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001悪役令嬢が引っ越しの挨拶に来た件

※書きたいところだけ書いて見切り発車した作品です。とりあえず完結を目指す作品の為、誤字脱字、設定ミスはガッツリありますが、気にしないでください。気になる方は気にしないでください。気にならない方はそのまま気にしないでください。雰囲気だけ楽しめる人推奨。

私が書いて楽しければいいという作品の為、本当に雰囲気だけ楽しんでください。

人間、自分の許容範囲外の事が唐突に起こると無意識に笑ってしまうと誰かが言ってた気がする。


佐伯琴音(さいきことね)は、その誰かが言ったかもわからない言葉を実感している最中だ。


「隣に引っ越して参りました、アレンスキー公爵が娘、マーガレット=イル=アレンスキーと申しますわ。よき隣人として精進してまいりますが、こちら(・・・)の世界は何しろ不勉強なものでして、色々とご教示頂ければと願っております」

「……あ、うへへへぇ」


という具合である。


隣人として越してきた人が、まさかご貴族様とは思うまい。

こちとら十六年間海外に出たこともない純日本人で、住まいだって郊外ながらも平凡なサラリーマンの父とパートを頑張る母が懸命に建ててくれた一軒家という、ごくごくどこにでもいる一般家庭である。


以前隣に住んでいたのは一人暮らしの老人で、つい最近、その婆ちゃんが施設に入居した事を息子さんが報告に来てくれた。その折にこの家を手放すことも教えてくれて、顔を見れば名前を呼んで挨拶してくれる程度には顔見知りだった人がいなくなるのは寂しいもんだと、母親から聞かされて琴音も思わずしんみりしてしまったのは記憶に新しい。


それがあれよあれよという間に、隣の家がテレビで見るような海外の洋館風にリノベーションされていたのは知っていたが、買い手がついていたことまでは知らなかった。


一般家庭の玄関ドアの前に立つには、おおよそ相応しくない堂々とした立ち振る舞いで、美人の部類に入るだろう。

海外で言えばアメリカかイギリスか、ぶっちゃけ見分けなぞつかない琴音ではあったが日本人の顔立ちではないとだけ言っておこう。

簡素ながらも細部にレースが散りばめられている青のワンピースドレスと、それに似合わぬ金髪の縦巻きロールは圧巻だ。

その手にはセンスのいい扇子――なんてダジャレが思い浮かぶ程度には余裕がでてきた琴音は改めて彼女の言葉を反芻し。


「こちらの世界? ……とは?」


一応、と聞き返せば、彼女はなんてこともないすました顔をしてあっさり答えてくれた。


「なんていうのかしら? こちらでいう“異世界”? と呼ばれる類なのかしら? から参りましたのよ」

「えっと、ちょっと精神科は知らないんですけど、総合病院ならそこの道をまっすぐ行って――」

「セイシンカが何かは存じ上げませんが、病気ではなくてよ」


雰囲気的に琴音が何を言いたいか察したらしい。


「中二病じゃん!」

「ですから病気ではございません。健康体そのものですわ」

「心だよ! 心の病です!」


初対面だろうがなんだろうが、相手の素性が許容範囲外である。叫んでも仕方ないだろう。

ただ、彼女の瞳の色が問題で、淡い桃色を持っていたのだ。世の中には桃色の人がごく稀に存在するかもしれないが、少なくとも明らかに裸眼でありこれほどまでに美しい桃色はカラーコンタクトでも表現できないだろう。

琴音も瞳の色さえなければこの人の発言など全く信じることはなかったと思う――まぁ、現時点でもあまり信じてはいないが。


そんな二人のやり取りに急に第三者が割り込んだ。


「お話の途中、失礼致します」


ぬっと、彼女の後ろから話しかけてきたのは燕尾服を着た白髪白髭を生やしたいかにも(・・・・)な人で。


「セバスチャン!」

「おや、私の名をご存じで?」

「当たってたの!?」

「いいえ、エドワードです」

「違うじゃん!」


なぜ彼は期待させたのか。


「僭越ながら、私の方から補足説明させていただきたく存じます」


と、エドワードと名乗ったのは琴音が思った通り、彼女の執事だという。


「ということで、説明に少し時間を要しますので、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「説明前に図々しい!」

「まぁ、平民の家に入るなんて初めてよ」

「お嬢様も勝手にワクワクしないで!」

「お嬢様なんて他人行儀な……メグと呼んでいただいてもよろしくてよ?」

「他人です! 今はまだ限りなく他人!!」

「おかしいわエド、距離が縮まらないわ。あだ名を呼び合うのが隣人の第一歩とお母様に教えていただいたのに」

「今はまだ(・・)とおっしゃっていらっしゃいますので、精進あるのみでございましょうお嬢様」

「ポジティブ思考が半端ない」


そんな押し問答にもならない会話を延々と玄関先で続けていたところ、更に第三者の声が覆いかぶさってきた。


「琴音? 家の前で何やってんの?」


パートから帰ってきた母、真智子(まちこ)である。

しっかり買い物袋をぶら下げているあたりは主婦の鏡だ。

そんな母に反応したのはお嬢様こと、マーガレットだ。


「使用人かしら?」

「琴音の母、真智子ですぅ」

「まぁ彼女のご母堂様? これは失礼。隣に引っ越して参りました、アレンスキー公爵が娘、マーガレット=イル=アレンスキーと申しますわ」

「あらあらご丁寧に」


使用人扱いされた事をスルーできる母の心は強い。


「異世界? から参りましたので、こちらの常識には疎い部分もありご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」

「まぁ、遠いところからいらっしゃったのね。遠路はるばるようこそ」


真智子、あっさり受け入れる。


「こちら、お近づきのしるしに」


と、マーガレットが視線でエドワードに命令すると、エドワードはそそそっと真智子に近づいて手に持っていた折を渡す。

ご近所の和菓子屋で売っている菓子折り(1980円)である。


「それは異世界のものじゃないんだ……」

「我が領土の特産は絹ですの。食すものの方が良いかと思いまして。あと、美味しい」

「おいしい」


思わずオウム返ししてしまったが、ちゃんと試食しているあたり好感度が上がる。


「琴音、せっかくだからうちに上がってもらってお茶でも出しなさい。すみません、気の利かない娘で」


そう言いながら自分達の横を通りすぎてスタスタと家に入っていく母を視線で見送りながら、断る術を無くした琴音は「ドウゾ」と棒読みで隣人を家の中に招いたのだった。

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