7:お兄様とお呼び
「後々のためにもとは、どういう意味かな?」
「そのままの意味ですわ。兄弟仲良く過ごせた方が素敵でしょう?」
「兄弟?」
オスカー殿下は考え込むように腕を組む。そして、ハッとした顔をする。
「なるほど、わかった! 君は……」
どうやらわたしの意図を理解してくれたようだ。
そう、わたしはあなたたち兄弟に仲良くなってほしいのだ。それ以外の意図はない。ぜひわたしが皇妃になるために兄弟仲良しになってください。
「──兄がほしいんだな!?」
「その通りで…………え?」
今、この人なんて言った?
兄がほしいとかなんとか聞こえたような……。
「私に君の兄代わりになってほしいと、そういうことなんだな? そういうことなら、喜んで君の兄が代わりとなろう! 今日から私のことは『兄上』もしくは『お兄様』と呼ぶといい」
「え? いえ、そういうことではなく……」
「遠慮はいらないさ! 兄らしく、君のことを『レベッカ』と呼んでもいいかな?」
「それは構いませんけれど……ですが、オーウェン様、わたしは」
「お兄様」
「……オーウェンさ」
「お兄様」
ニコニコとしているのに圧がすごい。
なにがなんでも『お兄様』と呼ばせたいらしい……。というか、なんでそういう発想になるの? この人考えがまったく読めない……。
「……『お兄様』」
しぶしぶと彼が望むように呼ぶと、デレッと笑う。
この人、あのアンドレアス殿下の兄なだけあってかっこいいのに、そのデレ顔は残念以外のなにものでもないよ……。
「なんだい、レベッカ」
「騎士団の修練に参加しなくてよろしいのですか?」
「ああっ、そうだった。休憩の取りすぎだと怒られてしまう。レベッカ、また今度ゆっくりお茶でも飲んで話をしよう」
じゃあ、と爽やかに笑ってオスカー殿下は修練所に駆けていく。
まるで嵐みたいだった……。
「お嬢、殿下に気にいられたみたいっスね」
「どうしてこうなったの……?」
「殿下は変わってるからなあ。同じ匂いに釣られたんスかねえ」
「どういう意味よ……」
「へへっ、まあ、良かったじゃないっスか。殿下と仲良くなれそうで。そのうち、皇子様たちがお嬢を取り合ったりして!」
「そんなことあるわけないでしょ」
ジト目でノアを見ると、彼はきょとんとした顔をした。
「え? 十分ありえそうですけど……お嬢、見た目は可愛いですし」
中身は? とツッコミたいところだけど、自分が傷つきそうなのでやめておく。
「ないわ、ぜったいにない」
キッパリ言い切る。
なぜなら、その二人は攻略対象者だからね。彼らは六年後ヒロインに惹かれる運命なのだ。
まあ、ヒロインが誰のルートに進むかによって恋愛対象になるかならないか変わるんだけど……。ヒロインがアンドレアス殿下とオスカー殿下のルートを選ばないことを祈りたい。
いや、待てよ……ヒロインかその二人のどちらかのルートを選んだら、わたしどうなるの? 皇妃になれなくなるのでは……?
いやいやいや。ヒロインがその二人のルートを選んだからといって、ハッピーエンドになるとは限らない。確か、あのゲームはハッピーエンド・トゥルーエンド・ビターエンドとエンディングがいくつかあったはずだ。
それ以外のノーマルエンドだとヒロインが死ぬか国滅亡するんですけどね……ヤバイなこのゲー厶。
それはさておき、皇子たちのエンディングがビターエンドだった場合、ヒロインと皇子たちは結ばれない。ヒロインが身を引き、行方不明になって終わったはずだ。
つまり、ビターエンドならわたしが皇妃になれる可能性はあるということ。
……まあ、ヒロインが皇子のルートを選ばないのが一番いいんですけどね……。なにか画策するべきか……。
「なんか……お嬢って変なところで現実的っスよね……もっと夢見ていいんですよ」
あれ? なんかノアに可哀想な子を見る目で見られてる気がする。
ちょっとムカつくけれど、ここは抑えてにっこり。
「心配してくれてありがとう。でも、夢は見るものではなくってよ。そう……夢は叶えてこそよ!」
ファサッと髪を払いながら、キメ顔でノアを見る。
……決まった。
一度言ってみたかったの、このセリフ。
ノアは感極まったように「おお……!」と呟く。
「なんて素晴らしい名言……! お嬢、一生ついていくっス! オレ、お嬢を見習って、一攫千金の夢、叶えてみせるっス!」
うおおおお! と気合いの雄叫びをあげるノアを主人らしく鷹揚に見守りながら、わたしは思った。
……ねえ、これってやっぱりヒモ宣言だよね?