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22:絶対に譲れない


『異世界の魂を持つ者は【黒い魔力】に対する耐性がこの世界の者や我らよりも強い。なぜならば、異世界の者は【黒い魔力】が漏れだす穴を通じてこちらの世界に来るからだ』


 ヴァーリックから告げられた事実に、わたしは目を見開く。

 それはもしかして、わたしならば【黒い魔力】が溢れ出る穴に近づいても大丈夫だということ?


『元々あった小さな穴を通ることにより、穴が大きくなることもあるという。……今回の件は、それが原因かもしれない』

「なっ……なんですって……?」


 わたしが転生したせいで【黒い魔力】がこんなに溢れた? じゃあ、今のこの状況はわたしのせいなの?


『本来ならば、穴はすぐ塞がるはずなんだ。異界の魂一つが通ったくらいでは、こんな事態にはならなかったはずだ。だが、それが大きくなっているということは……』


 その穴になんらかの異常事態が発生した、もしくは──わたしの他にも、異世界からの転生者が何人かいる可能性がある。


 ……待って。この状況自体はゲーム通りだ。つまり、予定通りの道を世界が歩んでいるということ。ということはおそらく、後者の可能性は低い。


「……なんにしろ、【黒い魔力】がどこから溢れているのかは確かめる必要があるんでしょう? 【黒い魔力】に耐性があるのなら、わたしがリックの鱗を持って──」

『まあ、待て。確かに主には【黒い魔力】の耐性がある。だが、代わりに【黒い魔力】に体を乗っ取られる危険が高い』

「どういうこと……?」


 耐性があるのに乗っ取られる? 普通は逆じゃないだろうか。


『【黒い魔力】には意思があるといわれている。我らにはそれに対抗できる抗体のようなものが備わっているが、主にはそれがない。【黒い魔力】によって凶暴化しない代わりに、【黒い魔力】が大量に溢れた場所にいけば体を乗っ取られてしまうんだ』

「そうなの……」


 じゃあ、結局手の打ちようがないんじゃないか。

 どうしてリックはわざわざそれをわたしに伝えたのだろう。なにもできないということは変わらないのに。


『……主はわかっていないようだからもう一度言うが、主は【黒い魔力】に体を乗っ取られる可能性がある。体を乗っ取られたら主の魂は永遠に目覚めない眠りにつく。我と契約をしている主が体を乗っ取られたら、我は【黒い魔力】に使役されることになるんだぞ』

「リックが【黒い魔力】に……?」


 聖獣の中でも高い能力と知能を持つ白銀のドラゴン。聖獣の頂点ともいえる存在が【黒い魔力】という悪しき意思に使役されたら、【黒い魔力】はリックの力を使って世界を滅茶苦茶にするだろう。

 それは絶対に阻止しなければならない。


「考えるだけで恐ろしいわ……」

『だから、主は絶対に【黒い魔力】の源泉に近づくな。我のためにも、この世界のためにもな』

「わかった」


 そんなこと聞いたら、絶対に近づかない。というか近づきたくもない。

 ヴァーリックは『このことは父にも話してくる』と言って、召喚して始めて姿を消した。

 話が済んだら戻ってくるそうだ。わたしが呼ばなくても戻れるものなのか。召喚者の意味って……と落ち込みそうになった。


 ヴァーリックがいなくなって、自分の部屋に戻り、わたしは真っ先に机の引き出しを開いた。

 そこには十歳の頃に書いたゲームのメモが書かれている。主人公の情報、攻略対象者の情報、ゲームで起こること。各ルートの結末……。


 学園に入れば、わたしは主人公と出会うことになる。調べた情報によれば、主人公らしき少女の存在は確認できた。名前もゲームのデフォルト名だったから、間違いないと思う。


 ずっと考えないようにしていた。

 もしも主人公ちゃんがアンディを選んだら──?

 わたしはいったい、どうするのだろう。


 ──皇妃になりたい。

 そう思ったのは前世のわたしは権力者から虐げられる弱い立場の人間だったからだ。


 だから、誰よりも偉くなって、もう二度と虐げられない人生を送りたいと思った。

 それにわたしが偉くなれば、前世のわたしのように理不尽に虐げられる人をなくすのは無理かもしれないけれど、一人でも減らせるのではないかとも思った。


 今のこの立場でもそれは叶うのかもしれない。でも、それでもやっぱりわたしより上の立場の人間はたくさんいる。いつ弱い立場に陥るかわからないのが社交界の怖いところだ。


 今のわたしはアンディの筆頭妃候補。

 しかし、主人公ちゃんが現れたことにより、その立場を失ったら……わたしは一気に弱い立場の人間になってしまう。わたしの社交界での地位は下落し、いそいそと嫁がされるかまたは領地に引っ込み、ひっそりと人生を終えるか。その二択の選択肢しか与えられないだろう。


 強い人になりたい。せめてこの手が届く範囲くらいは守れるような、そんな強い力がほしい。

 誰も理不尽に泣かないように。理不尽にその命を散らすことがないように。


 だから、主人公ちゃんにアンディを渡すわけにはいかない。それだけは全力で阻止させてもらう。

 ──そう、決めている。

 


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