001
クラリスとペンタグラムの宿屋に泊まり始めて、今日で一週間が過ぎようとしていた。
宿屋はベッドが二つある部屋を借りている。
宿屋にしてはありがたいことに、シャワールームも完備。クラリスとの特訓の汗を綺麗に洗い流すことができる。
この宿屋に関しては文句なしなのだが……。
クラリスと一緒の部屋で過ごす毎日。
俺とクラリスは別々のベッドで眠ることができるはず。
そのためにこの宿屋を寝床にしていると言ってもいい。
なのに、朝になれば俺の布団の中に潜り込んでいる少女が居る。
「なぁ、クラリス……」
「ん、んん……」
別のベッドで寝ていたクラリスが、なぜか俺の布団の中で丸まって寝息をたてている。
クラリスの年齢は俺より上かもしれないが、見た目は少女だ。
毎晩のようにその綺麗な柔肌を見せられたら、息子がいくつあっても足りなくなる。
一日目に至っては、クラリスが素っ裸で寝ようとして大変だった……。
なので、二日目からはとりあえず寝間着を、ペンタグラムで調達し着替えさせようとした。
「――――寝るときは裸の方が解放感があるの!」
と言うクラリスをなんとか説得し、今は白シャツに下着という状態までもってこれた。
これはこれで、男をそそるものがあるというのは、心の中だけに留めておく。
「んゃ……ビオ、リス……んん……」
寝ぼけながら、猫のようにすり寄ってくるクラリス。
その姿に思わず、俺の喉は「ごくり」と音を立てていた。
「……おーい、起きろー、朝だぞー」
布団の中で丸くなっているクラリスの頭を撫でつつ、優しく声をかけてみる。
「も、もうちょっと、だけ……あとちょっとだけ……」
ぎゅっとしがみついてくるクラリス。
「……」
今までずっと独りだった分、甘えたいのか。ここに来てから毎朝この調子だ。
「……」
布団を少しだけ上げて、クラリスの寝顔を確認。
時々、脇腹に角が刺さるのが難点だが、可愛い顔ですやすやと寝ている。
「すー……すー……」
「……」
よし。
可愛ければなんでもいいか。
こんな毎朝を送りつつ、今日も第七階層の岩に囲まれた場所にて、クラリスと特訓を続ける。
そこへ向かう道中、遭遇するモンスターたちを倒して――――――
第七階層では、階層全域が岩肌に囲まれたダンジョンになっている。
段差も多く、切り立った断崖から落ちれば確実に死ぬ。
第七階層のモンスター、イワトカゲに追いかけられ、足を滑らせた者も居る。
イワトカゲの体長はウルフとあまり変わらないが、岩壁を数匹で這いずり、鋭い牙で噛みつく。
イワトカゲには毒があり、解毒剤を所持せずに遭遇すると厳しい相手だ。
もう一体のモンスターは、この階層で気を付けなければならない、ベアウルフの大型。
紺色の毛並みは美しいのだが、バーサーカーの種族よりもはるかに大きい体格をもつ。
一振りの腕は冒険者を投げ飛ばし、尖った爪に当たれば皮膚が抉られる。
二足歩行でゆっくり歩いたかと思えば、急に四足歩行で冒険者を追いかけてくる、イヤらしいモンスターだ。
――――だが、AAA冒険者クラリスと元Sランク冒険者ビオリスの経験の前では、モンスターたちも狩られるだけの存在でしかない。
遭遇したイワトカゲの集団はクラリスの血の能力で串刺しに。
時々現れるベアウルフの大型は、ビオリスが撹乱してダメージを与えつつ、最後の一撃をクラリスが与える。
二人はずっと組んでいたかのように、鮮やかにモンスターたちを処理していった。
「ふぅ……、こんなものかしら」
「みたいだな」
今日もまた、手慣れた二人の前には、モンスターの死体が五つほど並ぶ。
「ビオリス、おつかれさま」
「ああ、クラリスもおつかれ。助かるよ」
「こちらこそ」
今日の宿代になる素材を回収。
その後、第七階層のメインの道から脇道に逸れて、岩壁に囲まれた小さな広場のような場所へと進む。
ここは第八階層へと続く道から外れているため、立ち寄る冒険者はほとんどいない。
皆無と言っていいだろう。
「こんな場所をよく知ってたわね」
「昔、ここでイワトカゲに囲まれて散々な目に遭ってな……」
苦い思い出だったが、クラリスと特訓するには丁度いい空間だ。
「んじゃ、今日も頼む」
「ええ、もちろん」
荷物を岩壁に置いて、クラリスと特訓を開始する。




