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002

 一階、二階、三階と、相手にもならないモンスターたちをなぎ倒していくビオリス。


「人間のおっさんでも、意外といけるもんだな」


 ビオリスは呆れ笑いを浮かべ、口の端を少しだけ吊り上げる。


 気が付けば足は自然と次から次の階層へと進んで行く。


 第八階層へと続く階段を上がったビオリスは、明るい場所へと抜け出た。


 常に明るい世界が広がる第八階層。そこは砂漠の世界が広がる。


 水場は存在せず、あるのは砂か地面から突き出た岩肌か。


 腰に巻いていた水筒を手に取り、水分補給をしておえく。


 突然のモンスターとの戦闘や足場の悪さ。下の階層に比べて高い温度は、体から水分を嫌でも蒸発させていく。


 ビオリスの額から流れ落ちる汗が砂に吸い込まれていく。


「ここは相変わらず暑いな……」


 四十代のおっさんには辛い。ただでさえ足腰の衰えも感じてきたこの頃……。


 淡々とここまで登ってきたことを後悔する。


「まぁ、適当にレア素材でも見つけて帰ろうかねぇ」


 やる気のない声。力ない声が乾いた空気に響く。


 だが、その瞳は、闘気に満ちたその眼は、冒険者として十分なほど輝いていた。


 ビオリスが言う「レア素材」は、大勢の冒険者たちが語る「レア素材」とは少し違う。


 一部の冒険者、中級から上級の冒険者たちだけが知る「亜種」と呼ばれるモンスター。


 ビオリスはその「亜種モンスター」を探し始めた。


 通常のモンスターからは出ない素材は高値で取引される。至極当然のことであるが、それゆえに見つけるのも、手に入れるのも難しい。


「あいつらと組んでても二階層ばっかりで良い素材なんてなかったし、ここいらで稼がせてもらわねぇとな」


 力強い一歩に砂が舞い踏みつけられていく。


 パーティを組んでいた時も、彼は後衛で時々姿をくらましていた。


 それは、上級冒険者が効率よくバルスを稼ぐ方法の一つであり、そんなことも知らない元パーティのメンバーたちは、少ない報酬を分け合っていた。


 時々、居なくなるビオリスを除いて……。


「――――さてと、八階にはサラマンダーが居たはずなんだが」


 乾燥した砂漠の世界。


 いつ、誰が、どのようにしてこのエアリエルを造ったのかは不明。


 頂上にはいったい何があるのか。


 冒険者たちは目に見えないものを追い続ける。夢、希望がここには詰まっている。


 宝の山が。


 神が。


 美女の楽園が。


 全ての願いを叶える宝玉が――――――


 それは、最初は小さな噂話でしかなかった。


 しかし、人々は空想のものを信じたくなる。その噂話は冒険者の心を刺激したのだ。


 そうして、エアリエルの周りには町ができていった。


 冒険者として名乗りを上げていく者たちも居れば、彼らに武器を提供する者たちや防具を提供する者たち。酒場に宿屋、土地を売る者などなど……。


 エアリアルという天高くそびえ立つそのダンジョンは、人々に繁栄をもたらした。


 だが、その反面、希望と絶望を混ぜ合わせたエアリエルでは、死者が絶えることはない。


 油断すれば、気を抜けばモンスターに殺される場所、エアリエル。


「はぁ~あ……」


 そんな危険なダンジョンで、冒険者たちの二割ほどしか来られない第八階層で、大きなあくびをする者、そんな気の抜けた冒険者は一人しか居ない。


「やっぱ、ここまで来ると誰も居ないか」


 一面に広がる砂を見回して、ビオリスは背負っていた大剣を右手に。


 ビオリスという男は冒険者としては名のない、ただの四十半ばの冴えない男でしかない。それも、人間であればとっくの昔に引退しているはずの年齢。


 彼自身も引退した者たちと一緒で、辞めようと思ったことが何回もあった。


 けれど、この高みを目指せる場所がそうはさせてくれない。


 かつての仲間たちと同じ、ここでいつかは息絶えるまで冒険を続ける。


 それがビオリスの一つの願いでもあった。

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カクヨムの方が先に進んでいます!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

https://kakuyomu.jp/works/1177354054974837773
― 新着の感想 ―
[良い点] 9/9 ・エアリエルっていいですね。ナイスネーミング [気になる点] おっさーん、そんな、息絶えるまでなんて。 こんな気持ちだったんですね。
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