001
次の日の朝、目が覚めると案の定、クラリスが俺の上に覆い被さっていた。
白シャツにパンティを身に着けただけの軽装。
シャツのサイズが大きいせいで、小さな肩からずり落ちている。
「あ……」
「……ん、ビオ、リス……?」
動こうとした瞬間、寝ていると思っていたクラリスと目が合ってしまい……。
「お、おはよう……」
俺の声はひどく濁っていた。
アレを……、クラリスの寝ている空間でアレを済ませてしまった罪悪感……。
俺の挨拶はそのせいもあって、とてもぎこちないものになっていた。
「お、おはよぅ……」
クラリスも心なしかぎこちない……。
まるで初夜を終えたあとの朝の雰囲気じゃないか……。
「「…………」」
大変極めて、非常に、この場に居づらい……。
どうしたものか……。
「言ってくれれば手伝ったのに……」
「…………えっ?」
ぼそぼそと呟いたクラリスの声が聞き取れず、俺は疑問符を投げかける。
「だ、だから……言ってくれれば手伝ったのにって、言ってるのよっ……」
「手伝うってなにをだ?」
「こ、こほん……その……アレよアレ……」
恥ずかしそうに、視線を逸らして呟くクラリス。
ご丁寧に拳を上下に動かして……。
「えっと、そんな、まさかとは思うが……」
独り身の男性による唯一の発散方法を――――――
「見てたのか……?」
聞いておいて今更すきるが、なんだこの絶望的な問いかけは……。
「う、ううん……、それは知らないけど、匂いがした、から…………」
「なん…………ッッ!」
声にならない声が、喉奥から出そうになる。
詰まった喉のせいで勢いよくむせ返った。
「うっ……ゴホッゴホッ……ウッ!」
「べ、別に、男の人は溜まりやすいって聞くから、その、気にしないでいいのよ……。それにずっと二人で居たわけだし、その間ずっと我慢してたんだろうし……。あっ、今はなにも匂いはしないから大丈夫っ!」
それは、なんのフォローにもなっていないんだ……。
気付かれてしまった事実に、俺の心は激しく動揺していた……。
後処理もしっかりしたんだがな……。
「そんなに匂うのか……」
「わ、私、一応はその、サキュバスだから……そ、そういう匂いには敏感というかなんというか……」
「……」
「……」
クラリスが居る家で、俺はなんということを……。
神様でもなんでもいい……。誰か、時間を昨日に巻き戻してくれ…………。
せめて、せめてクラリスの記憶から、この忌々しい既成事実を消し去ってくれ……。
「溜まってるなら、一人よりも二人の方がいいんでしょ……?」
「そ、それはそうだが……」
クラリスからの問いかけに、半ば諦めが入った返事をした。
いやいや、俺はなにを素直に肯定しているんだ……。
ここはとりあえずクラリスに落ち着いてもらって――――――
「なら……ほら、今は二人でしょ……?」
火照った顔と潤んだ瞳で、クラリスにまじまじと見つめられる。
ぴたりと胸板に押し当てられる体……女性特有の柔らかさが、布越しに伝わってくる……。
「っ……」
「遠慮しなくても……いいんだよ……?」
「うっ……」
ま、まじか…………。
幼いながらに妖艶な雰囲気を醸し出され、思わず喉が唸ってしまう。
い、いや……、クラリスに手伝わせたら、俺がそのまま襲いかねない……。そもそも、アレを手伝ってもらった時点で、孤独な男の発散方法ではない……。
一人よりも二人となると、歓楽街の遊戯であり……。それはもう、既に男女の関係ということになるのではないだろうか……。
「気持ちは嬉しいんだが、そんなことをしたら俺が耐えられないし、クラリスが汚れて――――――」
「ねぇ……」
「っ……」
ぎゅっと服にしがみつかれ、直接ではないにしろ、クラリスの柔らかい二つの膨らみが当たる……。
「な、なんだ?」
「その、前にも言ったと思うけどね……私、ビオリスだったらいいんだよ……?」
そう言いながら、ゆっくりと這い寄ってくるクラリス。
クラリスは覆い被さるように、四つん這いの状態で、その瞳がまっすぐこちらに向けられる。
「ねぇ、我慢しなくてもいいんだよ……?」
スベスベした足の感触。
クラリスの大きめのシャツ。
その襟の隙間からは、小ぶりな膨らみがチラチラと見えそうになっている。




