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野兎  作者: 鎌月瀬川
1/1

数実とエン

趣味で小説を書いて8年近く。

小説を書き始めた1作目ははっと出てきた夢のなかから。

そうして休みなくワードで入力をしてきました。

この作品は2作目となります。

ワードでは時間をかけた長編作ですが書き直し書き直しと。また書き直すかもです。

白い世界―。

―――様!お早く!


白い上衣、蒼い袴の平安を思わせる着物を身に着けた男が後ろを向き声を上げる。その後ろには男がいた。

だがその男のすぐ後ろから漆黒の影が迫っていた。前方にはその男の他にもまだ少数の男女がおり、それらすべてが前方の光が灯る先へと向かい急ぎその影から逃げるように走っていた。その漆黒の影は一番近い男へと、鋭いしなる鞭を向け放つ。だが、男はその手に薄い光沢のある緑の剣を持ち、大きく振るいその影を斜めから下へと向け切りつけた。

『あああああああああああああああああ!!!』

前方を走っていた者達がその悲鳴を聞き、後ろを振り向き呻く影と切りつけた男の背中を見る。だが、

――走れ!早く外へ行け‼

男の怒号がその場に響いた。

すぐさま、光の出るその場へと男や女たちが向かう。

あと少し――。

誰しもがそう思ったその時――――、

突然後方からさらにまばゆい光が、そして黒い塊がちりぢりに飛び散ると、男、女たちの体へと当たり吸い込まれた直後、全てを丸のみにし包み込んだ―――。


―いつか、また。どこかで―。

茜、黄金色の山に囲まれ、木葉を散らす木々が風でざわつき枝についた葉を落とし冬の訪れを教えていた。そこに、古い平屋ばかりの家と、木に吊るされたタイヤのブランコ、そして誰もいない道路に古い住宅に囲まれた何もない、囲いだけの砂の広場。その山々とは違いまだ濃い緑の葉をたっぷりと残し風に触れざあざあと音を鳴らす木の真下、アッシュブロンドの髪をさせた男児の足元へと毬が転がる。そこに赤い着物の幼い女児が近づいた。男児が毬を拾い女児へと向け、女児が受け取りほほを愛らしく染め明るい笑顔を見せた。

『あーがちょお』

『どういたしまして』

男児がやや照れ臭くそう返事を返した。


「ん……」

小鳥の鳴き声が響き朝陽がカーテンの隙間から照らされた部屋のなか、アッシュブロンドの少年数実が目を覚ました。そしてベッドから体を起こそうとするもまたベッドに倒れこみうなっていく。しばらくベッドの上でもぞもぞと動くと今度こそ起き上がりカーテンを開け窓を開け朝の風を部屋の中へと取り込んだ。


―――まだ足りない。

人気のない公園の雑木林の奥で静かに生々しい音が響いた。そして黒い影が倒れピクリとも動かなくなった人の顔へとかぶさり動いく。その黒い影は今度は男の腹部へともぐる様に肉をえぐると赤く細長いものを引きちぎりそれを引きずりながら更に雑木林の奥へと進む。

そして姿を消した。


「数実。ハンカチは持ったか?」

白髪の男が青いチェック柄のハンカチを向ける。その先に数実がおり学校指定のブレザーを身に着けていた。

「エン。毎朝の事だから分かっているし、お前は僕の母親か?」

そう言いながらもそのハンカチを手にし、ポケットの中へといれ、重ねられた教科書を学校指定のリュックへと数実が入れていく。

「今日は何をするか分かっているか?」

「分かってるよ。今日は体育だから体操服が必要。その後一週間に一度の面談と施設の報告。そして田中さんのいつものスカウト」

「そうだ」

「はあ。さあ行くよ」

そう言ってエンの隣を過ぎ、扉を開けエンと共に外へと出た。


「そんなに気になるのなら染めればどうだ?」

エンが通学路にあるショーウィンドウに立ち止まり姿を映し見る数実へと話す。

数実は明るいこげ茶の髪に触れながらその髪を見ていたが、エンへとその首を横へと振って見せる。

「いいよ。それに、校則では問題ないからね」

「数実おっはようっ。今日のテスト範囲教えてっ」

数実と同じ学校指定のブレザーを身に着けた黒髪のポニーテールの少女が飛びこみ抱きつく。

だがその場に鈍く音が響いた。

少女があっと声をだし、目の前のショーウィンドウと数実の頭がくっつきあっているのを見てそっと離れる。

数実はそのショーウィンドウに手を付け、痛み出た涙をにじませながらぐっとこらえる。

「……ごめん数実」

「謝る、前に、もっと考えてよもう―」

数実ははあと息を吐き出すと手に力を入れ少女を見る。

「晴美。いきなり飛びつかないで。痛い」

「ごめん。本当」

「強化硝子だから良かったものの、ただのガラスならば割れて大怪我をする上に、弁償と警察沙汰で大惨事だ」

「…………」

両手をあわせ拝んでいた晴美が顔を上げ、軽くそのショーウィンドウを叩くエンを見る。

「あー……、その、壊れてない?」

「晴美」

晴美がため息交じりに名前を呼んだ数実を振り向く

「言っておくけど、これだけでも十分迷惑はかけているから反省してよ」

「よお。頭割れてねえか?」

「割れてないけど痛い。心配してくれてありがとう楽」

そう、面白く笑んだ白銀と黒が混じった髪の楽へと告げる。

だがその楽の後ろを見ると、縞模様の白い虎もようの尻尾が生えていた。

「それと楽。晴美をきちんと見ていて。おかげでこぶができた」

「だそうだ」

「えっ。まじっ」

額を抑える数実の手を晴美が押しのけ赤くなり腫れあがったそれを見て、苦笑する。

数実はため息をする。

「学校へと到着後、保健室へと向かったほうがいいな」

「うん。後はっきりと理由を述べよが僕のモットーだから。行こう」

「あ、ちょっと待って。転んだって言って。転んだってさあ」

そう焦る晴美がその二人の後を、ラクと共に追った。


「少し不恰好だけど、我慢して頂戴」

ぺたりと数実へと白い湿布をかけた保険医の理恵が張ると、数実ははあとため息をしそれを触る。

「一応腫れ方が酷いから帰りでいいわ。念のために病院に行ってみてもらったら?」

「はい……。分かりました」

理恵はええとうなずくと数実が書いた理由書の紙を手にするとにこりと笑む。

「転んだだけじゃ、流石にそれはないんじゃないかしら?」

「はい。ただそれでもしよければ通しておいてください」

「分かったわ。じゃあよそ見をして電柱にぶつかったって書き直しておくわね」

「馬鹿みたいですけど、はい」

理恵はくすりと笑うと、傍にいるエンを見上げ、その理由書を見せる。

「なら話しておくから。帰りは病院に一緒についていきなさい」

「ああ」

「それじゃあ、もし具合が悪くなったら我慢せずに休みなさい。いいわね?」

そう今度は数実へと告げると、数実ははいと返事を返した。

そして医務室を後にし、廊下を歩いて進む。

すると通り過がる同じ制服を着た者達と共に、耳やしっぽ、牙が生えた者達、それは子供の姿、大人の姿と様々だった。

それらは野兎と呼ばれる、人でもない、幽霊でもない。よくわからない、蘇り生き返った者と言われている者たちだった。

そして、2のEと書かれた教室へと来ると、エンがすっと黒い数実の影の中へと入るように消えると、数実は扉を開きその中へと足を入れる。

そこに、しゅんとする晴美と、数実の姿を見て笑う同じ同級生たちがいた。数実は顔を赤くしため息をすると扉を閉め自分の席へと、晴美のその後ろへと座る。

そこに、襟足をそろえ、校則どおりの髪型をさせた男子が数実の元へと来て話しかける。

「数実おはよう。額はどうした?」

「おはよう秀成。考え事していたら電柱にぶつかった」

そう、教科書を取り出し取り出し机の上へとおきトントンと、うつむいた晴美の後ろで告げると秀成がうなずき軽く数実の額に触れる。

「しかし目立つ。後晴美が来ている事をエンは何も言わなかったのか?」

「エンは無口だから」

秀成が確かにとうなずくと下を見る。

「その点俺のミトは逆にうるさすぎるくらいだな。ここが危ないあそこが危ない。昨日もだ。近所のおばあさんがくれた鹿児島土産の飴。オブラートに包んでいるというのに飴もパッケージと勘違いしたらしく、食べちゃダメーと飛び込んで箱ごと潰された」

数実が思わずくすりと笑い、秀成がため息をする。

「もう少しまともな奴にすればよかったか?」

そう告げると、その陰からすすり泣くような音が聞こえ始めた。

秀成が呆れ見おろし、数実が秀成を見て話す。

「きちんと危険なものは危険と心配してくれるからいいよ。僕なんてハンカチは持ったか。今日は何をするか覚えているか。真面目すぎる。そして母親かって感じだ」

「いいんじゃないか?おかげで忘れ物しないで済む」

そこに鐘の音が鳴り響くと、秀成がその音を聞いてまだ鳴り響くその影を見おろす。

「ミト。授業が始まる。だから泣き止め。後さっきのは冗談だ」

しんとその場が、だが鼻をすする音が聞こえると、秀成はため息をし元の席へと戻った。


野兎(のと)。以前は夜刀(やと)と呼ばれていた―。

数実が教科書を開きながらその文字を読んでいた。

前方には同じ教科書を持ち黒板に文字を書いていく教師がおり、教師は前を見る。

「知っての通りだが、野兎は未だいつ、なぜ現れたのかわからない存在だ。だが、ここ日本から出現し、今や世界規模に広まり、どこでも人の傍で見られるようになった。共存することになったと言えるな。そしてもしかしたら俺達もそうなるかもしれない。なので、しっかり供養はしてもらえ」

その場に小さく笑い声が聞こえると、教師は軽く肩をすくめ再び黒板を振り向き文字を書き始める。数実はそれを気にせずただノートにかいていたが、かたりと前方に座っていた晴美の椅子が音を立てあたり、すっと紙が差し出された。それを見て一度教師を振り向き受け取ると、音をなるべく立てない様にそれを見た。そしてため息をすると、裏にしてその紙に文字を書いていく。

晴美はそわそわと、だが表情を曇らせながら待っていた。

そしてすっと再び紙がもどされると、受け取り中を見て行くと驚愕した。

「えっ。嘘っ……」

「おいっ。今田。何をしている?」

晴美がその紙を下へと落した。

教師がそれを見てうんと声を出すと後ろにいた数実が拾うその紙へと近づく。

「今田。立て。遠坂渡せ」

「はい」

数実がそれを教師へと渡すと、教師はかかれた文字を読み呆れて行く。

「豚ばら肉10kg。ホルモン5kgだあ?」

その場が吹き出し笑い声が上がると、晴美がかあと顔を赤くし口をつぐんでいく。

教師はその二つの文字だけが書かれた紙を晴美へと見せる。

「お前。自分の野兎の食い物の頼まれごとは休み時間に聞いて確認しろ。それとしばらく立っていろ」

「はい……」

「まったく」

そうため息をし、その紙を置くと教団へと向かい笑う者達へと注意をし静かにさせると黒板に文字を書き記していく。

晴美は顔を赤くしうつむきながら、周りでせせら笑う者達の声を耳にしていく。そして、後ろにいた数実は湿布代262円。慰謝料昼をごちそう。それで許すと書かれた紙をポケットに入れた。


「ほんと最悪っ」

晴美が声を上げがぶりとコロッケパンを口に含みむくれながら口を動かし食べて行く。

傍には面白く笑う楽と、正面には数実、エン。

そして、秀成と、兎の耳が生え、手足もまたウサギの手足の小さな男の子がいた。

秀成はため息をすると口からストローを放し呆れる。

「今日の罰と思えばいい」

「また罰うけんのよっ。しかも今度は書き取り」

「良かったな。覚える項目が増える。それと、何時すり替えたんだ?」

そう数実へと告げると、数実はああとうなずく。

「糸をはっていたんだ。そして回収して、その紙を蓑田先生に渡した」

「私のポケットから勝手にくすねてでしょうがっ」

数実は肩をすくめると、サンドウィッチを食べ、晴美はむうとそれを見て行くが、ポンポンとその頭を楽が叩くとその楽を見る。

「まあいいんじゃねえの?怪我させた礼って事でさ」

「ああ。それで事はなる」

「え、えと。数実。数実は大丈夫。額痛い?」

数実は飲み込むとおろおろとするその小さな少年を向く。

「触れば痛いけど、大丈夫。心配してくれてありがとう。ミト」

「う、うん。それより、お薬塗った?頭冷やした?」

「ミト。本人が大丈夫だから心配いらないと言ったら、余計な事は聞くな」

「うん……」

そうしゅんとミトがうつむき告げると、秀成がやれやれとしながらパンを口にしミトの頭をなでる。

そして飲み込むと数実を振り向く。

「今日は対策本部に行く日だろう?」

「うん。報告と面談の日だからね」

「相変わらずめんどくさいわね。それのせいで」

そう晴美が告げると、エンを指さした。数実は首を振る。

「いいよ。それに話が聞けるし、どうなっているか分かるからね。その場で」

「まあ……」

「後は、そこにいる人たちに良くしてもらってるし、お土産もくれる。皆この日を喜んでくれてるから」

晴美ははあと息を吐き出しうなずき、エンはああとうなずく。

「いつも通り、門を出る時にせがまれたからな」

「うん。だから、帰りに買っていかないと。貰った物じゃ足りないからね」

「……相変わらず御人好しね」

「お人よしくらいがちょうどいいだろう」

晴美はため息をするとそう告げた秀成にうなずく。秀成はミトを見おろし、ポケットから飴を取り出すと、ミトは目をきらめかせぱあと明るい笑みを浮かべながらその飴を秀成の指ごとぱくっと口に含んだ。


放課後―。

教室を出る生徒たちの影から、次々と尻尾を生やした男、子供、そして耳を生やした女と出てくるのが分かった。そして、石田もまたミトが姿を現し、晴美は楽が、数実はエンが姿を現す。数実は前を郁、晴美へと声をかけた。

「晴美。後で請求書渡すから」

「こ、今月ピンチだから」

「262円でピンチってありえないから。明日中に払ってね。携帯の課金代から減らせば大丈夫でしょ?」

そう言ってポンと肩を叩き前を歩くと、晴美は食うと声をだし前を歩く数実へと声を上げる。

「このっ―。良い気になるなあ!」

「今田さん」

「は、はいっ」

びくっと震えすぐに返事を返すと、後ろにいた教師の女を振り向く。

「今から職員室に来なさい」

「え、えーと。何で」

「あなた昨日、倉庫の鍵返し忘れてたでしょ?差したままだったわよ?」

「ああ。そういやそうだったな」

「……楽」

「もう。気づいていたのなら教えなさい」

そう、傍にいる楽へと告げると、楽は肩をすくめる。

「ま、最低限は教えてやってもいいけど、ここは教育の場。俺達は影の中に入っている時は無言と、この時もあまり教えると言った事はしないことになっているからな」

教師はため息をしうなずくとうつむく晴美を振り向く。

「反省文を少しと、鍵を戻してくれた先生の所にお礼を言いに行くわよ。いいわね」

「はい……」

そうしゅんとしながら告げると、その教師の後をとぼとぼとついていった。


「はいどうも。いつもありがとね」

「いえ」

数実が出店の窓から袋に入った饅頭を受け取ると、代金を年老いた男へと渡す。

そして、饅頭屋を離れ、目の前にそびえたつ建物へとエンを連れ向かった。


ぴこぴこと猫の耳を動かし、メガネをかけた女と、少し硬い印象を持った男がソファに座り目の前に座る数実、エンへと話していた。そこにサイレンが鳴り響くと、男がその音を聞きふうと息を吐き出す。

「またか。今日で三度目だ」

「三度目ですか?ずいぶんと多いですね」

「ああ」

そう言って数実を振り向く。

「だから、帰りは気をつけて帰れ。一応影はないが、用心をしろ。まあ、エンがいるから大丈夫だと思うがな」

数実はうなずき、エンは男へと告げる。

「田中。今月に入って多い気がするがどうなっている?」

「ああ。まずこっちも調査中だ。そして被害者は今日を含め6だ。生きている奴らは二人いたが、何も覚えていないし、障害が残った。それと、本部から専門家が派遣されてくる」

「お前たちも専門家じゃないのか?」

「確かにそうだが、残念ながら俺達はその下の下だ」

女がくすくすと笑うと、男はため息をする。

「そうね。デスクワークばっかりだもの。そして、ここは都会にとっては田舎だけど、田舎だから町は常に明るくしてる。でも、やっぱり影はある」

「ああ。後、おそらく野良の仕業だがこの様子だと、どうも力が強すぎるらしい。だから、気をつけておけ。それと、エンに変わりはないな」

「はい。有ります。母親みたいに面倒を見過ぎます」

「そこは自分で治すように言ってもらうか自分があわせろ」

そう笑う女を隣にしため息を付き、数実はうなずく。

「そうね。ちゃんと用心してあわせなさい。そうでないともし、エンが死んでしまったら、あなたは私たちにとって。野良にとって。強い野兎を持っていた持ち主の体は最高のごちそうなんだから」

「マリ。馬鹿な事を言うな」

マリはくすりと笑い、田中は数実を見る。

「悪かったな」

「いえ。良いです。後、もしよければ出現した場所を見ても良いですか?兄弟や先生たちにも伝えます」

「分かった。それと今の奴も、確認して渡す。少し待っていろ」

数実がはいとうなずき、田中、マリが立ち上がると数実から離れて行った。

そして、巨大な地図に、赤く塗りつぶされた円があり、戻ってそれを広げた田中が地図を指さす。

「やはり、あの下水場から侵入してきたらしくてな」

「そこはきちんと対策がされたと思っていたが?」

「俺に言うな。そこを保護する所轄と他に言え。あと上だ。そして、どうもその工場と、その現場がサボっていたらしくてな。今免職の手続きをしている」

「はあ……」

「今は完全に封鎖している。そして、この行く先々の残した遺体だな。その跡を追って調べてはいるが、どうも捕まらない。後遺体のほぼすべて。夜ではなくて昼だ」

「昼?じゃあ、昼から行動を?」

「ああ。だから、野良もだが、野兎の可能性もある。なので付近を捜索しながら現場検証。事情聴取を行っている。後は機密と、これは縮小した物を十枚やっておくから、施設に張っておけ。それと、子供たちは興味を持つと思うからしっかり見ておくように伝えておけ」

「分かりました」

「ああ。それと……。お前。本部に行かないか?」

数実が思いっきりため息を吐き出すと、田中はむっとし、マリがくすくすと笑う。エンがその田中を見て告げる。

「何度も言うが、数実はまだ中学二年。そして、将来は自分で決めさせるのが当たり前だと思うが?」

「知っている。だが、知識もあって、お前もいる。あと……」

そう言って前かがみになりぼそっと告げる。

「二つ。この五年の間に、お前たちが潰したからな。もちろんそれは報告している」

「何度も聞いた。それで本部が呼び掛けてお前に言えと言ったんだろう?」

「……」

「そう言う事。それも何度も聞いたわね」

「……」

数実はうなずくと田中を見る。

「エンが話した通り、僕はまだ中学生ですし、将来の事は自分で決めたいです。後、今はあの施設を離れたくはありません。兄弟たちが小さいので、面倒を見ないと」

「……分かっている」

そう言ってはあとため息をする。

「まあ一応、頭には入れておいてくれ。それとコピーをしてくる。まっていろ」

「はい。お願いします」

田中はああとうなずくとその地図を手にし再びマリと共に席を離れ向かう。

エンがそれをじっと見ていたが、軽くざわつく音が聞こえると横へと、数実もまた横を振り向く。そこにスーツを身に着けアタッシュボードを手にし歩く男、女がおり、傍には赤い髪をし、縦線が入ったような緑の瞳をさせ、固い虫を思わせる尻尾を生やした男と、黒い髪をし手に羽毛を生やした男が跡を追っていた。数実がそれを見て、そして足早に地図を残し向かう田中を見てエンへと告げる。

「あれが、派遣された人になるかな?」

「おそらくそうだろう。ここにいる者達よりも人型に近い」

「うん」

「はい。ごめんね。数実君」

数実が前を振り向き印刷した紙を手にする女性を見て立ち上がりその地図を受け取る。

「いえ。後、あそこにいるのが本部から来られた方ですか?田中さんから聞きました」

「ええ。早田さんと、成瀬さんよ。男の人が早田さん。成瀬さんはその部下よ」

「分かりました。後、若いですね。派遣されたから、もっとこう、ベテランで、年配の方かと思いました」

「ええ。そうね。本部にもそういった方たちはいるけど、若い人も多いわよ。今は、十六歳から学校で訓練と実際に現場へと行き大人顔向けで仕事を行ってるそうなのよ。東京に置かれている本部運営の学校でね。それからは本部。もしくは派遣されるわ。こっちにも昔はいたけど、十年前の事件で亡くなって今もその席はあいているもの。本部には毎年通達してるけど、ここはまったくのほほんと、平和だったからね。でも、あの事件とサボりね。そのおかげで、派遣を余儀なくされたという訳。一応事件から、解決の後からの期間は一月になるそうよ。また現れるかもしれないから見張りも兼ねてね。後、田中さんと早田さんは、幼馴染の旧知の仲よ」

「え?そうなんですか?」

「ええ。何でも同じ施設で過ごしたそうよ。帰ったら岩木さんに話してみたらどうかしら?写真もあるはずよ」

「はい。話してみます」

「ええ。それと遅くなるから、もう帰っていいわよ。田中さんも先に帰らせておいてくれって言ってたから。後、これどうぞ」

「あ、スイマセン。いつもありがとうございます」

そう言ってお菓子の入った箱を受け取ると、代わりに饅頭が入った袋を渡す。

女性は微笑みながら受け取る。

「こちらこそ。ありがとう。気をつけて帰ってね」

「はい。エン。行こう。それと」

「ああ。影に入る」

ふとエンが姿を消すと数実の影の中へと入った。

数実はそれを見て立ち上がると、箱を手にし女性に頭を下げその場を離れて扉へと向かう。

それを、赤い髪をした男、黒い髪をさせた男もまた視線を向け見て行た。

数実は視線を箱とその足元へと、そして前を見てあわせずに外へと出た。

そして支局を離れ街を歩きながらすっと影から再びエンが現れ数実と共に夕暮れの街を、だが明るく光るその道を歩き進んでいった。


読んでいただきありがとうございました。

次回はいつアップするかわかりません。

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