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007

「ビオリス?」

「ああ、いや、すまん。もう大丈夫だ」


 クラリスには助けてもらってばかりだな……。


「さてと……、クラリス」

「ん?」

「すまないが、ポーションをくれないか」

「え、ええ、分かったわ」


 ぎこちない体でも、ポーションを飲めば治るだろ。


 ぎぃぎぃと鳴り響く関節を動かし、なんとか座り込む。


「指が動かしにくいな……」

「ビオリスっ!」


 指や手を動かしていると、クラリスがポーションを持ってきてくれた。


「はい、口を開けて」

「ん?」

「飲ませてあげるから、ほら」


 ポーションの入っている瓶を持ったまま、赤い瞳でこちらを見つめるクラリス。


「いや、自分で飲むから大丈夫だぞ」

「手もまともに動かないと思うから、あーんして?」

「いや、さすがにそれくらい――――」


 大丈夫だろうと思い、手を伸ばそうとする。

 だが、震えて力が入らない……。


「ほら、あーん」

「……んじゃ、頼むよ……」


 あー…………ゴホッ⁉


 クラリスに瓶ごと口の中に押し込まれた……。


 慌てて口から引き抜かれ、顔からポーションの雨を浴びることになった。


「ご、ごめんなさい……! 緊張して手が滑っちゃって……」

「ま、まぁ気にするな……」


 どうせ服は乾けばどうとでもなるし……。


「だ、大丈夫……?」

「あ、ああ。色々と世話をかけてすまんな」

「いいのよ、これくらい」


 心配そうに見つめてくるクラリスの瞳に、自分の瞳が反射する。


 あれ……俺の目が充血してる?


「ちょ、ちょっと……そんなまじまじ見つめられると……恥ずかしいんだけど……」

「なぁクラリス」


 クラリスの瞳に映る目を覗き込むように確認する。


「な、なにっ?」

「俺の目の色って黒、だよな……?」

「あ、ああ、そのことね……」


 頬の赤いクラリスが、目を逸らしながら呟いた。


「うん?」

「えっとね、私の血……つまり、ヴァンパイアの血が混じると、瞳の色が赤色に染まるの」

「そうなのか?」

「ええ」


 クラリスの瞳が赤いせいかと思ったが、念のために確認しておこう。


「己を映し出す鏡となれ、アクアージ」


 地面から少し浮いた位置に水が生成され、薄く引き伸ばされていく。


 水面に自分の顔が映るように、出来上がった水の鏡を覗き込む。

 充血しているかと思えば、本当に瞳が赤色に染まっている……。


「これで俺もヴァンパイアの仲間入りなのか?」

「うーん、ヴァンパイアとまでは言えないかな……。強いて言うなら……混血種かしら?」

「なんだか、あまり良い響きじゃないな……」

「そう? 私だって混血種よ?」


 ああ、そうか……。

 クラリスはヴァンパイアとサキュバスの間に生まれた少女。


 彼女が自分自身のことを『混血種』と言うのなら――――――


「クラリスと同じなら光栄だ」

「私も、ビオリスと一緒になれて嬉しいよ」


 クラリスの微笑みに、俺も自然と笑みがこぼれていた。


 ここまでお膳立てしてくれたんだ。今度は俺がクラリスのために何かしてやらないとな……。


「一人で立てそう?」

「なんとか……よっと……」


 全身の軋む感覚がさっきよりは収まっている。

 少しは動かせそうだ。


「あぁ、美味い飯が食いたいな……」

「そうね、今日は体を休ませた方がいいから、早めに終わりましょうか」

「それなら、エアリエルの町まで戻るか?」

「ビオリスがそうしたいなら、私は構わないわよ」


 少しは意見を言ってくれてもいいんだがな……。

 まぁ、そろそろ酒場に足を運びたい気分だったし、任せてくれる方が話が早い。


「んじゃ、チェンの酒場で肉でもどうだ?」

「さ、賛成!」


 ぱぁっと明るい笑顔を見せるクラリス。

 その表情を確認しつつ、俺は置いていた荷物を手に取った。

 美味い飯で素直に喜んでくれるなんて、やっぱり子どもらしい。


「な、なに?」

「ふふっ、嬉しそうだなと思ってな」

「そ、そんなことないわよっ!」

「ふっ……、そうかそうか」

「もー! 今、絶対子ども扱いしてるでしょ!」

「さぁな」


 ポーションの瓶は……置いていけばいいか。

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カクヨムの方が先に進んでいます!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

https://kakuyomu.jp/works/1177354054974837773
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