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52:兄との再会


「そう……ですか……じゃあ、私たちはどうしたら……」


 ガックリとするレナちゃんに掛ける言葉もない。

 このままレナちゃんたちは言い合いをずっとしなくちゃいけないの? そんなの悲しすぎるし、なによりそれだとレナちゃんが魔法を使えないままだ。


「──そんな簡単なこともわからないの、姉さんは」


 そう言ったルーカスの顔は能面のようだった。

 レナちゃんはルーカスを見て顔を歪ませる。


「……わからない。まったくわからないわ」

「本当に姉さんは愚かだね。簡単な話じゃないか」


 フッとバカにしたように笑うルーカス。でも……気のせいかな。その目はいつになく優しい気がする。


「ぼくと本音で話せばいいんだよ、姉さん。思っていることを、全部言えばいい。我慢するから浄化作用が働くんだろ。なら、我慢しなければいいだけの話さ」

「ルーカス……」


 姉弟のやりとりに魅入っていると、アンディがわたしの肩にそっと手を置く。


「二人きりにしてあげよう」

「……そうね。リック、ディランさん、別の部屋に移りましょう。お茶を用意させるわ」


 リックもディランも大人しくわたしの言葉に従い、わたしたちはそっと部屋を出た。



 それから二人がどんな話をしたのかはわからない。

 けれど、話が終わって出てきた二人の顔はすっきりしていて、まだ言い合いはしているものの、以前のように険悪な感じではなかった。ただの姉弟ケンカっていう感じ。

 どうやら和解できたらしい。


「皆さん、お騒がせしました」

「もう大丈夫なので安心してください」


 そう言って頭を下げたレナちゃんとルーカスに良かったです、と返す。


「あの……ところで、姉さんがディラン様から魔法を習っていると伺ったんですが、ぼくも一緒に教えてもらえないでしょうか?」

「あなたもディランさんに魔法を習うの?」


 驚いた顔をして聞き返すレナちゃんに、ルーカスは真面目に頷く。


「ディラン様に魔法を教えてもらう機会なんてそうそうないからね」


 それは確かにそうだけど……でも今は……。


「別に教えるのが一人増えようと、天才のボクは全然構わないよ。でも、今はだめだね」

「今はだめと言うのは……?」

「キミのお姉さんがまったく魔法を使えないポンコツだから、今は教えていない。レナが魔法が使えるようになったら考えてもいいよ」


 そう言ってお茶を飲むディランにルーカスは目を見張る。

 そしてすごい勢いでレナちゃんの方を振り返る。


「姉さん」

「な、なに……?」


 ルーカスの鬼気迫る様子に飲まれたようで、レナちゃんは体を仰け反る。


「なにがなんでも、魔法を使えるようになってもらうから! それまでぼくがつきっきりで見ていてあげる!」

「ええ……!?」


 ルーカスの目が燃えている……きっと、なにを言ってもだめなんだろうなあ……。

 とりあえず、客室の準備だけしてもらおう。

 そうとなったら今から特訓するよ、とルーカスがレナちゃんを引き連れて中庭の方へ向かう。ペンギンもレナちゃんと一緒だ。


 面白そうだな、とディランとリックもそれに続く。

 わたしもそれに倣い、席を立ったとき、ガシッと手首を掴まれる。


「……なに?」

「『なに?』じゃないでしょ。僕の件はどうする気なの」

「ああ……」


 そういえば、アンディはオスカー殿下から逃げてきたんだった。

 レナちゃんたちの騒動でうっかり忘れていた。


「……アンディ、はっきり言うわ。逃げても無駄よ」

「なに?」


 ギロリとアンディに睨まれる。

 睨んだってわたしは意見を変える気はない。


「だって、そうでしょう? あのオスカー殿下なのよ? あなたが皇宮にいないと知ったら、きっと探しに行くわ。そして真っ先にやって来るのは──」


 ──我が家だ。


 そう言おうとしたのと同時に、オスカー殿下が訪ねてきたと執事が伝えに来た。

 ほらね。オスカー殿下から逃げようと思う方が間違いなのだ。彼の場合は逃げようと考えるのではなく、どうしたらこちらの被害か最小限になるかを考えた方がいい。


「諦めて、アンディ。わたしたちが成長しているように、オスカー殿下だって変わられているわ。きっと昔のようにはならないはずよ。……たぶん」


 若干自信が無いんだけどね……だってあのオスカー殿下だしなあ……。

 とりあえずオスカー殿下を通すように伝え、彼の分のお茶を用意してもらうように頼む。

 少ししてオスカー殿下が案内されてきた。


「やあ、久しぶりだな、我が妹よ!」


 オスカー殿下は六年前よりも逞しくなっていた。ゲームのパッケージに描かれていた姿と同じだ。

 爽やかな笑みを浮かべるオスカー殿下にわたしも微笑みを返す。


「ご無沙汰しております、お兄様」

「うん。綺麗になったな、レベッカ。見違えたぞ」

「まあ。お世辞でも嬉しいですわ」


 へえ、こんなことも言えるようになったんだなあ。

 ……いや、オスカー殿下はもともと圧倒的な光属性の人間だから、これくらいは普通なのか。


 お世辞じゃないさ、と言ったあと、ぎこちない顔をしてるアンディを見てオスカー殿下は満面の笑みを浮かべた。


「アンドレアス! 大きくなったなあ!」

「……ご無沙汰しております。兄上も相変わらずのようで、安心いたしました」


 そう言ってアンディも笑みを浮かべたけれど、完全に引きつっていた。口調にも抑揚がなく、棒読みのようだった。

 アンディの兄に対する苦手意識は根深いな……。


「どうして急にこちらに?」


 話を変えるようにわたしがオスカー殿下に話しかけると、彼は真面目な顔をした。


「私が予定よりも早く戻ってきたのは、アンドレアス、おまえに伝えたいことがあるからなんだ」


 アンディはオスカー殿下のその言葉に目を見開いた。


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