14:ガチャと天井
突然笑い出したアンドレアス殿下にわたしは驚いた。
もしや、気が狂っちゃった?
「ア、アンドレアス殿下……?」
「レベッカ、君は僕の想像以上の働きをしてくれた。よくやった! 君を選んだ僕の目に狂いはなかった!」
「はい……?」
なんで褒められているの? まったくわからなくて怖いんですけれど……。
「オスカーが精神的に弱いのは説明した通り。どうやら最近は武術や剣術でも伸び悩んでいたようだ。精神的に弱っているところに追い打ちをかけるように『あなたは特別だから人の気持ちがわからない』とでも言えば、魔力暴走を起こすことは目に見えていた。フェニックスを召喚できるようになった僕はオスカーが魔力暴走を起こしてもなんとかできる自信があった。そして次に魔力暴走を起こせばオスカーが皇位継承を破棄することを願い出るだろうとも思っていた。あのタイミングで君が言うのは想定外だったし、そもそも君がトレーニングに加わることも想定外だったけれど、それが結果として良かった」
アンドレアス殿下の言葉にぽかんとしてしまう。
あの魔力暴走……やっぱり仕組んでたの?
というか、わたしをトレーニングに巻き込んだのはアンドレアス殿下なんですけど?
「わたし……巻き込まれただけなんですか?」
「そうとも言える。僕の計画では、気に入った女の子がいるからその子に振り向いてもらうためにトレーニングをしてほしい、と頼むつもりだった。それでオスカーの厳しいトレーニングに耐えきれず、僕が『兄上は特別だから僕の気持ちがわからないんだ』と言って魔力暴走を引き起こす──そんな計画だった。だけどこの計画だと、僕とオスカーの仲が決裂する可能性が高いのが難点だった……でも、君がオスカーに働きかけてくれたお陰で、兄上は皇位継承権を破棄し、僕に従うと誓ってくれた。これはすごい成果だよ、レベッカ」
アンドレアス殿下がとても喜んでいるのは、わかる。だけど……なんかこう、納得できない。
腹黒アンドレアスの考えた計画。それは実の兄を貶める計画でもあるわけで……。
「……納得できていない顔をしているね、レベッカ」
「正直に申し上げますと、その通りです。こんな……お兄様を罠にかけるようなことして良かったのでしょうか?」
「皇帝になるためなら、僕はなんでもする。それに、こんな計画を立てなくてもオスカーはいずれ魔力暴走を起こしていた。そういう兆候が出ていたんだ。だから計画的に魔力暴走を起こさせることによって被害を最小限に抑えたかったというのもある」
そうだったのか。自分の私利私欲のためだけではなく、多角的に考えての計画だったんだ。
「僕はなにがなんでも皇帝にならなくちゃいけない。オスカーを皇帝にさせることだけは、絶対に阻止しないといけないんだ……」
アンドレアス殿下のその言葉には、とてつもない覚悟が感じられた。
なにが彼をそこまで皇帝になるように突き立てているのかはわからない。けれど、わたしはわたしの目的のためだけじゃなく、彼を応援したいと心から思う。
「わたしも応援いたします。殿下が皇帝になれるように、及ばずながら力になります」
「ありがとう、期待している」
わたしたちは笑い合う。
そして少しして、アンドレアス殿下は笑顔のまま言った。
「……ところでレベッカ。君の召喚の儀式はいつやるの?」
「まだ詳しい日程は聞いておりませんが……」
「そう。日程が決まったら教えてね。僕も参加したいから」
「え」
……この世界の貴族社会は召喚獣の強さや珍しさでもカーストがある。もしも、下級の聖獣なんて召喚してしまったら、そのときは……。
──こんな守護獣じゃ、僕の妃には相応しくない。悪いけれど、君を筆頭から外すことにする。
……言われそう。すごく言われそう。その光景がありありと思い浮かぶ。
というか、アンドレアスなら言うわ。絶対言う!
そして本当に妃の筆頭どころか、妃候補からも外される!
まずい。非常にまずい。
こんなところに皇妃への道の壁があるなんて……!
守護獣は自分の努力でどうこうなるものではない。完全に運。守護獣ガチャだ。
リセマラもできない、一発勝負のガチャ。勝てる気がしない……!
前世はガチャ運最悪だったんだよ! ピックアップでも天井までいかないとお目当てのキャラ引けなかったわ! 召喚率アップだけのときは天井で確定していても、おまえじゃねえええっていうキャラばっかだったわ!
……終わった。
わたしの皇妃への道、終わった……。




