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001

 次の日の朝、ビオリスは一人でダンジョンへと来ていた。


 遠目に見ればイヌのようなモンスター。釣り上がった目つきにその眼光は赤く輝き、開いた口からは鋭い牙がうかがえる。腹を空かせているのか、その口端からは唾液が垂れ落ちていく。


 ほの暗いダンジョンの中、一方通行の洞窟。


 ビオリスはウルフの群れに囲まれていた。


 前と後ろに五体ずつ。統率のとれた位置取り。だが――――


「よっとな」


 手に持つ大剣の一振りで手前に居た一匹が洞窟の壁へと、その血肉をビシャリと張り付かせる。その場に残った体はダンジョンの地面へと溶け込んでいく。


『『『グルルゥォオ……』』』


 ウルフの群れが、ビオリスから遠ざかるように足元の砂利をこする。


「やっぱ、最初の階層じゃ手応えもねぇか」


 ブォンと風切り音を鳴らす大剣を肩に乗せる。


 初級冒険者……いや単独の中級冒険者でも、ウルフの群れに囲まれれば多少の焦りを抱いてしまう。


 ひっかきや噛みつきを前後左右から仕掛けられれば、無傷では済まされない。


 だが、ビオリスにはこれも慣れた光景、よく見た場面に過ぎなかった。


「さてと……」


 ビオリスが呼吸を整える。


 聞こえてきたその呼吸音を察知したウルフが背後から二匹、ビオリスの両足へと這い飛ぶ。


「前から、次は後ろから、少なくなってきたら全方位……張り合いがねぇなぁ」


 低く飛び込んできた二匹を右足のかかとで一蹴するビオリス。


 靴の底と周囲に仕込まれた鉄板が一匹のウルフの口端にめり込む。


 骨が砕ける音と共に、ぶつかり合う二匹がそのまま壁に打ち付けられる。


『クゥウン……』


 直接、蹴られずに済んだウルフの弱々しい声。


 その直後――――――


『ワゥーン!』

『『『ワゥーン!』』』


 周囲に居た一匹のウルフの鳴き声。その声に反応して周りのウルフも声を上げた。


 これはウルフが撤退する時の行動だった。


 明らかな実力差をモンスターに見せつければ、いくら知性が低いと言えども撤退はするらしい。


 五匹はその場から走り去り、壁に打ち付けられた二匹が置き去りにされた。


「……」


 ビオリスは無言のまま、ぴくぴくと痙攣と気絶を繰り返す二匹のそばに近寄る。


「今、楽にしてやる」


 振り下ろした大剣は二体の首を同時に切断した。


 頭部を繋げていた部分からは血しぶきが上がり、ダンジョンの壁や地面を染めていく。


「仲間を見捨てるのは、冒険者もモンスターも変わらない、か……」


 二匹の亡骸が地面へと溶け消えた後、ビオリスはそんなセリフを残していった。

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カクヨムの方が先に進んでいます!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

https://kakuyomu.jp/works/1177354054974837773
― 新着の感想 ―
[良い点] 8/8 ・鉄板すき。 [気になる点] 初級や中級と比較することで、ビオリスさんの度胸を演出できるわけですか。ふむふむ
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