51:光のペンギン
『某は光魔法の使い手を守るために遣わされた者。このようななりではござるが、こう見えて百戦錬磨の戦士なのでご安心くだされ』
「はあ……」
放心したように頷くレナちゃん。
気持ちはわかるよ。可愛いペンギンの赤ちゃんがいい声の侍口調で話し出したら、誰でもそんな反応になってしまうだろう。
『某は貴殿をどのような脅威からも必ずお守り申す。安心されよ』
「あ、あの……もしかして、私やあの子に魔法をかけていたりしますか……?」
『魔法? 某は魔法を使っておらぬ』
器用に頭を傾げるペンギンは可愛い。けれど……口調が侍なんだよなあ……。
それに光の精霊が魔法を使っていないとなると、誰がレナちゃんとルーカスを困らせているのだろう。
「そうですか……」
しゅんとしたレナちゃんにペンギンは『魔法は使っておらぬ』と繰り返す。
『が、某の特性が貴殿らに影響を与えてしまっているのかもしれぬ』
「特性……?」
みんな一様に首を傾げる。
光の精霊の特性ってなんだろう? 他属性の精霊で特性があるという話は聞いたことがないけれど。
チラリとディランを見ると、大人しくしているけれど目が輝いていた。知的好奇心が擽られているんだろうな……。
近くにいるルーカスも同様の目をしていた。彼も魔法好きなのかな。
『うむ。某は光の精霊。光属性は浄化の効果があり、某にも微弱ではあるが常に浄化させる効果があるのだ』
「ええっと……?」
レナちゃんはペンギンの言葉の意味を必死に考えているようだ。
ちなみに、わたしにはペンギンがなにを言いたいのかさっぱりわからない。
「つまり、君の傍にいると、微弱ではあるが浄化作用が働く、ということだね? ボクたちが軽い風邪にかかったとしても、君の傍にしばらくいればそれも治る、と」
『……ヴェッヴェーッ!』
わかりやすく言ったディランに、なぜかペンギンは威嚇するように鳴いた。
え? なんで?
あのディランもポカンとしている。心無しか、少し傷ついたようだ。可哀想に。
『ヴェー……そ、そこの人間の言う通りだ……ヴェッ……』
そう言うだけで息も絶え絶えと言った様子のペンギン。なんで?
『某には浄化作用があり、某は貴殿に気づかれぬよう、常に貴殿の傍にいた。浄化はなにも病気や呪いをなくすものではない。人の心も浄化の対象となるのだ。貴殿の心を闇に染めぬよう、それを祓うべく貴殿らは言い合っているのだ』
レナちゃんの心を浄化させるために言い合っている……?
え? どういうこと? さっぱりわからないんだけど……。
『貴殿の弟君にも光属性の適正がある。とはいえ、光魔法を使えるほどのものではないが……昔、貴殿の弟は強力な光魔法を受けているだろう? それで二人の間に繋がりができ、心が闇に染まらぬよう、光属性に親和のある者同士、お互いに言いたいことを言い合って心を浄化しているだけなのだ』
それってつまり……あの姉弟の言い合いは心にも思っていないことではなかった、ということ? 心の奥で思っていたことが口に出ていた?
……考えてみれば、この姉弟は待遇差がものすごくある。同じ親から生まれてどうして自分だけこんな目に、と頭の片隅でレナちゃんが思っていたとしてもおかしくはない。
反対に、ルーカスも両親から明らかに冷遇されている姉を見て、ちょっとした優越感を感じていたとしてもおかしくはない。……まあ、それと同時にプラスで罪悪感も感じていたのだろうけれど。
だからお互いに悪意を放つことで、闇に染まらぬように心を守っていた。
光魔法の持ち主は清く正しい魂の持ち主とされている。そうではないと光魔法は扱えないという話だけれど……これは本当なのかもしれない。
いや、でもなんでルーカスにだけ?
ルーカスに光属性の適正があったから? それにしてもちょっと納得いかないんだけど……。
「……あの事故のせいだね。ぼくはあのとき、姉さんの魔法をもろに受けた。そのときの記憶は曖昧だけど……それによって、ぼくと姉さんの間にパスのようなものができてしまった。ぼくにも光属性の適正があったのも影響しているのかな。とにかく、普段なら我慢できるようなことも、パスの通じているぼくたちの間では我慢できず、言い合いをするようになってしまった……そういうこと?」
ああ、なるほど。
ルーカスの説明を聞いて、なんとなくわかった。
他の人に対してなら、少しモヤッとしたことがあっても我慢できる。でも、光魔法でパスの通じた姉弟間では我慢できず、浄化作用によって心を闇に染めないように思ったことを言い合ってしまう。
そういうことなのかな? これで合ってるよね?
『うむ、それでだいたい合っておる』
あ、ルーカスには普通なんだ。
わたしが話しかける素振りをすると、 ペンギンは威嚇する。……このペンギン、デイヴィス姉弟にしか懐いていないの?
「そのパスを解除することはできないんですか?」
そう聞いたレナちゃんにペンギンはキッパリと『ない』と答えた。




