61:ジェームズと火事
「お嬢、ディランの兄弟子のジェームズについて少しわかったことがあるっス」
ノアがそう報告してきたのは数日後のことだった。
少なくても一週間や十日くらいはかかると思っていたけれど、意外と早い。元皇宮騎士のツテか情報網みたいなものがあるんだろうか。
「わかったことって?」
「ウッス。ジェームズは確かにディランさんの師匠であるクリス様の一番弟子でした。クリス様も認める魔法の才があり、いずれは彼を自身の後継者に、と周囲に言っていたそうっス。まあ、その後ディランさんを弟子に取り、どちらを後継者にするべきか悩んでいたみたいっスけど」
ノアの口ぶりからすると、ジェームズはディランに勝るとも劣らない才能の持ち主だったんだろう。あのクリス様が悩むくらいだもの。クリス様は魔法に関することはディラン並み……いや、それ以上の好奇心の持ち主で、そんな魔法バカで人嫌いな人が弟子に取り、後継者にと言わしめたというのは、とてもすごいことだ。
「ディランさんとは違い、ジェームズは押しかけ弟子だったようっス。ある日突然クリス様を訪れ、弟子にしてほしいと言ってきたそうっス。最初はクリス様は相手にしなかったそうですが、あまりにも熱心に頼んでくるので、渋々一度魔法を見ることにしたのだとか。そこで披露した魔法の出来栄えが素晴らしかったようで、彼の弟子入りを認めたそうです」
なるほど、そんな経緯で人嫌いのクリス様の弟子入りを果たしのか。
ちなみに、ディランはクリス様自らスカウトし、引き取ったと聞いている。その詳しい経緯は知らない。でも、ゲームの朧げな知識で、それによってディランは救われたのだということは知っている。ディランは生家とあまりうまくいっていない。だから皇家が後見人となってディランの面倒を見ているという事情もある。
「ディランさんとジェームズの仲は良好だったようっスね。ジェームズは事故死だったそうっス。クリス様の家が火事になり、それに巻き込まれて亡くなったらしいです。ディランさんはジェームズに助けられて火傷を負う程度で済んだということでした」
「そう……あの事故で」
その火事のことはわたしも知っている。
結構大きな火事で、お父様たちがその話をしていたことはよく覚えている。
そして、それがきっかけでクリス様も……。
「……ジェームズの遺体は見つかったの?」
「へ? あ、ウッス。それらしい遺体は見つかったそうっスけど、損傷が激しくて本人かどうかは見た目では判断できなかったそうっス。でもまあ、本人でしょうねえ」
普通に考えたらそう思うだろう。
でも、名前を変えている可能性のある人物だ。もしかしたらその遺体は別の人物かもしれない。
考えすぎかな……それならそれでいいんだけれど。
「ジェームズの生家は?」
「それが……よくわからなかったんスよねえ。彼の経歴はクリス様のところに弟子入りした五歳からしかわからなかったんすよ。色々ツテを当たってみたんですけど、どれもダメでした。いやあ、変ですよねえ。子どものうちからこんな経歴わからないなんて、怪しんでくれと言っているようなもんスよ。まるでどこかの諜報員みたいっス」
「……」
諜報員か……。ジェームズが諜報員で、ジャックと名前を変えて学園に潜入する、という可能性もあり得る。今はジャックという名前ではなく、別の名前で潜伏しているのかも。
人嫌いのクリス様がジェームズに怪しいところがないか調べなかったとは思えない。子どもだから油断した可能性も捨て切れないけれど、とても偏屈で疑り深い性格だったと聞くからその可能性は少ないと思う。
クリス様が調べて大丈夫だと判断したから弟子入りと認めたんだろうと思っていたけれど……。まさか、わかっていて弟子入りを認めたとか? でも理由がわからないし……。
「……まさか、そのジェームズって諜報員なんスか?」
「わからない。でも、可能性はあると思うわ」
「うわあ……クリス様のとこって、結構国のお偉いさんが出入りしていましたよね。そんなところに諜報員が潜伏していたとか、こわぁ」
……なんでかな。ノアの言っていることは最もなんだけど、ノアが言うとすごく軽く感じるんだよね……まるで野良猫同士が喧嘩していたくらいな感じの軽さだ。
これも人徳というやつなんだろうか……やだな。わたしはこうならないように気をつけないと。
「……お嬢、今なんか失礼なこと考えませんでした?」
「なんのことかしら? 気のせいじゃない? そんなことよりも……行くわよ」
「えっ? 今日、出かける予定なんてありましたっけ?」
「今、作ったの」
「ええー」
もう十年も前の出来事だけど、まずは現場を見てみたい。なにかわかるなんて期待はしないけれど、見えてくるものがあるかもしれない。それにこういうの、刑事ドラマでは鉄則だし。
ということで、火事があったというクリス様の家にわたしたちは行くことにした。
ヴァーリックはコウモリ姿で寝ていたので、適当なカゴに入れてノアに運んでもらうことにして、嫌がるノアをお金で買収して家を出たのだった。




