閑話「ギルド内のシャワールームにて」
ギルド内には、ダンジョンの警備から帰ってきた者たちのためにシャワールームが設置されている。
男と女、二手に分かれたその奥には、ビオリスと別れたアイシャとシズクが今まさにシャワーを浴びようとしていた。
八つに小分けされた簡易的なシャワールーム。その手前にあるベンチに座り、服を脱ぎ散らかすのは――――――――
「――――つっかれたぁぁぁああ……」
まるでおっさんのように言葉を吐き出し、だるそうな表情で装備や服を取り払っていくアイシャ。
「もー、一週間くら休み欲しい……」
愚痴をこぼしつつ、少しずつ脱いでいく。元々の布面積が少ないため、アイシャがぺたんこな胸を晒すのに時間はかからなかった。
「アイシャちゃん、お疲れさまだね……」
シズクはアイシャと違い、まだ服を脱ぐ準備をしている。和服を脱ぐのには、腰に巻いている帯を取らなければいけないようだ。
「シズクちゃんもだよー……。ふにゃぁ~……ほんっとに疲れたぁ……」
ここは女性専用のシャワールーム。そこにはアイシャとシズクの二人だけ。
アイシャが真っ裸でうんと伸びをしようと、見られて困ることもない。
「ふふっ、早くシャワー浴びて帰ろうね。よいしょっ……」
アイシャの横で、シズクが和服の帯を丁寧にたたむ。その隣では、長椅子の上に置かれたアイシャの衣服が散らばっていた。
「……」
アイシャはベンチに座ったまま、自分の手を両方の胸に当て、シズクの着替えを観察し始めた。
「じー……」
「あ、あの、アイシャちゃん……?」
肩から和服を下ろそうとしていたシズクが、なにかしらの危機感に動きを止める。
シズクの鎖骨から少し下に視線を下げれば、膨らむ丘が和服の間から目に映る。
「なんで、なんでこんなに違うの……」
そう呟くアイシャの目には、見えそうで見えないシズクの豊満な胸が……。
「むむむぅ……」
アイシャは眉を八の字にして、シズクの胸を凝視する。
身長はあまり変わらない二人。
なのに、なぜ、どうして、どうすれば、こんなにも胸のつき方が変わるのか……。
アイシャは疲労感よりも嫉妬のボルテージが上がっていく。
「早く脱いだらいいじゃんかー」
「ア、アイシャちゃん、そんなにまじまじと見られると脱ぎにくいよ……」
アイシャは全裸でベンチに腰かけたまま、口を「ム」の形にして、今か今かとシズクの脱衣を待つ。
「じー……」
「そ、そんなに見られると恥ずかしいよ……」
「いいじゃん、女の子同士だし、他に誰も居ないし」
「そ、それはそうなんだけど……、目がずっと胸ばっかりで……」
「ああもう! さっさと脱ぐのー!」
「え、えっ⁉」
シズクが手繰り寄せていた胸元の服を、アイシャが強引に引っ張った。
「ひゃうっ……」
スルリと片方の袖が抜け、半分脱がされたシズクが涙目に。
「ちょ、ちょっと待っ――――」
「ええいっ!」
引っ張られた勢いでシズクが回転し、辛うじて残っていた服は、見事にアイシャの一本釣りによって消え去った。
ふわりと宙を舞う和服が床へと着地を決め、アイシャがシズクの背後に立つ。
「はうぅ……」
身ぐるみを剥がされたシズクが、大事な部分を隠すようにその場にしゃがみこむ。
「……えっ」
「み、見ないでください……」
和服を脱ぎ去ったシズク。その一糸纏わぬ姿に、ひんむいたアイシャは焦っていた。
そう、文字通り「一糸纏わぬ」その姿。
「……な、なんで?」
「み、見ないでくださいっ……」
「そ、そんなこと言われても……」
アイシャ目の前には、透き通るような素肌と、綺麗に沿った背筋とくびれた腰。そして、美しくまとまった丸みを帯びた――――――――尻。
「下着を着けてないのはさすがにちょっと……」
全裸のアイシャが、全裸でうろたえているシズクに対して引いていた。
「こ、これには理由が……」
「前におっぱい触った時はちゃんと下着してたのに……シズクちゃんが露出魔だったなんて……」
「だ、だから違うのぉっ…………うぅ……」
羞恥心と今の状況に、シズクの目に涙がたまっていく。
一方で、アイシャは急にしおらしくなり、胸と下半身を手で隠した。
「わ、私、先にシャワー浴びるね……」
ぎこちない動きで、シズクの横を通り過ぎていくアイシャ。
「アイシャちゃん待って……!」
「ひゃうっ……!」
シズクが必死にアイシャの生足にしがみつく。
シズクが、
「これにはわけが……」
と言うが、アイシャも足に抱きつくシズクに慌てていた。
「は、放してよぉ……」
「アイシャちゃん、こ、これは和服の正式な着方なの……!」
「そ、そんなこと言われても……とにかく放してって……」
「アイシャちゃんがちゃんと分かってくれるまで放さないですっ……!」
脱衣所で、アイシャの太ももに絡みつくシズク。なんとかそれを阻止しようとアイシャも抵抗するのだが……。
アイシャの様子がおかしい。口を一文字の形にして、なにかに耐えているように見える。
「こ、こしょばい……こしょばいから……!」
太ももの付け根にシズクの髪が当たり、そのさわさわとした感触に、アイシャは小刻みに震えていた。
「こ、これが和服の正しい着方だって、アイシャちゃんが理解してくれるまで放さないですっ……!」
「わ、分かった! 分かったから!」
「いえ! その言い方は分かってない時の言い方ですっ!」
「もー! 放してって……ひゃうっ……」
そのあと、他のギルド職員が入ってくるまで、シズクはアイシャへとしがみついていた。
アイシャからシズクの「露出魔」の疑惑が消えたのは、一時間後のことだった。




