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39:乗り越えなければならない壁


 お茶会の日から様々な理由をつけてレナちゃんの滞在期間を伸ばした。

 お父様からはきちんと許可をいただいている。アンディの名前の効果は抜群だ。デイヴィス家にも了承はもらっているし、うちさえよければいつまででも泊まってくれて構わない──そんな内容の手紙ももらっている。


 本当にあの家はレナちゃんを邪魔者扱いしているんだな、と手紙を読んで実感でしまった。

 どうしてここまで実の娘を邪険に扱えるのだろうか。光魔法以外にもなにか理由があるのだっただろうか。


 今はそれがありがたいけれど……いずれはきちんとその理由についても調べよう。レナちゃんには幸せになってもらいたいから、レナちゃんの家族仲が改善する見込みがあるのなら、そのお手伝いがしたい。

 レナちゃんの意志を無視してこの現状を作りあげたことに対する後ろめたさもあるし。


 とにかく、まずはレナちゃんに魔法を扱えるようなってもらわないといけないのだけど……。


「炎よ……あっ」


 ぽすん、と火の玉が消える。

 水魔法や風魔法も同じように魔法が発動した途端消えてしまう。

 レナちゃんはずっとこんな調子なのだ。


「失敗だね。何回失敗すれば気が済むの、キミ?」


 ため息混じりに言ったディランにレナちゃんは俯いて「ごめんなさい……」と謝る。

 そんなレナちゃんにディランは厳しい目を向ける。


「そうやって何回も謝っているけどさ、本当に申し訳なく思っているの? 謝れば済むと思っているんじゃないの」

「私、そんなつもりじゃ……!」

「じゃあ、どういうつもりなのさ。キミのは『できない』んじゃなくて『やろうとしていない』だけなんだよ。もっと本気出してよ」


 きついディランの言葉にレナちゃんは黙り込んでしまう。そんなレナちゃんを少しの間じっと見たあと、ディランは大きなため息をひとつついて「やめた」と言う。


「やる気がない相手に教えるのも時間の無駄だ。もう帰る」

「え……?」

「待ってください、ディランさん!」

「なに言われても、これはボクの問題じゃないし、どうにもならないよ。やる気のない相手にやる気を出させる方法なんて知らないし」


 じゃあね、とディランは指を鳴らして飛んでいく。彼は魔法使いらしく箒に乗れるのだ。下手な乗り物よりも速いらしい。


 去っていくディランにもう! と文句を言いたい。

 でも……正直なところ、ディランの気持ちもわからなくはないんだけどね。わたしから見てもレナちゃんは本気を出していないように感じる。


 ……ううん。本気を出すのを怖がっている、が正しいかも。

 きっとデイヴィス家でなにかあったんだろうけれど……。


「ごめんなさい、レベッカさん……ディランさんを怒らせてしまいました……」

「レナさん……それはいいのだけれど……わたしもディランさんの言っていることも間違いではないと思いました。あなたは本気を出していない……いいえ、出せないんでしょう?」

「……私……私は……」


 レナちゃんはそう言って口ごもった。

 必死に言葉にしようとしているけれど、言葉が出ない──そんなふうに何回か口を動かしたあと、諦めたようにがっくりと肩を落とした。


「私なりに……やろうとしているんです……でも上手くできなくて……魔法を使うのが怖いんです……」


 肩を震わせてそういうレナちゃんにかける言葉が見つからない。

 なにか事情があるのはわかる。でも、だからといって「無理をしなくてもいいよ」なんて言える状況でもない。

 レナちゃんにはなんとかしてこの壁を乗り越えてほしい。そのためには……。


「……レナさん。あなたにわたしの秘密を一つ教えます」

「え……? 秘密、ですか?」

「ええ。誰にも絶対に言わないでくださいね。実はわたし──ドラゴンを召喚できるんです」

「ドラゴンを……?」


 目を見張るレナちゃんにわたしはしっかり頷く。


「ええ。だから、わたしはなにがあっても大丈夫なんです。わたしのドラゴンが守ってくれますから。だからレナさん、一度思いっきりやってみませんか?」

「……でも……」

「大声で叫ぶとスッキリすることがあるでしょう? それと同じで、一度遠慮なく思いっきり魔法を使えばスッキリするかもしれませんわ。無理にとは言いませんけれど……覚悟が決まったら、声をかけてくださいな」


 これはレナちゃんが乗り越えないといけないこと。わたしはそれの手助けを少しするだけだ。


 わたしはレナちゃんがここを乗り越えて、ゲームの主人公のように立派な光魔法の使い手になることを信じている。


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