40:特別なんかじゃない
あの日からディランはうちに来なくなった。
そしてなぜかヴァーリックがディランのもとに通っている。たぶん、好きな食べ物をくれるからだろうけれど……。
アンディはレナちゃんが学園に入学できるように手筈を整えてくれた。これでレナちゃんは問題なく学園に通うことができる。
レナちゃんはといえば、部屋にこもりがちで、たまに部屋から出てきたところを見てもなにか考え込んでいるようだった。
なにもしてあげられないのがもどかしいけれど、こればっかりはどうしようもない。
わたしなりにレナちゃんが魔法を使うのを恐れている原因のなりそうな出来事を調べてみたものの、結果は思わしくない。
ただひとつわかったことは、レナちゃんの弟が一時姿を見せなくなった期間があるということだけ。病気に罹り、療養していたという話だ。
ただ、なんの病気なのかがいまいちハッキリとしないのが気になる。
この期間にレナちゃんのトラウマになるような出来事があったのだろうか。そのせいで弟は療養せざるを得なくなり、レナちゃんはゲームよりも冷遇された……そう考えれば、いろいろな辻褄があう。
あんなボロボロの小屋に住まわされていたのも、レナちゃんを隔離するためだったのかもしれない。家族を守るためにレナちゃんを見放した──恐らくそういうことなんだろう。
そんな考察をするくらいしか、今のわたしにはやることがない。つまり、暇だ。
「こんなに暇なこと、ここしばらくなかったかも……」
今まではアンディの妃に相応しくなれるように必死に勉強に励んできた。しかし、学園への入学を控えた今はそれもお休みになっている。
とはいえ、復習は毎日やっているけれどね。勉強はコツコツやらないとすぐに忘れてしまう。サボると痛い目に遭いそうでもあるし。
アンディへの定期報告もまだ時間ではないし……復習はもう終わっているし……なにしよう?
久しぶりにマンガでも読み返そうかな。最近のわたしのお気に入りはコメディものだ。くだらないのだけど、笑える。笑うと元気になって、がんばろうっていう気持ちになれるのがいい。
隠し本棚を出現させようとしたとき、ノックの音がした。
出現させる前でよかった……! 出現させたすぐあとには仕舞えない仕様なんだよね、このからくり。
「はい、どうぞ」
「……失礼します」
部屋の外から聞こえた声はレナちゃんのものだった。
レナちゃんは少し緊張した面持ちでわたしの部屋に入ってきた。
「どうなさいましたの?」
「私……レベッカさんにお話したいことがあります」
「わたしに話したいこと?」
「はい……前にレベッカさんはご自分の秘密を私に教えてくれました。だから私も、私の秘密をレベッカさんに教える……いいえ、レベッカさんに私の秘密を知ってほしいんです」
そう来たか。
レナちゃんの話したい秘密というのは、恐らく光魔法のことだろう。だけどレナちゃんは自分の力が光魔法であることを知らない。これはレナちゃんに光魔法の存在を教えて、彼女が光魔法の使い手であることを自覚してもらうチャンスなのでは?
「光栄だわ。でも……無理はなさらなくていいのよ」
「無理ではありません。私が知ってもらいたいと思ったんですから。実は私…………変な力があるんです」
想像通りの告白だ。
あえてわからないフリをして「変な力……?」と首を傾げる。
「動物や植物が病気になったとき、元気になれって願うと本当に元気になるんです……変な力ですよね」
「そんなことないわ。すごく素敵な力だと思う。ところで……その力を使うとき、光が出たりしない?」
「えっ。なんで知っているんですか? そうなんです、光が出て……すごく不気味だってお父様とお母様が……」
突然娘が光出したら不気味に思うかも。だから力を使うなというのもなんとなくわかる。
「やっぱり……レナさん、それは恐らく『光魔法』だわ」
「光魔法……?」
「魔法には五属性があるのは知っていると思うけれど、もう一つ特別な属性があるの。それが光。歴代の聖女・聖人と呼ばれた人達が使えた特別な魔法。レナさんにはその特別な光魔法が使えるのだわ」
「わたしが……? まさか」
「光魔法には浄化の作用があるの。病気を治すのもその浄化作用が働いたからだと思う」
光魔法……と呟くレナちゃんにわたしは微笑みかける。
「あなたは特別なの。そしてこの国にとって希望でもあるわ。光魔法を使いこなせば、多くの人を救うことができる──そのためにはまずは五属性の魔法を使いこなせるようにならないと」
だからトラウマを教えてほしいと言おうとしたわたしに、レナちゃんは言った。
「私は……私は特別なんかじゃありません……」




