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26:病弱設定


 アンディたちが頭を抱えている間に、わたしも別のことで頭を抱えた。

 主人公ちゃんのことを言うべきか、言わざるべきか。


 ……いや、言うことは決めているんだ。

 だけど、なんで知っているのかというのをどう説明するべきか……ゲームのことなんて言えないし……。

 うーん、なんて言い訳しよう……?


 ……よし。誤魔化せるかわからないけれど、ここはこれでいこう。


「アンディ」

「なに?」

「わたし、光魔法の持ち主に心当たりがある」

「……なんだって?」


 アンディは大きく目を見開く。

 ヴァーリックも同じように目を見開いていた。


「いったいどうして……いや、それはあとでいい。いったい、どこの誰なの?」

「レナ・デイヴィスという方をご存じ?」

「レナ・デイヴィス……? いや……」

「デイヴィス男爵のご令嬢よ。彼女、病弱であまり表に出てこないのだけれど……一度だけ、お見かけしたことがあるの」


 これは嘘じゃない。

 皇妃になるために同年代の貴族の子どもたちと交流を持っておけというアンディの命れ……言葉に従い、わたしはできる限り精力的にお母様と一緒にお茶会に参加していた。


 その数多のお茶会の一つに、デイヴィス家で開かれたものがあった。デイヴィス家としては主人公ちゃん──レナの弟と交流してもらうために開いたのだろうけれど、ゲームの知識でデイヴィス家の長女がゲームの主人公であることを知っていたわたしは偵察目的で参加した。


 そこで、屋敷の隅の方で怪我をした動物を看病しているレナを見かけたのだ。

 ほんの少しだけど、会話もした。お母様にすぐ呼ばれてしまって、それ以降はデイヴィス家に行っても彼女に会うことはなかった。


「そのとき、彼女は動物の看病をしていた……そのとき、不思議な感じがしたのを覚えている。今思い出せば、光魔法を使っていたのかも……」


 これは嘘。レナは外では決して光魔法を使わない。

 だけどそのことをアンディは知らない。だからきっとバレない。……たぶん。


「そうだったのか……では、早速デイヴィス家に訪問を……」

「待って。彼女は病弱……という設定だから、きっと正面から訪れても会わせてくれないわ」


 デイヴィス家はレナを疎んでいる。ゲームでは使用人まがいのことをさせられていたような描写もあった……気がする。あれ、なんかのゲームと混じっているかな……? 自信ない……。


「そうか……それなら仕方な……待って。今、『病弱という設定』と言った? 設定ってなに?」


 鋭いアンディのツッコミに、わたしはすっと目を逸らしながら続けた。


「……。正面からでは会えない……となれば、裏から会いに行くしかない。お忍びでレナさんに会いに行きましょう」

「気になることはあるけれど……それしかないのなら仕方ないね。それで? レベッカにはなにかいい考えがあるの?」


 フッ……と笑う。

 わたしを誰と思っているの。そんなの当然──。


「ありません! とにかく、こっそりデイヴィス家に行って、レナの居場所を突き止めましょう!」


 ニコッとキメ顔をしたわたしに、アンディは深い深いため息を漏らして額に手を当てた。


「……君に期待した僕がバカだった……」

『主らしくて我はいいと思う』


 ヴァーリック。それフォローになっていないからね。

 人の姿でいるのに飽きたのか、ヴァーリックはいつもの白いコウモリの姿になって、定位置となったわたしの頭にちょこんと乗る。


 ちょこんとなんて効果音だと軽いように思うだろうけれど、子どもの頃は重たくて仕方なかった。

 今は成長したからか、それとも鍛えられたからなのかはわからないけれど、たいして重さは感じない。むしろ、ヴァーリックが乗っていないと物足りなさを感じるというか……。

 つまり、ヴァーリックが頭に乗っていることに慣れたのだ。ちょっと重たいリボンをつけているという感じ。


「なによ……アンディには他にいい案があるの?」

「そう言われると思いつかないけれど……」

「でしょう。アンディが嫌なら、わたしとリックだけで行くわ。……念のためにノアも連れて行こうかしら」


 行きたくないのなら行かなくても全然構わない。

 わたし一人でも大丈夫だし。主人公ちゃんと仲良くなっちゃうし。心細くなんて全然ないんだからね!


 それに……主人公ちゃんがアンディと出会うのは学園に入ってからだ。今ここで出会ったらゲームのストーリーにどんな影響が出るのか予想もつかない。

 まあ、ゲームのストーリー通りになる保証なんてどこにもないから、今ここで出会ったとしても変わらないのかもしれないけれどね。


「……待って。僕も行く」

「あら、無理して来なくてもいいのよ?」

「いや、行くよ」


 キッパリとそう言ったアンディにおや? と思う。

 意外と優しいじゃないの。「あ、そう。任せた」と言いそうなのに。


「君たちがなにかしでかすんじゃないかと心配でなににも集中できなさそうだし、それにその場にいた方がなにかと対応しやすそうだし……」


 ……わたしってそんなに信頼ないの?

 ちょっとショックだなあ……。


「それに……前にも言ったけれど、最近は物騒だから」


 なぁんだ。ちゃんと心配してくれているんだ。

 嬉しいな。わたし、ちゃんとアンディのパートナーとして認められているのかも。


 ニコニコして「わかったわ、一緒に行きましょう」と言うと、アンディは少しだけ居心地が悪そうに頷いた。


 

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