官様ならお茶か果実水がいいと思います。簡単な物でしたら軽食もおつけしましょうか?たまに取りに来る人はいつも頼まれます」
「そうか、とても助かる情報だ。君に言う通りにさせてもらいたい。ありがとう、感謝する」
「………ふぁ、ふぁい!わ、わわわわかりました!」
彼女の情報はとても有益で、笑顔で礼を言うと彼女は真っ赤になって厨房に引っ込んで行った。
そしてそれからすぐに……厨房からはメイドたちが使っているワゴンよりも簡素だが、物は沢山置けそうなワゴンが出てきた。
下の段には水差しが六つ。
上の段にはコップと……食べやすそうなパンに具材を挟んだ物が複数の皿に沢山置いてあった。
それらを、四名ほどの女性が照れくさそうにしながら運んできてくれた。
「あ、あの…お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「…ヴィルと呼んでくれ。突然無茶を言ったのにこれだけの量をすぐに用意してくれて感謝する」
「そ、そんな!昼の残り物を詰めただけですし…下級事務官の人たちはまともに食事に来ないから、あたし心配してたんです!」
「そ、そうです!食事いつも大丈夫かなって…!」
「……そうなのか。貴女たちの心配、感謝する」
「あ、あの!ヴィル様は甘いものはお好きですか!」
「……それなりには好むよ?」
「で、でしたらこれどうぞ…!つまらないものですが…」
そう言って差し出されたのは……シンプルなクッキーが入った小袋であった。
甘いものが欲しかった所なので、とても嬉しい。
笑顔で受け取ると彼女らはきゃあ!と色めきだった。
「まだ空瓶があるんだ、すぐに返しに来るよ」
「あ、これ食べ終わってからでいいですので…また来てくださいね!ヴィル様、是非ともまた来てくださいね!」
「……ああ。わかった。ありがとう、感謝する」
……どうやら彼女たちもこの顔に惹かれたようだ。
嬉しそうな彼女たちに手を振って、ワゴンを押して戻る。
さすがに水差し六個に食事やコップは重く……密かに魔力を身体に回して身体強化をして運んだ。




