48:爽やかな嫌な笑み
ルーカスはそれからディランに子犬のようにまとわりつき、あれこれ質問を重ねた。そして満足し、また会う約束をしっかりと取り付けて帰っていった。ちゃっかりしてる。
まとわりつかれたディランはぐったりした様子だ。
人嫌いだもんね。お疲れ様でした。
「なんでボクがこんな目に……」
「お疲れ様でした。お茶をどうぞ」
ディランはわたしを睨み、フンと鼻を鳴らしてお茶を飲む。お行儀悪いなあ。
「……結局のところ、あの事件ときなにがあったのか、二人とも詳細を覚えていなかった」
「ええ、そうですね。これも光魔法の効果なのでしょうか?」
「可能性としては高いと思うとしか言えないな……あのときなにがあったんだろうね」
せめてどちら一人、ちゃんと覚えていたら……そう思ってしまう。
もしもこれが光魔法の効果なのだとしたら、人の記憶すら曖昧にしてしまう光魔法はとても恐ろしい力だと思う。上手く使えば、人を操ることも容易くできてしまいそうだ。
「こうなると、光の精霊を見つけ出してどうしてこんなことをしているのか聞き出すしかないね」
「そうなりますね……」
光の精霊を見つけ出すだけでも大変そう。
いや、そもそもなんだけど、精霊と交渉なんてできるんだろうか?
「精霊と契約をしたという人物は存在するし、意思疎通はできるはずだから、交渉だってできるんじゃない? ボクは会ったことないけど」
「ディランさんも会ったことがないの?」
「あるわけないでしょ。ボク、守護獣だっていないし」
「えっ。そうなんですか!?」
ディランに守護獣がいない……? そんなはずは……だって、ゲームではいたのに。守護獣で襲われそうになったレナちゃんを助けるスチルがあったはず……うろ覚えだから確かではないけれど。あとでメモを見なくちゃ……。
「召喚の儀式、していないんですか?」
「したよ。したけど……ボクの守護獣は現れなかったんだ」
守護獣が現れない……つまり、失敗したってこと? あのディラン・テイラーが?
「失敗した感じではなかったから、機会があればもう一度しようとは思っているよ。あれは……なんていうか……呼びかけても反応がない感じだった。そもそもあの儀式自体に興味あるし。神殿にある魔法陣をもっと簡略化して、家でもできるようになれば失敗するリスクも減ると思うんだ。あとは……なんで召喚は一度きりなのかという理由も知りたい」
召喚の儀式が失敗する最大の原因は、緊張だと言われている。
実際にやってみてわかったけれど、確かにあの儀式の部屋はなんかこう……厳かな雰囲気がして、それに飲まれてしまう子もいるのはわかる。十歳の子どもにあの場で緊張するなと言う方が無理な話だと思う。
だけど……あのディランがそこまで緊張するとは思えないんだよね。本人も失敗した感じではないと言っているくらいだから……そのときにディランに合う聖獣がいなかったのだろうか。
わたしの頭の上でうたた寝をしていたヴァーリックが突然むっくりと起き上がり、あくびをしながら言う。
『おまえに合う聖獣は滅多にいないだろうなあ。その魔法の才は我らドラゴンにも劣らない。きっとおまえに応えられる聖獣がいなかったんだよ』
「そんなことだろうとは思っているよ。だってボク、天才だし」
自分で言うな。
「まあ、そんなことはともかく、光の精霊だよ。どうするの、レベッカ」
「どうすると言われても……地道に探すしか…………あ」
……そうだ。
レナちゃんは今までずっと放置されてきた。ということは、召喚の儀式も起こっていないはず。
聖獣は人よりも精霊に近い存在。光魔法の使い手であるレナちゃんの守護獣なら、光の精霊を見つけられるのではないだろうか。
そう言ったわたしにディランは渋い顔をした。
「確かにそうだけど……忘れちゃった? 召喚の儀式に臨むためには、ある程度の魔力制御ができていないとけないんだって」
「……そう、でした……」
忘れてたー!
十歳になったら強制的にやる儀式ではないんだった。だからオスカーも十歳で儀式していないんだもんね……。
今のレナちゃんは魔力制御どころか、魔法が使えない。そんなレナちゃんが儀式に臨んでも失敗するだけだろう。
『え、そうなのか? 魔力制御と召喚って関係ないと我は思うけどなぁ』
「そうなの?」
『我は召喚というのは人間と聖獣との相性の問題だと聞いているぞ。たぶん、十歳くらいになると人間は精神的にも魔力的にも安定してくるようだから、その年頃になると儀式をするようになったんじゃないか』
なるほど……『十歳になったら』という理由はそうだったのか。
でも、それならもう少し遅くてもいい気がする。十歳はまだまだ子どもだし、失敗のリスクを減らすためには成人してからという縛りでも良かったのでは?
「……たぶんたけど、大人になると逆に召喚が失敗するんじゃないかな。大人になると考え方が凝り固まってきて、子どものように柔軟な考え方ができにくくなる。それによって、相性のいい聖獣自体が減ってしまい、結果として召喚に失敗してしまう」
「ああ……確かにそうかもしれませんね」
まだまだいろんなものに影響されやすい子どもなら、聖獣との相性の幅が広いのかも。守護獣となる聖獣はその子の属性によっても限られてくるのだから、性格でさらに相性幅が減ってしまえば、それだけ失敗する確率は高くなる。
「召喚自体は魔力制御ができていなくても大丈夫なんだろうけれど、問題はそのあとだよ。自分の守護獣を制御できずに暴走させて魔獣化──なんてこともあるえるから、やっぱり魔力制御は必要だよ。召喚に応じるのはキミのドラゴンみたいに知性の高い聖獣ばかりじゃないからね」
それもそうだ。
しかし、召喚もだめだとすると、光の精霊を見つける手段なんて……。
『……我が思うに、その姉弟が会っている間、光の精霊も近くにいると思うぞ。さすがの精霊でも、遠く離れた場所からそのような複雑な魔法をかけられるとは思えない』
「へえ? そうなんだ? じゃあ、レナとルーカスが話をしている間に近くにいる精霊を捕獲すればいいんだね?」
『そうなるな』
ディランはなるほどと頷き、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「……と、ということで、ボクとドラゴンで光の精霊を捕獲するから、その間のことは頼んだよ」
やっぱりそうなった!
いやだよ、あの姉弟の言い合いに巻き込まれるなんて! 断固拒否!
……って言いたいところだけど、そんな駄々捏ねても時間の無駄だってことはわかっている。
嫌だけど、本当に嫌だけど、仕方ない。
「……わかりました。リックとディランさんが光の精霊を捕まえるまで、わたしがあの二人の足止めをします……」
渋々と言ったわたしに、ディランはいつになく晴れやかな笑みを浮かべて「頼んだよ」と言う。
いつもそれくらい爽やかに笑っていればいいのに!
本当に嫌な奴!




