99:偽物?
きっちり二回叩かれたドアを凝視する。
もしかしなくても、わたしを攫った犯人がやってきた……?
ちょっと待って。まだわたし、犯人と対峙する心の準備ができていないんですが……!
ドアがゆっくりと開かれ、わたしの心音がバクバクと鳴る。
ど、どどどどうしよう……!
「……お食事とお着替えをお持ちました」
入ってきたのはわたしよりもいくつか年下の女の子だった。
とっても可愛らしい女の子。小麦のような髪の色と、ぱっちりとした左右で色の違うオッドアイ。
黒のカチューシャをして、フリルのたくさんついたメイド服みたいなワンピースを着ている。
ただ……容姿はとても可愛らしいんだけど、顔が能面のようだ。白い顔には赤みがなく、まるで自動人形みたい。どことなく不気味さを感じてしまう。
声にも抑揚がなく、自動音声のよう。
「あ、ありがとう……あの、あなたは……?」
「わたしのことをあなたが知る必要はありません。あなたがなぜここにいるのかも、わたしは知りません。すべては教祖様の思し召しのままに」
それだけ言って彼女は食事と着替えを置いてすぐに出て行ってしまった。
カチャリと音がしたから、鍵もかけられてしまったようだ。
うーん、取り付く島もない……彼女と仲良くなるのは無理そうだな……。
それに、目に光がなかったし、なんか洗脳されているような感じだ。
教祖様って言っていたから、わたしを攫ったのは悪魔教というのは間違いなさそう。
自力で脱出するのは難しそうだなあ。そうなれば、誰かが助けに来てくれるのを待つしかない。
幸いなことに、今ここにヴァーリックはいない。わたしの守護獣なら、契約者のわたしの居場所がわかるはずだ。だから絶対に助けは来る。
今はわたしにできることをしないと。
まずはこの部屋の中を調べてみよう。普通の客室に見えるけど、なにか重要な手がかりがあるかもしれないし。
そう考えて部屋の中を見て回ったけれど……やっぱり普通の客室だった。
魔法の仕掛けみたいなものがあったりしないかなと、一日かけてゆっくり探したんだけどそんなものは見つからなかった。
部屋にあるのは水差しと本棚に並んだ本だけ。その本も特になんの変哲もない内容のものばかり。
でも……神話系の本が多いかな。悪魔教なのに神話の本が多いとは……。
もしかしたら……神話と悪魔教の成り立ちってなにか関係があるのかも。
この国は太陽神を信仰しているけれど、他にも神様はいる。そんな中で太陽神だけを憎むのは……なにか理由がある気がするな。ここにある神話をじっくり読めはなにかわかるかな。考えてみれば神話って内容は知っているけれど、神話そのものをじっくり読んだことはなかった。
前世だとわりあいドロドロした話が多い印象だけど……こっちの世界でも同じなのかな?
神話を読む前にアンディに連絡しよう。
きっとわたしがいなくなって心配しているに違いない──そう思って連絡したんだけど……。
『どうしたの、レベッカ?』
……アンディはいつも通りだった。心配している様子は一切ない。なんで? わたし、誘拐されたのに……。
「あ、あのね、アンディ。驚かないで聞いてね。実はわたし、起きたら知らない部屋にいて、なんか誘拐されてしまったみたいなのだけど……」
『……なに言っているの? さっき、会ったばかりでしょ』
「え……」
さっき会った……?
いや、アンディに会ったのは昨日だよね? そんなことは……。
「アンディこそなに言っているの? アンディと会ったのは昨日でしょう?」
『レベッカ、寝ぼけているの? 今さっき、お茶を……いや、待てよ……』
アンディはそう言って突然黙る。
え……なに? わたしのドッペルゲンガーがいるとか言わないでよ……。
『……レベッカ、リックはどこ?』
「一緒にいないわ。わたしの部屋にいるんじゃないかしら」
『……ごめん。確認したいことができたから、また後で連絡する』
そう言ってアンディは一方的に切った。
ええ……いったいなんなの? わたしの偽物がいるってこと?
でも、偽物だったらヴァーリックがすぐ気づくはず。なのに、気づかなかったってことは……。
「……リックも一緒に攫われている? いや、そんなまさか……ドラゴンを攫うのなんて、人間には無理だわ……」
ただ単純にわたしが誘拐されたのだとばかり思っていたけれど……事態はそう単純なものではなさそうだ。
いったいなにがどうなっているの……?




