86:浄化の結果
ヴァーリックは順調に回復しているようだ。
食べたがっていたカレーも食べられてご満悦らしい。
だけど、まだ起きている時間よりも寝ている時間の方が長い。【黒の魔力】に汚染された後遺症なのかな……。
本人曰く、『大丈夫だ』ということだけど……。カレーを食べて幸せそうに眠るヴァーリックを見ると、大丈夫なのかなと思えてきた。
ヴァーリックがカレーを食べている間にアンディから連絡があった。
魔獣の浄化の日取りが決まった。
今週末に魔獣の浄化実験を行うことになった。レナちゃんもディランには事前に言っていたようで、頑張って光魔法の練習や研究に励んでいる。
光魔法の魔力効率化については少し希望が見えてきたということだ。
説明されてもどういう理屈なのかさっぱりわからないけれど……ディランが考えた光魔法の呪文を唱えると、いつもよりも疲れないとレナちゃんが言っていた。バードも感心していたくらいだから、結構すごいことをディランはしたのだと思う。
……なにがどうしてすごいのかがわからないのがすごく残念だ……。
ヴァーリックやレナちゃんたちの様子を見守っている間に、あっという間に魔獣浄化の日が訪れた。
わたしはお留守番だ。まだヴァーリックも本調子ではないし、なにより、ヴァーリックの言う呪いのこともあるし。
わたしにかけられた呪詛のことは、誰にも言っていない。
……いや、正確には、誰にも言えなかった。
言おうとすると突然声が出なくなるのだ。それ以外のことではそうならないのに、あきらかに見えないなにかに阻害されている感じだった。
ヴァーリックの言うことを信じていなかったわけではないけれど、これで本当にわたしは呪詛を受けているんだって実感が湧いた。
そんな実感いらなかったんだけどね……。
少し緊張した様子のレナちゃんと、いつもと変わらない様子のディランを見送り、わたしはただ何事もなく終わることを祈った。アンディが死んだりしませんように……。
これは正式に皇帝陛下から許可をもらって行うものだから、騎士団の護衛がつく。だから大丈夫だとは思うけれど、万が一という可能性もなきにしもあらずだし……。
わたしの祈りが届いたのか、それとも磐石な体制の賜物か……まあ、確実に後者なんだろうけど、レナちゃんたちは無事に帰ってきた。レナちゃんは疲れ果てて、ディランに肩を担がれていた。でも、怪我はなかったから無事と言っていいと思う。
ディランはレナちゃんをわたしたちに預けるとそのまま自分の家に帰っていた。ちょっと怖い顔をしていたから心配だけど……なにかあったのかな。レナちゃんの体調が戻ったら聞いてみよう。
レナちゃんが戻ってから少しして、アンディからも指輪を通じて連絡あった。
いつもと変わらないアンディの声を聞いてホッとした。怪我もなかったと言っていた。とりあえず、生きてはいるようで本当によかった。今度会って、本当に怪我をしていないか確かめないと。
アンディとの通信を終えたのを見計らったのか、それともたまたまなのか、ヴァーリックが起きていた。
『主……アンディは無事か?』
「ええ、大丈夫そうよ」
『そうか……では、奴が接触してくるな』
「……そうね」
──魔獣浄化のあとに、また会いにいくよ。そのときにもっと先の話がしたいな。
そう言ったジャックの顔が浮かぶ。
きっとジャックは接触してくる。そしてそのときがチャンスだ。
わたしの呪詛についても、ジャックならなにか解呪するヒントを知っているかもしれない。正確に言えば、ジャックの能力なら、だけど。
それでも、もし、解呪ができなかったら、そのときは……。
……ううん、そんな最悪のことを考えても仕方ない。そのときが来たら考えれば……ううん、覚悟を決めればいいだけのこと。
「彼がなんて言ってくるのは読めないけれど、必ず上手くやってみせるわ」
『……あまり気負いすぎるなよ、主』
「ええ、ありがとう、リック」
そう言ってにこりと笑ったのに、ヴァーリックの表情は晴れなかった。




