004
「でもそれじゃ……混ぜるってどうやってやるんだ?」
俺は水の入った瓶を手にとって、水分を補給しつつクラリスに問いかけた。
「方法は色々あるけど、簡単なものだと口移し、か……なっ……⁉」
真っ赤に染まるクラリスの顔。
「自分で言いながら赤くなるなよ……」
「だ、だって……!」
「裸で添い寝とか馬乗りとか、頬にキスもできるのに……」
なぜ口移しというのが恥ずかしいのか……。
「ね、寝るときに裸なのはいつもだもの! そそ、それに……キ、キスなんて……口と口がなんて……」
クラリスが「はわわ……」と、両手で顔を隠す。
クラリスの恥ずかしがる基準が、俺には全然わからない……。
「うーん……まぁ、さすがにクラリスのファーストキスを貰うわけにもいかないしな」
「べ、別に初めてってわけじゃないわっ!」
「……なにっ⁉」
なん……だとっ……!
「なんでそんな険しい顔なのっ⁉」
「いや、すまん……。てっきり初めてはまだだと思ってたからな……」
嫌われている種族といっても、クラリスは金髪の美少女で見た目は満点……。
そこら辺の男共が放っておくわけがない。
くっ……、なんだか負けた気分だ……。
だがしかし、こんな可愛らしい美少女の唇を、誰が奪ったというのか。
「そ、それで……、初めての相手って誰なんだ?」
「そ、そんなこと言うわけないでしょっ……!」
「うーん……」
初級冒険者や中級冒険者じゃあるまいし……。
「――――ハッ! まさか、酒場のチェンに……⁉」
「あ、あんなロリコンなんて嫌よっ!」
「んじゃ一体誰なんだ」
真剣な眼差しでクラリスを見つめ続ける。
クラリスは目を右に左にと泳がしながら、その小さな口をパクパクさせていた。
「え、えっと……その……」
「誰なんだ、教えてくれ」
「そ、そんなこと……」
「このままじゃ、気になって集中できない」
クラリスの両肩を掴み、面と向かって見つめる。
「…………ま……」
「ま……?」
ま……リア……?
『ま』の頭文字でマリアが頭に思い浮かぶ。
マリアが怯えているところに、強気なクラリスが迫る感じに……。
それはそれでアリかもしれないが……。
「ハッキリ言ってくれ」
「ま、ママ……」
「ん……?」
「ま、ママよ……」
…………。
「ちょっと! 固まらないでよ!」
「え……いや、初めての相手がお母さん?」
「そ、そうよ……! なにか問題でもっ⁉」
相手が母親なら、実質ノーカウントだ。
なにも問題ない。
「それなら良かった良かった」
安心した俺は、自然とクラリスを撫でていた。
「ちょっと、なんで……このタイミングで撫でるのよぉ……」
抵抗しつつも、背中に生えている翼がパタパタとはためいている。
嬉しそうなので、少しの間撫で続ける。
「なんか安心したらつい、な」
「もう……、撫でてくれるのはいいけど、話が逸れてるわよ……」
「あれ、なんの話だったかな……」
「私の血を飲むか、それとも飲まないかっていう話よ」
ああ、そういえばそんな話をしていたような気がする。
クラリスの血を俺に混ぜる、か……。
「それで強くなるのなら、断る理由はないんだけどな。口移し以外になにかないのか?」
「他だと……、ビオリスの口の中を少しだけ切って、そこに私の血を流し込むとか、かな」
口移しが恥ずかしいなら、最初からそれでよかったのでは?




