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79:良い話と悪い話


「レベッカ……」

 

 呆然としているアンディの横を通り抜けて部屋の中に勝手に入る。

 ここがアンディの寮の部屋かあ。なんていうか……生活感がほとんどない。


 近くにあった椅子を引っ張り出し、そこに勝手に座る。

 そしてアンディを見て話をする。


「ねえ、アンディ。どうしてわたしを避けているの?」

「別に避けてなんて……ただ忙しかっただけだよ」

「ふうん……まあいいわ。そういうことにしてあげる」


 アンディの顔色は悪い。目の下には隈もあるし、ろくに寝ていないのは一目瞭然だ。

 今は化粧もしていないようで、顔色の悪さは一目見ただけでわかった。それに表情が薄いのも気になる。

 きっとアンディは相当無理をしている。そしてそれをわたしにバレないようにと、連絡を絶った。とはいえ……指輪を通じての会話くらいならできたのでは? アンディの顔を見るわけじゃないから、手紙くらい返してくれてもよかったのに。


 そんな不満はあるけれど、まあそれは置いておこう。

 今はそんなことをグチグチ言っている場合じゃない。


「アンディ、良い話と悪い話、どちらから聞きたい?」

「……良い話から聞こうかな」


 少し悩んだあと、アンディはそう答えた。

 わたしを追い出すのも諦めたらしい。賢い判断だ。


「リックが【黒の魔力】に汚染されたの」

「なんだって……⁉︎ それって悪い話なんじゃ……」

「まあ、話の続きを聞いて。それでね、あともう少しで魔獣化するくらいのところまで汚染されたんだけど、レナさんの光魔法で浄化することができたの」

「リックを光魔法で浄化……? すごいじゃないか!」

「そうでしょう? これなら……皇帝陛下たちも納得させられるんじゃない?」

「……!」


 アンディが驚いた顔をする。

 そして「知っていたの?」と静かに尋ねた。


「なんとなく、ね……アンディは独自で動くと言っていたけれど、あなたの行動は皇帝陛下には筒抜けだったんでしょう? だから、妨害をされた。あれこれ手を打っても上手くいかなかった……そんなところかしら?」

「悔しいけど、その通りだ……僕にはなんの力もないことを痛感したよ。ただ、被害が出たという報告を聞くことしかできないなんて……」


 アンディは悔しさを滲ませて言う。

 アンディよりも皇帝陛下の方が上手なのは分かりきっていることだ。アンディだって承知の上のはず。それでも、アンディが焦らざるを得ない状況下に今あるのだろう。


「でも、レベッカの話のおかげで陛下たちを説得させられそうだ。実績があるのなら、一度くらいは試しをしてもいいと判断してくださるだろう」

「ぜひ陛下たちを説得して。そして、きちんと騎士団から護衛をつけてもらわないと」

「護衛を?」


 それはまあ、護衛がいれば心強いけれど、とアンディは戸惑った様子だ。

 しかし、わたしが「良い話と悪い話、どちらから聞きたい?」と尋ねたことを思い出したようで、「……それが悪い話に関係あるの?」と聞いてきた。

 さすがアンディ。鋭い。


「ええ、その通り。これは確定事項ではないのだけれど……魔獣の浄化のとき、魔獣化したドラゴンが現れる。もちろん、リックじゃないわ。そのドラゴンに襲われて……あなたが死ぬ可能性があるの」

「……魔獣化したドラゴンに襲われて、僕が……死ぬ?」


 おうむ返しに言うアンディに頷く。

 いきなりお前はいついつに死ぬと言われても受け入れられるものではないだろうし、信じられないのも無理はない。

 けれど、知っていてなにも言わずにいて、実際にそうなってしまったら、わたしはあのときなぜ言わなかったのかと自分を責める気がする。これはゲームじゃない。やり直しは効かないのだから、少しでもアンディが生き延びる確率を高めておきたかった。


「信じられないのもわかるわ。でも、そうなる可能性があるということだけは知っておいてほしいの。そして、自分の身を最優先で守ってほしい。あなたが死んでしまったら……この国はおしまいだわ」


 オスカー殿下では今のこの国をなんとか持ち直すことは難しいだろう。なぜなら、帝王教育を彼は途中でやめてしまったから。今から習ったところで所詮は付け刃……そもそも、彼に教育を施す余力自体がもうこの国にはない。この問題が解決したとしても、建て直すのに精一杯になってしまうに違いない。

 じゃあ、周りに優秀な人材がいるかと言えば、オスカー殿下が皇位を継ぐ頃にはほとんど引退しているような年齢の人ばかりで、期待はできない。わたしたちとその間に優秀な人材がいればよかったのだけど……そういう人材を発掘し、育てるのをあとまわしにしてまったツケがやってきたのだ。

 そもそも、皇帝陛下の在位があとどれくらいなのかにもよるけれど……まあ、現皇帝陛下の在位中はこの国の再建にかかりきりになるのは想像にかたくない。


「わたしに力があればあなたを守れたけれど……今はリックも眠ってしまっているし、わたしがいたところで足手まといにしかならない……」


 リックの眠りはいまだに覚めない。リックがいてくれたらまだ希望が持てたけれど、いつ目覚めるかわからないリックには期待できない。

 だからわたしはアンディに警告をすることにした。それしかアンディを救える方法がわたしにはないから。


「お願い、アンディ。自分のことを大事にして」


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